黒字倒産を防止するためにキャッシュフローを意識する【調剤薬局経営】

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

一般的にマネジメントの3つの視点は


モノ
お金

といわれています。

その中で今回は「お金の流れ=キャッシュフロー」に注目したいと思います。

処方箋枚数や技術料の目標はあっても「キャッシュフロー」について意識する機会はサラリーマンの場合は少ないのではないでしょうか。

しかし、店舗レベルでキャッシュフローを意識しなければ最悪「黒字倒産」に陥ってしまうことがあります

「黒字倒産」を防止するためにも薬局長が把握するべき「お金の流れ」について説明したいと思います。

薬局が黒字倒産する理由〜不渡りとは?

損益計算書上は黒字になっているにも関わらず、出て行くお金が入ってくるお金を上回る状態が続いた場合、

「黒字倒産」

となってしまいます。

黒字倒産の極端な例ですが、

仮にあなたが経営する薬局の銀行口座のキャッシュが「ゼロ円」の状態としましょう。

2ヶ月前の月間薬剤料が300万円、技術料が100万円だった場合、

調剤報酬400万円(薬剤料+技術料)が今月中に銀行口座に振り込まれます。

月間の人件費や家賃、光熱費などの販売管理費が月間80万円だとすると、技術料が100万円ですので薬局運営上は少なく見積もっても黒字といえるでしょう。

しかし、卸からの購入金額合計が350万円だったとしたらどうなるでしょうか?

入ってくるお金=400万円(100+300)
出て行くお金=430万円(80+350)

となり、卸さんへお金を支払えなくなります。

自身の報酬を抑えて捻出できるならいいのですが、銀行から借りるのはなかなか難しいでしょう。

このように期日までに支払いができなくなる状態を「不渡り」といい、半年間に2度不渡りが出てしまった場合、事実上は倒産となってしまいます。

しかし一度でも不渡りが出た場合、噂は他の卸さんにも流れますので、一斉に他の卸さんが取引を停止し、結果的に薬局の運営ができず極めて厳しい状態になってしまいます。

このように損益計算書上は黒字にも関わらずお金が支払えず倒産することを黒字倒産というのです。

自立支援や特定疾患などの公費の手続き中が多い場合は、調剤報酬が振り込まれる時期が遅れてしまいますので、より注意しなければいけません。

薬剤料がキャッシュフローの大部分を占める

調剤薬局において、売り上げ(調剤報酬)の大部分を占めるのが「薬剤料」です。

また支払いの大部分を占めるのも「薬」です。

つまりキャッシュフロー(現金の流れ)の中で大部分を占めるのが「薬」です。

その次に占めるのが「人件費」ですが、薬局長にとって、人(薬剤師・医療事務さん)のマネジメントと同じくらい、薬のマネジメントも重要な任務だと僕は考えています。

キャッシュフローの中で薬局長が把握するべき

月間処方薬剤料
月間購入金額

について説明したいと思います。

月間処方薬剤料を把握する

「月間処方薬剤料」

言葉の意味は皆さんおわかりだと思いますが、先生の薬局では月間どれくらいの薬が金額ベースで動いているか答えることはできますでしょうか?

技術料は把握していても、月に処方される薬剤料となると

「・・・・・?」

となるケースが多いです。

レセプトを請求し、2ヶ月後に調剤報酬が振り込まれます。
調剤報酬の中で、50%〜80%を占めるのが「薬剤料」です。

この薬剤料の中から各卸さんに支払うキャッシュ(現金)を捻出しなければいけません。

月間薬剤購入金額を把握する

「月間薬剤購入金額」

全ての卸から月にどれくらい薬を購入しているのか?
薬局長は把握しなければいけない数値です。月間薬剤購入金額は在庫管理ソフトから簡単に出すことができます。

卸さんへの支払いサイトはだいたいが2〜3ヶ月ですので、2〜3ヶ月後に支払える現金を用意しておかなければいけません。

月間薬剤購入金額と月間処方薬剤料を毎月チェックする

発注点をシステム化している薬局なら過剰発注になることは少ないと思いますが、全ての薬を箱が空いたら発注するというアバウトな方法だと月間薬剤購入金額が月間処方薬剤料を上回ってしまいます。

技術料でカバーできるならいいですが、理想は

月間処方薬剤料(薬価ベース)>月間薬剤購入金額

というように処方薬剤料として入るキャッシュの中から、薬を購入していくことを考えなければいけません。

オープン当時や、近隣に病院が出来たり院外に切り替えた場合は、一時的に月間薬剤購入金額が月間処方薬剤料の2倍、3倍になることはあるかと思います。

このような特殊なケースを除いて、薬剤購入金額が上回った月があったとしても、処方薬剤料(薬価ベース)の1.1〜1.3倍くらいまでに抑えるのがいいでしょう。

薬局経営者の懐事情を心配してくれる薬局長は頼もしい

経営者は孤独

よくこんなフレーズを聞くことがあると思いますが、経営者でも特に身内に相談しにくいのが「お金の悩み」です。

僕はインターネットの会社を運営していますが、同じ気持ちで会社の資金繰りを気にかけてくれるメンバーがいるととても頼もしく感じます。

薬局長が店舗レベルのキャッシュフローまで意識することができれば、経営者にとっては間違いなく頼もしい存在になるはずです。

会社の中でより信頼されるためにも、また将来薬局経営者になった時のための練習としても、店舗レベルでのキャッシュフローを意識することをオススメします。

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

2006年 京都薬科大学 薬学部卒。

調剤併設ドラッグストアのスギ薬局に新卒で入社。
調剤部門エリアマネージャーを経験後、名古屋商科大学院経営管理学修士課程にて2年間経営学を学び、経営管理学修士号(MBA)を取得。
2013年4月、シナジーファルマ株式会社を設立。
2013年8月、薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」をリリース。

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」は臨床で役立つ学術情報や求人広告を発信し月間24万PV(2023年6月時点)のアクセスが集まるメディアとして運営中。

薬局薬剤師としては、新規開業、継承に携わった経験、管理薬剤師としての経験を活かし、現在福岡県内でティーダ薬局を運営(管理薬剤師)。

1983年11月 岡山県倉敷市で生まれ、水の都である愛媛県西条市で育つ。
大学より京都・大阪で14年間、沖縄Iターン特集立ち上げのため沖縄県で4年間暮らし、現在は福岡県民。
二児の父親。

当面の目標は、
「息子の成長スピードに負けないこと」

座右の銘は、
「まくとぅそうけい なんくるないさ」
=「誠実に心をこめて精進していれば、なんとかなる!!」

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