こんにちは。
健康食品の話題を担当しているエビデンスエージェントの工藤知也です。
食品は体に良い影響を及ぼすばかりではありませんね。
「食育」が市民権を得た理由を考えるとき、
これまで築いてきた食生活の中には、食品の3機能(栄養・嗜好・生体調節)を発揮するだけではなく、食品の「負」の部分を最小化する工夫に気づくのではないでしょうか。
日本人の食生活は、戦後に欧米の文化を取り入れて大きく変わりました。
食品機能から考えれば栄養や嗜好に優れた食品が食卓に登場する一方で、 それまで続けてきた食生活を失うことになりました。
そこで今回は、食生活の変化とともに生じた食の「負」の部分に注目します。
「毎日摂取するような食品が、健康に害を及ぼしている。」
それが、Ⅰ型アレルギーとは異なるメカニズムで起こっているとしたら、
食生活を考え直すことになるに違いありません。
ある診察室の一コマを想像してみましょう。
患者:「最近、何となく体調がすぐれずに困っています。ちょっとお腹の調子が悪くて、気分が優れず何もやる気がでません。」
医師:「どこも悪いところは無いみたいだけど。ストレスかもしれないな。少し仕事をセーブして、睡眠をしっかりとるように。」
過労や寝不足を防ぐことは大切なことです。
しかし、この患者の場合、症状は一進一退で改善の兆しを見ません。
それもそのはず、原因が食べ物に関係していたのです。
人類の歴史を遡って、その食材の始まりに関心を寄せると、
食に対する考え方が変わるかもしれません。
その例として、小麦について考えてみます。
今から50万年前、私たちの祖先にあたる原人が誕生しました。
現代人の食生活に欠かせない小麦ですが、50万年前には食用ではありませんでした。
実は、小麦が食生活に入ってきたのは1万2千年ほど前のことなのです。
これをつい最近と呼ぶには、いささか抵抗がありますが、
人類史50万年の歴史からみれば小麦の誕生などつい最近のことなどかもしれません。
これより、欧米の研究者が小麦を摂ることに適応できないヒトの存在を示唆しています。
私が幼い頃(今から30年以上前)では、朝食は米中心でしたが、
今ではパン食5割といった具合に食生活が急速に変化しています。
生き物は環境に適応する能力を持っていますが、
数十年での急激な食生活の変化に体が対応できないことがあっても不思議ではありません。
これまで、小麦が原因となる病気には2つのタイプが知られていました。
2つとも大きな枠でくくれば「アレルギー」ということになります。
アレルギーという言葉は、患者さんとの会話にも登場するので珍しい言葉ではないと思いますが、「免疫が過剰に進んだ状態」のことを指しますね。
免疫とは、体を細菌、ウイルス、癌などの外敵から身を守る仕組みのことでした。
つまり、小麦を外敵とみなしているわけです。
小麦が原因の病気とは、「小麦アレルギー(WA)」と「セリアック病(CD)」の2種です。
アレルギーは、仕組みに基づいて4つに大別できました。
WAは、Ⅰ型のアレルギーで、症状が現れるまでの時間は数分から数時間。
花粉症もⅠ型のアレルギーです。
CDは、Ⅳ型のアレルギーで、症状が現れるまでの時間は数日間から数週間になります。
詳細は置いておいて、
ここではWAとCDは全く違う病気であることを理解しておきましょう。
さて、ここではCDに注目します。
このCDは、1型アレルギーと比べて症状が現れるまでの時間が遅く、
かつ、症状の種類が以下のように多様であることが特徴です[1]。
消化器系では、腹部膨満・下痢・便秘・腹痛・吐き気・嘔吐・痔。
それら以外の症状では、何となく気分が優れない・抑うつ・疲労感・関節痛・しびれ・平衡感覚を失う・湿疹・不規則な体重変動・頭痛。
これらの症状があり、
グルテンフリー食品(グルテンは小麦が生成するタンパク質の1種)を取り入れると症状が改善する方はCDの可能性があるわけです。
ところが調査を進めると、
症状を満たすもののCDの他の診断基準を満たさない症例が2007年頃から明らかになってきます。
そして、2012年に非セリアックグルテン過敏症(Nonceliac Gluten Sensitivity: NCGS)という新たな病名が誕生しました。
WAやCDは、血液検査によって診断することが可能です。
しかし、NCGSは、CDの除外症例であり、血液検査によって診断できません。
そこで欧米の研究者は、
原因がはっきりしないとして我慢しているNCGSの患者さんが相当な数に上ることを指摘しています。
また、日本でもNCGSの重要性について注目している医師がいます。
それでは、NCGSの患者数が知りたいですね。
ポーランドのCzaja-Bulsaは、CDやWAより多く、
人口の0.63%から6%にのぼるのではないかと述べています[2]。
日本の人口が約1億2800万人なので、
1%で見積もっても、潜在的な患者数を128万人と推定できます。
また、イタリアの内科医Carroccioらは、
過敏性腸症候群(IBS)患者の30%がNCGSであることを報告しています[3]。
ちなみに、日本のIBS患者数は1200万人(成人における有病率が12.5%)です。
さらに、NCGSには性別や年齢に特徴があり、
女性:男性比が5.4:1で平均年齢が38歳との報告があります[4]。
今回は、小麦を例にあげながら、「食」の負の部分に注目しました。
ここで一つ確認しておきたいことは、
「小麦が悪いわけではありません!」ということです。
適切な食生活には個人により違いがあり、
「食」の負の部分を最小化していくことが健康につながることを踏まえて、
今後の自身の食生活を考えていきたいものです。
(参考文献)
1.Nonceliac gluten sensitivity.
Mayo Clin Proc. 2015 Sep; 90(9):1272-1277. [PMID: 26355401]
2.Non coeliac gluten sensitivity – A new disease with gluten intolerance.
Clin Nutr. 2015; 34:189-194. [PMID: 25245857]
3.Non-celiac wheat sensitivity diagnosed by double-blind placebo-controlled challenge: exploring a new clinical entity.
Am J Gastroenterol. 2012; 107(12):1898-1906. [PMID: 22825366]
4.An Italian prospective multicenter survey on patients suspected of having non-celiac gluten sensitivity.
BMC Med. 2014 May; 12:85. [PMID: 24885375]
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