抗がん薬の副作用と聞いて、
「悪心・嘔吐」を思い浮かべる薬剤師も多いと思います。
一度ひどい嘔気・嘔吐を経験してしまうと、化学療法を行うことに不安を覚え治療にも悪影響がでてしまうことから、制吐薬を用いた悪心・嘔吐のコントロールが極めて重要です。
では、抗がん薬の投与の際に、制吐薬をどのようなスケジュールで投与すればよいのでしょうか。
制吐薬適正使用ガイドライン2015では、各抗がん薬は4つの催吐リスクに分類され、分類に合わせて制吐薬の投与スケジュールが定められています。
医療機関では化学療法毎にレジメンを作成しており、制吐薬はガイドラインを参考にレジメンに組み込まれています。
各抗がん薬の催吐リスク分類と、必要な制吐薬を薬剤師が把握しておくことで、患者さんの支持療法が適切かどうかの評価ができ、また、制吐薬を使用しているのに効果不十分であった場合には医師に処方の提案を行うことができます。
抗がん薬の催吐リスク分類と制吐薬適正使用ガイドラインについてお伝えしたいと思います。
化学療法で誘発される悪心・嘔吐の発現頻度は使用する抗がん剤の催吐性に大きく影響されます。
制吐薬適正使用ガイドライン20151)では、制吐薬の予防的投与なしで各種抗がん薬投与後24時間以内に発現する悪心・嘔吐(急性の悪心・嘔吐)の割合(%)で4つに分類されます。
※抗がん薬投与24時間以内に発現する場合の悪心・嘔吐を急性、24時間以降に発現する場合を遅発性としています。
1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | |
アプレピタント(mg) | 125 | 80 | 80 | ||
5-HT3受容体拮抗薬 | ○ | ||||
デキサメタゾン(mg) | 9.9 | 8 | 8 | 8 |
※アプレピタントはCYP3A4阻害作用をもち、デキサメタゾンのAUCを約2倍にする。
※デキサメタゾンは1日目は注射薬、2日目以降は経口薬。
1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | |
5-HT3受容体拮抗薬 | ○ | ||||
デキサメタゾン(mg) | 9.9 | 8 | 8 | (8) |
※デキサメタゾンを積極的に利用できない場合は5-HT3受容体拮抗薬を追加する。
※デキサメタゾンは1日目は注射薬、2日目以降は経口薬。
※()は症状や既往により調節可能、症状に合わせて投与。
1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | |
アプレピタント(mg) | 125 | 80 | 80 | ||
5-HT3受容体拮抗薬 | ○ | ||||
デキサメタゾン(mg) (代替用量) |
4.95 (3.3) |
(4) | (4) | (4) |
※アプレピタントはCYP3A4阻害作用をもち、デキサメタゾンのAUCを約2倍にする。
※デキサメタゾンを積極的に利用できない場合は5-HT3受容体拮抗薬を追加する。
※デキサメタゾンは1日目は注射薬、2日目以降は経口薬。
※()は症状や既往により調節可能、症状に合わせて投与。
1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | |
デキサメタゾン(mg) (代替用量) |
6.6 (3.3) |
通常、予防的な制吐薬の使用は推奨されない。
XELOX療法(カペシタビン:Cape/オキサリプラチン:L-OHP)XELOX療法では、カペシタビンが軽度催吐性リスク、オキサリプラチンが中等度催吐性リスクであるため、レジメン全体としての催吐性リスクは中等度となります。
したがって、
制吐薬適正使用ガイドラインの中等度催吐性リスクの支持療法に基づいて内容を検討します。
本症例は、既往に糖尿病がある患者さんであったため、初日のデキサメタゾン注は6.6mg/日、2日目・3日目はデキサメタゾン8mg/日の内服と、少しですがデキサメタゾンを減量して開始しました。
1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | |
グラニセトロン注1mg | ○ | ||||
デキサメタゾン(mg) | 6.6 | 8 | 8 |
しかし、4日目・5日目に嘔気が見られ、たまに吐きそうになるとの訴えがありました。
遅発性嘔吐を軽減するため、支持療法を見直す必要があると考えられました。
ステロイド量を増やすことも選択肢としてはありましたが、糖尿病を悪化させたくなかったこともあり、高度催吐性リスクの支持療法に倣ってアプレピタント内服を追加投与するか、グラニセトロン注を遅発性嘔吐に有効なパロノセトロン注に変更するか等の選択肢が残りました。
コンプライアンス良好な患者さんであったため、医師と相談し、2日目・3日目のデキサメタゾンとともに内服可能であったアプレピタントを追加することとなりました。
2サイクル以降、患者さんに吐き気は見られず、化学療法を継続することができました。
上記症例は制吐薬を追加することで嘔気・嘔吐を軽減することができましたが、難渋するケースもあります。
例えば膵臓がんでは膵臓の機能が十分でなく、血糖コントロールのためにインスリンを使用されている方もいます。
そこにステロイドを使用することがあるので、血糖コントロールがうまくいかなくなる場合もあります。
また、嘔気・嘔吐の患者関連因子としては、年齢や性別、飲酒習慣が知られており、女性・若年である場合は悪心・嘔吐の発現頻度がより高いとされています。
レジメンや既往、性別、年齢等、患者毎に支持療法は異なってきます。
一度ひどい嘔気・嘔吐を経験してしまうと、化学療法を行うことに不安を覚え、次回の治療を受ける前から嘔気・嘔吐が出現する患者さんもいます。
これでは、患者さんに心理的な負担を強いるだけでなく、治療の継続も難しくなってしまいます。
患者さんが治療を継続できなくなるような悪心・嘔吐は決して経験させてはいけません。
患者さんが安心して治療に専念できるように、個々の病態を考えた支持療法を行っていきたいと思います。
参考
1)制吐薬適正使用ガイドライン2015
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