高リン血症治療薬の種類・一覧・作用機序「慢性腎不全・透析」

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

P(リン)はCa(カルシウム)と一緒に骨を作ったり、筋肉を作る上で必要なミネラルです。

血液中のリン濃度は

  • 食物(特にタンパク質)による消化管での吸収
  • 骨からの遊離・取り込み
  • 腎臓から尿への排出

によって影響を受けます。

特に腎臓がリンの恒常性維持に重要な働きをしています。

慢性腎疾患の患者さんでは、腎臓からリンが排泄されにくくなるため「高リン血症」となってしまいます。

高リン血症となると、副甲状腺ホルモンのPTHの分泌が亢進し、二次性副甲状腺機能亢進症となり、骨からCaを溶かしたり、体内のリンやカルシウムが骨以外の場所で沈着する異所性石灰化が起こることがあります。

血管で石灰化すると心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくなってしまいます。

このように血液中のリンの濃度が高くなると合併症を引き起こしてしまうため、リンのコントロールは極めて重要です。

高リン血症治療薬一覧・飲み方

高リン血症治療薬は、全て食物中、特にタンパク質に含まれるリンの吸収を消化管内で抑える作用があります。

そのため飲み方は「食直前」か「食直後」の縛りがあります。

高リン血症治療薬はカルシウム(Ca)製剤、ランタン(La)製剤、鉄(Fe)製剤といった非ポリマー製剤と、ポリマー製剤に分類されます。

それぞれの商品名、飲み方についてまとめました。

一般名 商品名
規格
飲み方
沈降炭酸カルシウム
Ca製剤
カルタン
錠250mg,500mg
OD錠250mg,500mg
細粒83%
食直後
炭酸ランタン水和物
La製剤
ホスレノール
チュアブル錠250mg,500mg
OD錠250mg,500mg
顆粒250mg,500mg
食直後
クエン酸第二鉄水和物
Fe製剤
リオナ
錠250mg
食直後
スクロオキシ水酸化鉄
Fe製剤
ピートル
チュアブル錠250mg,500mg
食直前 
セベラマー塩酸塩
リン結合性ポリマー
レナジェル
フォスブロック
錠250mg 
食直前 
ビキサロマー
リン結合性ポリマー
キックリン
カプセル250mg
顆粒86.2% 
食直前 

 

カルタン(沈降炭酸カルシウム)作用機序・特徴

沈降炭酸カルシウムのCa3+(カルシウム)がPO43-(リン酸)と結合し、不溶性のリン酸カルシウム(第二リン酸カルシウム[CaHPO4]、第三リン酸カルシウム [Ca3(PO4)2])となって、消化管からリンの吸収を抑制。

  • 大量の牛乳を飲むと、高カルシウム血症(口渇、多飲・多尿)が現れる可能性あり
  • テトラサイクリン系抗生物質、ニューキノロン系抗菌薬とキレート形成のおそれあり
    →2時間は間隔をあける

ホスレノール(炭酸ランタン)作用機序・特徴

炭酸ランタンのLa3+(ランタン)が消化管でPO43-(リン酸)と結合し、リン酸ランタンとなり、便から排泄。

La3+・CO32-(炭酸ランタン) + PO43-(リン酸) → La3+・PO43-(リン酸ランタン) + CO32-

  • 主な副作用は305例中、嘔吐(12.5%)悪心(10.2%)胃不快感 (3.0%)便秘(2.3%)
  • テトラサイクリン系抗生物質、ニューキノロン系抗菌薬とキレート形成のおそれあり
    →2時間は間隔をあける
  • チュアブル錠は10回を目安に噛んで服用。噛まずに服用すると腸管穿孔、イレウス発現の可能性アップ

リオナ(クエン酸第二鉄)作用機序・特徴

第二鉄(3価鉄)が消化管内のリン酸と結合し、リンの吸収を抑える。

  • 第二鉄(3価鉄)はフェロミアなどの第一鉄(2価鉄)と比べて消化管から吸収されにくいため、リン吸着薬としては適している
  • 主な副作用は801例中、下痢(10.1%)便秘(3.2%)腹部不快感(2.5%)血清フェリチン増加(2.7%)
  • 便が黒くなることがあるが問題ない

ピートル(スクロキシ水酸化鉄)作用機序・特徴

多核性の酸化水酸化鉄の配位子(水酸基と水和物)がリン酸と結合し、リンの吸収を抑える。

  • 主な副作用は494例中、下痢(22.7%)
  • ピートルチュアブル錠は噛み砕いて服用
  • 便が黒くなることあり
  • 口の中が茶褐色に着色することあり

レナジェル・フォスブロック(セベラマー塩酸塩)作用機序

セベラマー塩酸塩が食物中のリンを吸着し便から排泄。(リン結合性ポリマー)

  • 口の中で膨潤するため、すみやかに服用指導
  • 噛んだり、嚙み砕いたりしないように注意
  • 腸閉塞が現れることがあるので排便状況の確認
  • 併用薬の吸収減少や遅延に注意

キックリン(ビキサロマー)作用機序

陽性荷電状態のアミノ基を介するイオン結合と水素結合によりリン酸と結合し、糞便から排泄(リン結合性ポリマー)。

  • レナジェル(セベラマー塩酸塩)と比べて、膨潤の程度が少ないため、胃腸障害の軽減が期待
  • 吸着によって吸収低下・効果減弱に注意
  • キックリンの吸着能によって吸収が低下する報告がある生活習慣病薬は下記のとおり

    エナラプリル(併用時のAUC約80%)
    アトルバスタチン(併用時のAUC約70~80%)
    バルサルタン(併用時のAUC約30~40%)
    カンデサルタン(in vitro)
    テルミサルタン(in vitro)
    オルメサルタン(in vitro)
    イルベサルタン(in vitro)

参照 各インタビューフォーム

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

2006年 京都薬科大学 薬学部卒。

調剤併設ドラッグストアのスギ薬局に新卒で入社。
調剤部門エリアマネージャーを経験後、名古屋商科大学院経営管理学修士課程にて2年間経営学を学び、経営管理学修士号(MBA)を取得。
2013年4月、シナジーファルマ株式会社を設立。
2013年8月、薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」をリリース。

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」は臨床で役立つ学術情報や求人広告を発信し月間24万PV(2023年6月時点)のアクセスが集まるメディアとして運営中。

2021年より福岡県北九州市にてティーダ薬局を運営(管理薬剤師)。

1983年11月 岡山県倉敷市で生まれ、水の都である愛媛県西条市で育つ。
大学より京都・大阪で14年間、沖縄Iターン特集立ち上げのため沖縄県で4年間暮らし、現在は福岡県民。
二児の父親。

当面の目標は、
「息子達の成長スピードに負けないこと」

座右の銘は、
「まくとぅそうけい なんくるないさ」
=「誠実に心をこめて精進していれば、なんとかなる!!」

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