妊婦加算を考える

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もも

薬剤師

H30年の診療報酬改定から「妊婦加算」が新設されました。
記憶に新しい方もいるかと思います。

しかし、この「妊婦加算」ですが、H31年1月から「凍結」状態となっています。
なぜこのようなことになったのでしょうか。
一緒に考えてみたいと思います。

妊婦加算とは

妊婦の治療には、母体だけでなく胎児にも特別な配慮が必要なため、使用できる薬や治療内容が異なってきます。
そのため、診療を避けたがる医師・医療機関があったことも事実です。

加算をつけることで妊婦の受け入れを促し、また、特別な配慮が必要であるため、そのような「丁寧な診療」への評価として新設された加算が妊婦加算です。

外来における妊婦加算の新設
妊婦の外来診療について、妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療を評価する観点から、初診料等において、妊婦に対して診療を行った場合に算定する妊婦加算を新設する。
初診料       
(新) 妊婦加算(時間外/休日/深夜) 75点(200点/365点/695点) 等
再診料・外来診察料
(新) 妊婦加算(時間外/休日/深夜) 38点(135点/260点/590点) 等

引用元 厚生労働省ホームページ

基本的に妊婦健診や分娩にかかる医療費は自費であるため、妊婦加算の対象にはなりません。
しかし、妊婦が他の病気で受診した場合は妊婦加算の対象となり、妊婦の負担が増えることになります。
3割負担の場合、初診では約230円、再診では約110円の自己負担金となります。

妊婦加算による問題点

 

この前皮膚科行ったらお会計呼ばれて、
「あれ、妊娠中ですか?ならお会計変わります」
とか言われて会計高くなったのウケる。
妊婦加算だとさ。

妊婦加算は、上記のツイッターでの投稿が問題となり、「妊婦いじめだ」、「妊婦税」等の批判の声が上がりました。

妊婦加算について国民への周知が十分でなかったため、受診時やお会計時に初めて妊婦加算を知った方が多かったそうです。
そのため、妊婦加算の理解が不十分なまま、批判へとつながってしまいました。

皆さんは、妊婦加算についてどのように考えるでしょうか。

妊婦加算が新設されたとき、私個人としては、妊娠していることを伏せて受診する方がでた場合、胎児に使用できない薬が処方される可能性があるのではと懸念していました。

ツイッターの発信をきっかけにこの妊婦加算は広く知られましたが、同時に問題点も浮上しました。

  • どんな患者にも細心の注意を払うことは必要である。なぜ妊婦だけ負担を増やすのか。
  • 「丁寧な診療」を実感できていないのに、負担だけが増えた。
  • 妊娠前後は収入が減り支出は増えるのに、より経済的負担が増える。
  • 経済的に厳しい世帯が妊娠を避けるようになり、少子化に拍車がかかる。

などの不満が相次ぎ、厚生労働省はH31年1月より、妊婦加算の「凍結」を決めました。

もともとは妊婦と胎児が安心して治療を受けられるように新設された制度のはずです。
「凍結」せずに解決する方法はなかったのでしょうか。

妊婦加算を理解してもらうために

① 周知の必要性

妊婦加算の周知を目的に、厚生労働省はリーフレットを配布しています。
しかし、あまり認知されていない現状です。病院やクリニックを受診し、明細書を見て初めて妊婦加算を知る方もいると思います。
妊婦加算の必要性を十分に理解してもらえれば、負担は増えるけれども、ここまでの批判の声は上がらなかったのではと思います。

② 加算対象

妊婦加算は、通常の分娩にかかる費用に関しては算定されませんが、その他の疾患で受診した場合に算定されます。
例えば、コンタクトをもらいに眼科を受診する場合等も算定の対象となります。
「薬をもらっているわけではないのにどうして」と、思う方もいるかもしれません。
算定対象を明確化することも必要なのではないでしょうか。

③ 国の支援体制

妊婦加算は、妊婦の自己負担が増えます。
そのため、負担増加を嫌がり、妊娠したくないと考える女性が増え、少子化が深刻化するとの声があります。
日本は現在、様々な少子化対策を行っており、地域で周産期を支える体制を整えています。
例えば、妊婦の負担分を国が助成することはできないのでしょうか。
そうすれば、妊娠しても経済面を気にせず、本来受けるべき治療を安心して受けられるようになると思います。

妊婦が安心して医療を受けられるようにと願いを込めて新設されたにもかかわらず、わずか9カ月で「凍結」されてしまった妊婦加算。
医療機関と国民が納得できるような制度となることを祈るばかりです。

この記事を書いた人

もも

薬剤師

明治薬科大学 薬学部卒

都内薬学部を卒業後、総合病院に勤務し、DI業務を経験。医療現場のニーズに応えられるように日々精進し、情報を収集・発信中。
臨床の薬剤師のために、そして患者さんのために!

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