こんにちは。健康食品を担当しているエビデンスエージェントの工藤知也です。
ビタミンB2(リボフラビン)の働きと言えば、まずはエネルギー産生が思い浮かびます。
しかし最近の報告から、腸内細菌にも影響しているようです。
なんで?と素朴な疑問ですが、
腸内細菌による酸素の調節におけるビタミンB2の役割に注目が集まっています。
「プロバイオティクス」という言葉はご存知の方が多いのではないでしょうか。
微生物を使って腸内環境を正常化して健康に役立てる試みですね。
スーパーでヨーグルト売り場を見ると、この市場がいかに盛況であるかを感じます。
では、「プレバイオティクス」はどうでしょうか?
えっ?同じではないの?という言葉が聞こえてきそうです。
プロバイオティクスとプレバイオティクスは「プロ」と「プレ」の違いですが、
研究者は明確に区別して使います。
プレバイオティクスは、体が分解や吸収できない食品成分の中で、
腸内細菌に働き健康を支える物質を指します。
一般的なプレバイオティクスは、食物繊維やオリゴ糖です。
「あぁなるほどね。」と納得して頂けるのではないでしょうか。
酢酸や酪酸などを短鎖脂肪酸(Short-chain fatty acids, SCFAs)と呼びます。
この短鎖脂肪酸は腸内細菌が炭水化物を分解して生み出す最終産物で、
プレバイオティクスを理解するうえで欠かせない登場人物です。
短鎖脂肪酸は、結腸細胞のエネルギー源や、吸収されて肝臓の脂質代謝、筋肉でのATP産生に貢献します1)。
また、腸のpHを下げることで感染防御に役立ちます1)。
短鎖脂肪酸を見ただけでも、
プレバイオティクスが健康に役立つという意味が理解できますね。
このプレバイオティクスですが、
科学の進歩に伴いプレバイオティクスの定義を満たす食品成分が拡大するかもしれません。
2012年にThe American Journal of Clinical Nutrition(米国臨床栄養学会誌)にスペインの研究グループが、赤ワイン由来のポリフェノールによる腸内細菌の増殖効果を報告しています。
筆者らは、男性10名を赤ワイン群, アルコールを飛ばした赤ワイン群, ジン群(対照)の3つのグループに分けて摂取を20日間続けました。
クロスオーバー試験ですので、時期をずらして全ての被験者が全グループを経験することになります。
そして、便中のDNAから腸内細菌叢の変化を解析すると、
赤ワイン由来ポリフェノールの継続的な摂取により特定の腸内細菌が増加していたわけです。
また、筆者らは赤ワイン由来ポリフェノールによる血圧や血清脂質の減少を示唆し、
特にコレステロール値とビフィズス菌数の変化の相関性を指摘しています2)。
摂取したポリフェノールの95%が結腸に届くという報告があり1)、
ポリフェノールの健康効果の本丸は腸内細菌なのかもしれません。
肥満マウスを用いた研究からは、
カルシウムのサプリメントがプレバイオティクス的な経路で腸内細菌叢を調節するという報告もあるようです1)。
フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)は、
最も豊富な腸内細菌の一つで、酪酸を産生して結腸細胞のエネルギー源を供給しています。
とても酸素に敏感な細菌ですが、腸管上皮が産生する酸素の豊富な粘膜付近に付着していて、どのように酸素を処理しているのか謎でした。
2012年にThe ISME Journal (国際微生物生態学会誌)にオランダの研究グループが、
ビタミンB2を介した酸素(O2)を水(H2O)に変換する腸管粘膜での酸化還元反応の存在を証明し、フィーカリバクテリウムがこの反応を利用していると提案します3)。
その後には、ビタミンB2の摂取によりフィーカリバクテリウムを始めとする腸内細菌が増殖するという報告が、ヒトでの検討も含めて続いたわけです1)。
フィーカリバクテリウムは過敏性腸症候群やクローン病との関連性が疑われる種類を含みますので、治療の側面へも波及する報告でした。
最近では、糞便移植の有効性なども報告されていますので、腸内細菌をコントロールして疾患を治療する考え方が明確になってくるかもしれません。
しかしながら、この領域ではまだまだ信頼性の低いデータが多いので、
健康食品としての考え方が妥当でしょう。
リボフラビンは、野菜などの植物よりも肉や魚などの動物に多く含まれており、 少量ではほぼ小腸で吸収されてしまうので、大腸まで届けるには少し多めにとる必要がありそうです。
サプリメントを利用するのも良いでしょう。
おなかの調子を整えるためには、食物繊維を摂りましょうと進めるのは一般的ですが、
肉や魚に含まれるビタミンB2も腸内環境の正常化に一役かっている可能性が見えてきましたので、「肉や魚も含めてバランス良く摂ることがお腹の調子を整えるために大切です。」と、お伝えできると患者さんの生活にアクセントを提供できるかもしれません。
今回は、プレバイオティクスの定義からビタミンB2の新たな可能性に注目しました。
まだまだ予備的な調査である点は否めませんが、
「酸素の制御」という理屈は十分に起こり得る話なので、
今後の進展が待ち遠しいところです。
何よりも、患者さんのバランスの良い食事を促す一助になる知見となれば幸いです。
引用文献
1) Steinert RE, et al. The prebiotic concept and human health: a changing landscape with riboflavin as a novel prebiotic candidate?
Eur J Clin Nutr. 2016; 70(12): 1348-1353. PMID: 27380884
2) Queipo-Ortuno MI, et al. Influence of red wine polyphenols and ethanol on the gut microbiota ecology and biochemical biomarkers.
Am J Clin Nutr. 2012; 95(6): 1323-1334. PMID: 22552027
3) Khan MT, et al. The gut anaerobe Faecalibacterium prausnitzii uses an extracellular electron shuttle to grow at oxic-anoxic interphases.
ISME J. 2012; 6(8): 1578-1585. PMID: 22357539
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