非ステロイド性抗炎症薬(以下、NSAIDs)には、その副作用として胃腸障害が知られています。
よくNSAIDsを投薬時に患者さんへお伝えすることとして、
「食後に服用してくださいね」
といったフレーズがあるかと思いますが、今回は、ちょっとその理由を少し詳しく考えてみたいと思います。
NSAIDsによる胃腸障害の発生機序としては、胃粘膜に存在する内因性シクロオキシゲナーゼ-1(以下、COX-1)が阻害されることにより、胃粘膜保護作用を有するプロスタグランジン(以下、PG)、とりわけPGE2の合成が阻害されるためだと大まかには言われています。
そしてCOX-1阻害作用には、下記の2つが関与しているとされています。
前者の局所的なCOX-1阻害作用を防ぐために、空腹時ではなく、食後服用を推奨したり、プロドラック化や多種な剤形ラインナップに見られるようにDDS(ドラッグデリバリーシステム)を駆使して胃腸障害の軽減を図っているんだと思います。
さて、ここで少し薬に詳しい患者さんから
「ロキソニンはプロドラッグだから別に食後服用じゃなくていいでしょ?ムコスタも飲んでいるし。」
と聞かれた場合、どう答えるでしょうか?
確かにロキソニン自体は非活性体であり、肝臓で活性代謝物となった後に抗炎症作用を示すため、胃粘膜上でのCOX-1阻害作用は幾分軽減され得るとメーカーも想定しているようです。
しかし、添付文書上では胃腸障害の副作用頻度が高く、臨床でも実際にロキソニンで胃腸障害を訴えた患者さんを目の当たりにした経験もあるのではないでしょうか?
ここで留意しておきたいことは、NSAIDs誘因性の胃腸障害には、PG合成阻害だけが関与しているわけではないということです。
NSAIDsの内服で胃粘膜障害を呈した群と呈さなかった群では、逆に呈さなかった群において内因性PGE2含量が低下していた報告があるなど、NSAIDsによる胃腸障害の要因には、多様な機序が絡み合っている可能性が示唆されており、胃運動機能亢進や好中球の微小血管壁への凝集等も関与していると言われております。
「酸性NSAIDsは酸環境下で脂質膜に透過性となる。細胞内に侵入したNSAIDsは、中性の環境下で再び細胞膜に不透過性となって細胞内に蓄積し傷害を来す。」
引用元 重篤副作用疾患別対応マニュアル消化性潰瘍
COX-1阻害作用以外の機序の1つとして、厚労省の重篤副作用疾患別対応マニュアルの消化性潰瘍においても言及されているNSAIDsの胃粘膜への直接障害がありますが、これがNSAIDsの食後服用推奨のロジックを割とすっきり説明してくれそうです。
つまり、プロドラッグ化され活性のないロキソニンであっても、プロドラッグ体そのものが酸性であるからには、PG合成阻害作用という薬理作用とは別のところで、直接的な胃粘膜障害作用のリスクは存在し、それは食後服用や牛乳の事前飲用等のように物理的に胃粘膜との接触を遮断することで防止され得るだろうということです。
よって、その大半が酸性であるNSAIDsの投薬に際しては、結局、冒頭のとおり、「食後に服用してくださいね」となるのです。
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」のFacebookページに「いいね!」をすると、薬剤師が現場で活躍するために役立つ情報を受け取ることができます。ぜひ「いいね!」をよろしくお願いします。
お客様により安全にご利用いただけるように、SSLでの暗号化通信で秘匿性を高めています。
コメント欄ご利用についてのお願い
※コメントはサイト管理者の承認後に公開されます