「へマンジオルシロップって?プロプラノロールなの?」
「適応は?」
「どう調剤したらいいの?」
急に薬局に、赤ちゃんの患者のプロプラノロールシロップの処方箋が来たら、焦りますよね。
プロプラノロールといえば、まさにβ遮断薬の代表のような薬で、高血圧、心疾患、不整脈の薬として有名ですね。
それが今、乳児血管腫(いちご状血管腫)の治療薬として小児に使われ始めています。
このシロップの処方の場合、高血圧や心疾患での処方ではなく、乳児血管腫が適用であることに注意しましょう。
調剤業務で普段使うような薬学辞典(筆者の場合、Pocket Drugs2018)では、用法しか書かれていないこともあるので、調べたことを述べます。
赤あざの一種で、皮膚の表面や内蔵にできる原因不明の疾患です。
未熟な毛細血管が増殖してあらわれる良性の腫瘍で、見た目がいちごのようであるので、いちご状血管腫と一般的に呼ばれています。
読者の中にも、赤ちゃんや小さい子供のお顔に、赤いぷっくりとした膨らみがあるのを見かけた方もいるのではないかと思います。
希少疾病のくくりに入っていますが、乳幼児に高い頻度でみられると、ガイドラインにも記載があります。
乳児血管腫(いちご状血管腫)は乳児期で最も頻度の高い腫瘍の一つで、人種を問わず女
児、また早期産児・低出生体重児に多い。発生頻度には人種差が存在し、白人での発症は 2
〜12%、日本人での発症は 0.8〜1.7%とされている。男:女比 1 : 3〜9引用元 血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017
生後3週間頃から現れ、2歳ごろまでをピークに大きくなっていく場合があり、90%以上はその後、数年かけて徐々に自然に消えます。(自然消退)
しかし、あと(瘢痕)が残ったり、皮が伸びてしまったり、皮膚に色が残ったり、皮膚の色が脱失したりすることがあります。 部位によっては、大きくなる前に治療しないと、血管腫の膨らみで喉などが圧迫されることがあります。(機能障害)
自然消退に任せて、治療しない場合もあります。(経過観察)
また、患者の病変の時期や、患部の位置や大きさによっては、プロプラノロールシロップの内服ではなく、レーザー照射治療を定期的に行うことがあります。
何れにせよ、患者個々の状況の判断が重要になるので、専門医の診察が必要です。
従来は、いちご状血管腫は、治療しないか、レーザー照射治療が主に行われてきましたが、2016年にヘマンジオルシロップ(プロプラノロールシロップ)が適応になりました。
フランスで、医師が心疾患のある乳児にプロプラノロールを使用した際、乳児血管腫(いちご状血管腫)が短期間で消えていくことにより、偶然、効き目が発見された経緯があります。
作用機序は明確ではありませんが、プロプラノロールの下記の作用が関与していると考えられています。
詳細が気になる方はインタビューフォームの「薬効薬理に関する項目」をお読みください。
初回の服用時には、専門医のもとで入院観察をします。
その後、家で定期的に保護者が患者に服用させることになるので、調剤薬局に来店することになります。
乳児血管腫(いちご状血管腫)に対してプロプラノロール内服療法は安全で有効なのでしょうか。
慎重な観察の下に投与されるのであれば、プロプラノロール内服療法は乳児血管腫に対し第一選択となる可能性のある薬剤であり、行うことを強く推奨する、とあります(1)。
服用開始や服用する時期が早期に限られています。(原則として生後5週以上の増殖期)
その時期は、産後で忙しいので、詳しい情報を得ないまま、時間が過ぎている親子もいます。
へマンジオルシロップの調剤のために訪れた患者だけでなく、
もし、普段の業務中に、いちご状血管腫の疑いのある患者(赤ちゃん)を連れた保護者が来られた場合には、
「主治医に相談していますか?」
「主治医から専門医に紹介してもらうこともできますよ。」
などの声かけがあったほうがいいでしょう。
患者によっては、大きな総合病院や専門病院に行くのに、紹介状が必要と知らない人もいます。
患者が速やかに専門医(皮膚科、形成外科、場合によっては小児科、放射線科)に相談できるように、主治医や近医に診てもらい、紹介状を頼むことを勧めるといいでしょう。
