こんにちは。
メディカルライターのリナです。
日々、どんどん新しい薬が発売され、それと同時に薬剤師は自分の知識も更新していかなくてはなりません。
その一方で、昔から根強い人気の薬を中々勉強する機会が少ないのが事実です。
今回は、私がドラッグストアで働いている中で、特によくお客さんが利用されていたロングセラー薬をご紹介します。
まずは
先日、後輩と一緒に売り場にいた時にお客さんから
「疳の虫(かんのむし)の薬ありますか?」
と聞かれ、カウンセリングし、お客さんを見送った後にジェネレーションギャップを感じた一言。
後輩:「この薬って・・・・駆虫薬ですか?」
「東の宇津救命丸・西の樋屋奇応丸」と呼ばれるこれらの薬は、どちらも小児の神経質・癇癪(かんしゃく)・夜泣き・引きつけ等に使われる薬です。
東日本では宇津救命丸、西日本では樋屋奇応丸が流通しています。
今では疳の虫という言葉はあまり使われなくなっていますが、少し前までは子供の「異常なくずり」、いわゆる「ギャン泣き」は疳の虫という糸のような虫が体内にいて、その虫が悪さをして癇癪などが引き起こしていると考えられていました。
本来、「疳の虫」とは本当の虫を意味するわけではなく、3歳までの乳児に起こる異常行動(夜泣き・癇癪など)を指していう俗称で西洋学的にいうと「小児神経症」に当たります。
ただし、決して病気ではなく、小さい子供は身体・精神的にとてもデリケートで、環境や気候、食事などの変化によって器官(五臓・・・肝・心・脾・肺・腎)のバランスが崩れ、精神的症状が現れてしまうだけで、成長するにつれて治っていきます。
ですが、あまりにも夜泣きがひどく、ご両親の睡眠不足が続き、精神的にも参ってしまうようであれば受診をお勧めします。
処方としては「抑肝散」「桂枝加竜骨牡蠣湯」「甘麦大棗湯」など体質と症状に応じて漢方が出されることが多いでしょう。
ちなみに以前は、虫封じと言って、真偽の程は定かではありませんがお寺や神社などで祈祷やおまじないで「疳の虫」を退治してくれるところがありました。
現在でもたまに行っているところをみかけます。
そうしたところでは神主さんや祈祷師さんとのご両親のカウンセリングもお子さんの疳の虫の治療に一役買っていたのではないかと思います。
ご両親のピリピリした気持ちはどうしてもお子さんに伝わってしまい、精神症状が悪化するという負の無限ループに陥ってしまうからです。
ですから、OTCを売るにしても処方薬を出すにしても、私たち薬剤師もご両親のお話をよく聞くことが大切です。
また、この2つの薬は五疳薬(読み方:ごかんやく)とも呼ばれ、五臓のバランス(心身のバランス)を整えてくれるため、バランスが崩れて生じた、風邪や消化器症状、大人のイライラなどにも使用できるのです。
ですから、もしお子さんの疳の虫に対して飲ませようとするのでしたら、ご両親も一緒に飲むことをお勧めしています。
黄色の箱でタコの絵が特徴のたこの吸出し(吸出し青膏)。
有効成分は硫酸銅とサリチル酸。
軟膏の色は青緑色で、腐蝕作用のある硫酸銅と角質軟化作用のあるサリチル酸によって、皮膚の一部をとかして、皮膚の中の膿を取り出すという粉瘤治療薬です。
人によって「たこ吸い」や「たこさん」と呼んだりもします。
刺激性も強いため、アレルギーや副作用などを考慮すると、粉瘤に対して初めて使う場合は皮膚科への受診勧奨をおこないましょう。
特にめんちょうや、顔にできたニキビに使おうとする方が稀にいらっしゃいますが、顔への使用は悪化や、皮膚に穴が開いて膿が出た後に傷が残ってしまう可能性が高いので、自分で対処することはやめるようにお勧めしています。
参考サイト
家庭薬協会|たこの吸い出し
100年を越すロングセラー薬となっている今治水は「いま なをる はぐすり」として親しまれ、途中何度か改良され現在の「新今治水」となりました。
用途は歯痛で主成分はチョウジ油、フェノール、dl-カンフル、ジフェンヒドラミン塩酸塩・ジブカイン塩酸塩などの鎮痛・抗炎症・局所麻酔成分となります。
付属のピンセットを使って綿球に染み込ませ、虫歯の穴に押し込んで使います。
また同じく、長い歴史を持つ下痢止めとして有名な正露丸も、実は虫歯による歯痛に使われます。
この際は内服するのではなく、適量を虫歯の穴に詰めて使用します。
主成分の日局木(もく)クレオソートが、鎮痛作用、消毒作用を示すとされることによる使用方法です。
ちなみに糖衣錠は歯痛の効能・効果は取得していません。
ただし、いずれもすぐに歯医者に行けない時の一時的な対処療法であって、歯科医で適切な虫歯治療を行うことが必須です。
痛みがある時は
は避けて、今治水・正露丸を使う以外に他の鎮痛剤を服用する、口をゆすいで患部を清潔に保つ、口の周りを冷やす、などの対処法があります。
参考サイト
日本家庭薬協会|新今治水
日本家庭薬協会|正露丸
キンカンは今でも使われることが多い薬。
成分表を見ると「アンモニア水、L-メントール、d-カンフル、サリチル酸、トウガラシチンキ」と、かゆみ止めの成分として一般的な抗炎症、抗ヒスタミン、ステロイドなどの成分は実は含まれていません。
荒っぽく言えば、かゆみを止める働きは「様々な刺激によって患部の神経を麻痺させる」ことによります。
アンモニアやメントールは揮発する際に、塗った部分の熱を取り、瞬間的に冷却する効果があるため、患部に一時的な麻痺状態が起こり虫刺されなどの痛み・痒みが消えたように感じるのです。
従って、大きな腫れを伴うような虫刺されには、ステロイド剤の入った外用薬を使用することが推奨されます。
また、トウガラシチンキは温感刺激を与え、サリチル酸は局所麻酔作用を発揮します。
こうした様々な刺激が相乗効果を生んで「神経を麻痺させる」といった作用となるのです。
虫刺され以外にもキンカンは肩こり・筋肉痛・打撲・捻挫などに使われます。
これも「神経を麻痺させる」という作用に基づくものなのです。
参考サイト
キンカン(金冠堂)
今回書いた内容はロングセラー薬のほんの一部ですが豆知識として知っていると、幅広い世代・ケースに対応できるので薬剤師として信用してもらいやすいと思います。
ちなみに、薬ではないのですが、年配のお客さんから「サビオある?」と言われることが私の住んでいた地域でよくありました。
サビオ=絆創膏・カットバン・キズバン・バンドエイド・リバテープです。
絆創膏に方言があったとは知らず、新入社員の頃に慌てた記憶があります。
他にも西日本で使われる「赤マムシ膏(切り傷、あかぎれ、水虫等)」や東北地方で飲まれる「塩釜さふらん湯(冷え性、月経不順、不眠等)」など、ロングセラー薬は地域によっても異なります。
興味があれば調べてみても面白いかもしれません。
今回は日本で昔から使われる薬について書いてみました。
楽しく読んでいただけたら光栄です。
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」のFacebookページに「いいね!」をすると、薬剤師が現場で活躍するために役立つ情報を受け取ることができます。ぜひ「いいね!」をよろしくお願いします。
お客様により安全にご利用いただけるように、SSLでの暗号化通信で秘匿性を高めています。
コメント欄ご利用についてのお願い
※コメントはサイト管理者の承認後に公開されます