管理薬剤師(薬局長)などマネジメントに従事する薬剤師さんが読めないといけない財務諸表に損益計算書があります。
損益計算書(PL)についての解説はこちらにまとめています。
損益計算書を見る上で重要なのは、売上総利益率(粗利率)、販売管理費率、営業利益率というように、売上に占める割合(率)を把握することです。
自分の会社の指標だけでなく、業界平均はどれくらいなのか?また他の業種ではどれくらいなのか?ということも捉えておくことで大局的な視点を養えることができます。
今回は調剤薬局業界を代表するアインファーマシーズ、医薬品卸大手のメディセオ、製薬国内大手のアステラス製薬の2015年の損益計算書をもとに比較してみたいと思います。
売上総利益とは、売上から原価を引いたものです。
通称、粗利(あらり)ともいわれ、「100%-売上総利益率(%)」で原価率が算出されます。つまり、原価率が低いほど、売上総利益率は高くなります。
売上総利益率はアステラス製薬が73.29%、アインファーマシーズが15.41%、メディセオが7.02%で圧倒的に売上総利益率が高いのは製薬メーカーです。
なぜ製薬メーカーがこれほどまでに粗利率が高いのでしょうか?
製薬メーカーの粗利率が高い理由は、一度薬が上市されると、低い原価で大量に薬剤の生産ができるからです。莫大なコストがかかる研究開発費は「販売管理費」に分類されることもあり、粗利率は高くなります。
一方で最も粗利率が低いのは医薬品卸です。製薬メーカーから購入した薬剤を調剤薬局や病院などの医療機関に販売するビジネスモデルであることから売上の額は高くなりますが、売上総利益率は低くなります。
調剤薬局に関しては、医薬品卸から仕入れた薬剤を患者さんにお渡しする差額(薬価差益)に加え、調剤技術料などが上乗せされるため、医薬品卸に比べると、売上総利益率は高くなります。
一般的には医薬品卸<薬局<製薬メーカーの順で売上総利益率が高くなります。
販売管理費とは、人件費や家賃、光熱費、設備投資(減価償却費)、交際費、広告宣伝費、研究開発費などが挙げられます。
販売管理費率はアステラス製薬が36.28%、アインファーマシーズが9.32%、メディセオが5.88%と販売管理費率も製薬メーカーが圧倒的に高くなります。
なぜ、製薬メーカーはこれほど販売管理費率が高くなるのでしょうか?
医薬品業界で従事される方なら容易に想像できるかと思いますが、研究開発費に莫大な費用がかかるからです。アステラス製薬の場合、2015年の販売管理費の内、45%が研究開発費であり、販売管理費の半分近く占めることになります。
一方で、医薬品の研究開発のような莫大な費用を必要としない薬局や医薬品卸は製薬メーカーに比べ販売管理費率は低くなります。
営業利益率は売上総利益率-販売管理費率で算出され、本業の儲けをあらわします。
2015年の営業利益率はアステラス製薬が14.89%、アインファーマシーズが6.09%、メディセオが1.14%となっています。
こちらも比較的、製薬メーカーが高くなる傾向にあります。
営業利益から営業外収益(または費用)や特別利益(または損失)、法人税を差し引いたものが当期純利益となります。最終的に会社に残る利益となります。
この当期純利益から配当金が支払われたり、会社の将来のために利益準備金として積み立てられます。
当期純利益率も製薬メーカーが高くなる傾向にあります。
このように同じ医薬品業界でも製薬メーカー、医薬品卸、調剤薬局の事業構造によって利益率に大きな違いがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
医薬品卸の業界最大手でさえも営業利益率が1%台であることに驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。僕も医薬品卸業界の利益率を知ってから「卸さんへの無駄な急配は絶対にしない」と心に誓いました。
医薬品卸が調剤薬局を傘下に収めていく理由も財務諸表を見れば想像できると思います。グループ化するには本業より利益率が高く、かつ本業との相乗効果(シナジー)が見込める薬局が最適だからです。
このように薬局業界だけでなく医薬品業界全体の経営指標を掴むことで、大局的な視点を養うことができると考えています。
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