ヘマンジオルシロップは体重により徐々に増やしていく薬です。
【用法・用量】
通常、プロプラノロールとして1日1mg/kg〜3mg/kgを2回に分け、空腹時を避けて経口投与する。投与は1日1mg/kgから開始し、2日以上の間隔をあけて1mg/kgずつ増量し、1日3mg/kgで維持するが、患者の状態に応じて適宜減量する。引用元 ヘマンジオルシロップ小児用添付文書
販売元のマルホの情報には、
維持投与期では、投与日数によって本剤を瓶包装品のまま交付できる場合があります。
可能な場合は、瓶包装品のまま交付していただくようお願いします。
とあるので、
なるべく、患者には、小分けせず、瓶で渡せるような処方に医師にしてもらうのがよいでしょう。
調剤する上で、便利な計算式と一覧表がマルホのWEBサイトに載っています。
普段のプロプラノロールの投薬時の注意点を応用することができます。
主な禁忌例を挙げますと、気管支喘息、気管支痙攣、低血糖のある患者には禁忌です。
また、低血糖を起こすおそれがあるため、空腹時の投与を避け、授乳中・食事中又は直後に投与すること。
食事をしていない、又は嘔吐している場合は投与しないこと。
と添付文書に記載があります。
主な服薬指導での注意点です。
前提として、赤ちゃんは吐き戻しが多いです。
詳しくははマルホの服薬指導の注意を参照ください。
シロップの飲ませ方については、保護者にこちらのマルホの飲ませ方の動画を見せるといいでしょう。
瓶は振らないことがポイントです。
この薬の服用時期の性質上、患者は、母乳またはミルクを飲んでいる時期がほとんどだと思われます。
ヘマンジオルシロップは併用注意薬が存在しますので、薬剤師としては、授乳者が薬を服用した場合は、ヘマンジオルシロップの併用注意欄を確認しなければいけません。
併用注意薬を服用している母親には、
「お母さんが服用した薬が母乳に移行し、赤ちゃんが服用したヘマンジオルシロップと相互作用を起こす可能性がある」
と伝えてください。
また母親が薬を服用する場合には、お子さんがヘマンジオルシロップを服用していることを医師に相談するように勧めましょう。
レーザー照射治療について少し述べます。
レーザーの言葉だけ聞くと、簡単そうな印象を受けるかもしれませんが、痛みや恐怖を伴い、赤ちゃんの患者であっても大暴れして、大人、数人がかりで押さえつけないといけません。
また、1回で効果があるのではなく、何回も、何年も繰り返しの治療が続きます。
レーザーの照射のために入院して全身麻酔をすることもあります。
入院前には術前準備の検査のために、通院も強いられます。
また、レーザー照射後には、患部が傷つくので、お風呂の水がしみたり、患部の部位によっては食べ物やミルクがしみたりして、日常生活で保護者が苦労することが多々あります。
患部に軟膏を毎日塗ったり、患部のガーゼを取り替える場合もあります。
2016年に内服薬が登場し、保護者としては、飲み薬で済ませられるなら、飲ませたいという希望も今後増えていくと思います。
薬剤師目線でプロプラノロールのことを考えると、心臓に作用する薬であることから、決して気軽に服用できる薬ではなく、注意点の多い薬です。
患者には十分な説明と定期的なフォローが求められる薬であるので、マルホの保護者用印刷物を活用しましょう。
定期的に調剤をする上でも、患者や保護者の治療背景や、風邪などの体調変化の有無、服薬状況、母親の併用薬の有無にも薬剤師は配慮する必要があると考えられます。
参考文献
(1)平成26‐28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班:血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017, 第2版, 2017年3月より改変
(2)マルホ ヘマンジオルシロップ小児用0.375% 患者向け、医療従事者向け、製品情報HP
(3)はじめてママ&パパの病気とホームケア 監修 渋谷紀子 総合母子保健センター愛育クリニック 小児科部長
(4)ヘマンジオルシロップ 添付文書
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