授乳中の患者さんへの服薬指導の失敗例

妊婦・授乳婦への薬物治療、服薬指導はとてもナーバスな問題です。


授乳中なのですが、母乳をあげても大丈夫でしょうか?

 


妊娠しています。この薬は赤ちゃんに影響ありますか?

と服薬指導中に聞かれてドキッとしたことがある方もいるのではないでしょうか。

授乳婦に薬が処方された場合の対応としては、

  • 断乳
  • 薬を服用しながら授乳継続
  • 薬を服用している期間は母乳をお休みし、人工ミルクで対応

などが考えられます。
皆さんは、どのように対応していますか。

添付文書の記載

添付文書を確認すると、妊婦・授乳婦には「有益性投与」と記載されている医薬品が多いと思います。

そのため、
「薬の影響が怖いし、これを機に断乳しましょう」
と説明する医師や薬剤師もいるかもしれません。

しかし、母乳にはたくさんの役割があることをご存知でしょうか。

母乳の役割

母乳は最良の栄養源 母乳には赤ちゃんの成長に必要な栄養がたくさん含まれており、牛乳等と違って異種蛋白を含有していないため、アレルギーを起こしにくい特徴があります。
また、免疫物質が多く含有されており、感染予防の役割があります。

成長促進 赤ちゃんが母乳を飲む際に筋力を必要とするため、顎の筋肉が発達や、脳の発達に影響します。

母体の産後の回復促進 赤ちゃんが母乳を吸うことで、お母さんにオキシトシンが分泌され、子宮収縮を促進します。
この子宮収縮が不十分だと、「子宮復古不全」となってしまいます。

愛情・信頼関係の形成 お母さんと赤ちゃんは母乳を介してお互いを身近に感じ、愛情を育むことができます。
生まれたばかりの赤ちゃんにとって、お母さんは初めての「信頼できる人物」となるでしょう。
それと同時に、母乳を与えることで、お母さんにも母性や責任感が生まれてきます。

母乳には他にも多くの働きがあり、赤ちゃんにとっても、お母さんにとっても、とても大切なものです。
服薬のために断乳することは、これらの母乳のメリットを奪ってしまうことになりかねません。
慎重な判断が必要です。

妊婦・授乳婦への医薬品の影響~情報の乏しさ~

臨床試験は妊婦や授乳婦、小児が対象に行われることが少ないため、有効性・安全性のデータが不十分です。
そのため、添付文書から得られる情報も限られてしまいます。

実際に妊婦・授乳婦への医薬品の影響を調べる場合、

「Drugs in Pregnancy and Lactation」
「妊娠と薬」
「妊娠と授乳」

などの書籍から情報を収集する方も多いのではないでしょうか。

これらの情報から、可能な限り授乳を継続できるようにフォローすることも薬剤師の重要な役割です。

私の体験~考えることは薬だけではない~

さて、入社1年目の新人薬剤師であった私はある日、「蕁麻疹のためアレグラ錠を処方された授乳婦」に服薬指導をすることになりました。
私にとってはじめての授乳婦への指導です。

医薬品の母乳への移行性、赤ちゃんへの影響、母乳のメリット・断乳のデメリットを考え、指導内容を検討しました。

また、自分が母乳をあげる立場だったらどのような説明がほしいかを考えたときに、やっぱり赤ちゃんへの影響を一番気にするのではないかと思い、安心させてあげられるような説明をしようと思いました。

そして、いざ指導へ・・・!


薬剤師 もも

今日は蕁麻疹のお薬が出ています。かゆみをおさえてくれるお薬なので、少し楽になると思いますよ。

 


授乳婦

ありがとうございます。かゆくてしょうがなかったんです。

 


薬剤師 もも

飲み方は1回1錠、1日2回です。朝と夕食後に飲んでくださいね。

 


授乳婦

わかりました。

 


薬剤師 もも

このお薬は授乳にもほとんど影響はありません。なので、安心して母乳をあげていただいて大丈夫ですよ。

 


授乳婦

あ、そうなんですね・・・

 


薬剤師 もも

どうされました?

 


授乳婦

実は母乳が全然でなくて、赤ちゃんにほどんと母乳をあげられていないんです。
毎日助産師さんとマッサージや搾乳をしているんですが、なかなか出なくて。
あんまり出ないと乳腺炎になるって言われて、毎日頑張っているんです。

悲しそうな授乳婦さんを見て深く反省しました。
私は、授乳婦は母乳が出るのだと当然のように思っていました。

助産師に聞いたり、本人に確認したりして、母乳の状態を知っておけば良かった・・・
薬と母乳の関係を知っているだけでは駄目だと学びました。

授乳婦の中には、母乳を出したくても出ない方、造影剤を使用した検査の関係で母乳をお休みしなければならない方、薬の服用や成人T細胞白血病(母乳により母から子へウイルスが感染)により断乳をせざるを得ない方など、様々な方がいます。
個々の母乳の状態を考慮した指導をできるようにしていきたいです。

お母さんと赤ちゃんと母乳と薬と、配慮することも多い妊婦・授乳婦への指導ですが、安心して治療を受けられるような指導ができるようになりたいと思った経験でした。

この記事を書いた人

もも

もも

薬剤師

明治薬科大学 薬学部卒

都内薬学部を卒業後、総合病院に勤務し、DI業務を経験。医療現場のニーズに応えられるように日々精進し、情報を収集・発信中。
臨床の薬剤師のために、そして患者さんのために!

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