甘草(グリチルリチン)の1日量上限は?偽アルドステロン症の発症機序

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

漢方といえば比較的副作用が少ないと思われがちですが、注意しないといけないのは「甘草(グリチルリチン酸)による偽アルドステロン症」です。

カンゾウ(グリチルリチン酸)で、なぜ偽アルドステロン症がおこるのでしょうか。

発生機序や、カンゾウが含まれる薬剤、一日の上限値についてまとめました。

偽アルドステロン症とはどんな症状か?

アルドステロンは副腎から分泌されるホルモンで、腎臓に働いて、体内にナトリウムや水をため込み、血圧を上昇させたり、カリウムの排泄を促す働きがあります。

甘草(グリチルリチン酸)を多く摂取することで、あたかもアルドステロンが過剰になったかのように、血清カリウム値の低下血清ナトリウム値の上昇が見られます。

具体的な臨床症状としては

弛緩性の四肢麻痺(四肢脱力、筋力低下、歩行・起立困難)、低カリウム血症(血清K3.5mEq/L以下)、尿中のカリウム排泄の増加、血圧上昇、浮腫、体重増加、筋肉痛、四肢のしびれ、全身倦怠、頭痛、口渇、多飲、食欲不振、心室性不整脈、動機、嘔吐、悪心

が見られます。

偽アルドステロン症が起こる原因・理由・メカニズム

血液の中には少量のアルドステロンと大量のコルチゾールが存在しています。

どちらも腎臓にあるアルドステロン受容体1に結合できるのですが、コルチゾールは11βーHSDという酵素によってコルチゾンに分解されてしまいアルドステロン受容体1には結合できなくなります。

偽アルドステロン機序

しかし甘草(グリチルリチン酸)とその誘導体であるカルベノキソロンにはコルチゾールをコルチゾンに分解する酵素(11βーHSD)を阻害する作用があります。

大量の甘草(グリチルリチン酸)を摂取すると、コルチゾールからコルチゾンへの分解が阻害され、分解されない大量のコルチゾールがアルドステロン受容体1に結合してしまいます。

そのためアルドステロンの濃度は変わらないにも関わらず、アルドステロン受容体1を刺激する作用が強くなり、体内にナトリウムや水をため込み、血圧を上昇させたり、カリウムの排泄を促してしまうのです。

偽アルドステロン機序2

甘草(グリチルリチン酸)の一日量の上限は?

グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて(昭和五三年二月一三日)(薬発第一五八号)ではグリチルリチン酸の1日最大配合量は200mgと上限が定められていましたが、平成28年に廃止されています。

そのため現時点では、医療用医薬品については甘草(グリチルリチン酸)の1日上限値は定められていません
※甘草1g中にはグリチルリチンが約40mg含有

しかし、グリチルリチン酸の一日量が200mgを超えてくる場合は、薬剤師が偽アルドステロン症の発症に注意して経過観察する必要があると考えます。

甘草(グリチルリチン酸)を多く含む漢方は?

カンゾウの1日量が2.5g以上になる漢方製剤をピックアップします。
これらのカンゾウを含む漢方が同時に処方されている場合は特に注意しなければいけませんね。
1日あたりのカンゾウ量漢方の番号

  • 甘草湯 8.0g
    クラシエ401
  • 芍薬甘草湯6.0g
    ツムラ・コタロー・クラシエ68
  • 甘麦大棗湯5.0g
    ツムラ・コタロー72
  • 桔梗湯3.0g
    ツムラ138
  • 排膿散及湯3.0g
    ツムラ・コタロー122
  • 人参湯3.0g
    ツムラ・コタロー・クラシエ32
  • 小青竜湯3.0g
    ツムラ・コタロー・クラシエ19
  • 黄連湯3.0g
    ツムラ・コタロー120
  • 五淋散3.0g
    ツムラ56
  • 桂枝人参湯3.0g
    ツムラ・クラシエ82
  • 炙甘草湯3.0g(シャカンゾウ)
    ツムラ・コタロー64
  • 芎帰膠艾湯3.0g
    ツムラ・コタロー77
  • 半夏瀉心湯2.5g
    ツムラ・コタロー・クラシエ14

グリチルリチンを含有する薬剤

漢方薬以外にもグリチルリチンが含まれる薬剤があります。

  • つくしAM散(1.3g中カンゾウ末100mg)
  • SM散(1.3g中カンゾウ末118mg)
  • グリチロン錠(1錠中:グリチルリチン酸として25mg)
  • オピセゾールコデイン(1ml中:カンゾウエキス3mg)

薬局での注意点(利尿剤・プレドニゾロンの併用)

医療用医薬品の場合、明確な上限値が設けられていませんが、甘草(グリチルリチン酸)を含む漢方の重複がある場合は特に注意が必要です。

また、糖尿病でインスリン治療をされている方や、フルイトラントリクロルメチアジド)などのサイアザイド系利尿薬ラシックスフロセミド)などのループ利尿薬プレドニゾロンを併用の場合、特に低カリウム血症がおこりやすくなるので、注意して経過を観察する必要があります。

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

2006年 京都薬科大学 薬学部卒。

調剤併設ドラッグストアのスギ薬局に新卒で入社。
調剤部門エリアマネージャーを経験後、名古屋商科大学院経営管理学修士課程にて2年間経営学を学び、経営管理学修士号(MBA)を取得。
2013年4月、シナジーファルマ株式会社を設立。
2013年8月、薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」をリリース。

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」は臨床で役立つ学術情報や求人広告を発信し月間24万PV(2023年6月時点)のアクセスが集まるメディアとして運営中。

2021年より福岡県北九州市にてティーダ薬局を運営(管理薬剤師)。

1983年11月 岡山県倉敷市で生まれ、水の都である愛媛県西条市で育つ。
大学より京都・大阪で14年間、沖縄Iターン特集立ち上げのため沖縄県で4年間暮らし、現在は福岡県民。
二児の父親。

当面の目標は、
「息子達の成長スピードに負けないこと」

座右の銘は、
「まくとぅそうけい なんくるないさ」
=「誠実に心をこめて精進していれば、なんとかなる!!」

記事作成のサイトポリシーについてはコチラ

この投稿者の最近の記事

「伊川勇樹」のすべての投稿記事を見る>>

コメント欄ご利用についてのお願い

  • 薬剤師、薬学生、調剤事務、医師、看護師といった医療に携わる方が使用できるコメント欄となります。
  • 「薬剤師の集合知」となるサイトを目指していますので、補足・不備などございましたらお気軽に記入いただけると幸いです。
  • コメントの公開は運営者の承認制となっており「他のユーザーにとって有益な情報となる」と判断した場合にのみ行われます。
  • 記事に対する質問は内容によってお答えできないケースがございます。
  • 一般消費者からの薬学、医学に関する相談や質問は受けつけておりません。

※コメントはサイト管理者の承認後に公開されます

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」のFacebookページに「いいね!」をすると、薬剤師が現場で活躍するために役立つ情報を受け取ることができます。ぜひ「いいね!」をよろしくお願いします。

お客様により安全にご利用いただけるように、SSLでの暗号化通信で秘匿性を高めています。

ページトップに戻る