「過活動膀胱治療OAB」抗コリン薬一覧・作用機序・服薬指導のポイント

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

「尿が我慢できない・・・」
「トイレに行くまでに尿を漏らしてしまう・・・」
「夜中のトイレの回数が増えた・・・」

薬局でこのような相談を受けることはないでしょうか?

また最近では製薬メーカーが「過活動膀胱」のCMを流していることから、患者さんからも過活動膀胱について相談を受ける機会があるかと思います。

過活動膀胱の第一選択薬である抗コリン薬について特徴や服薬指導の注意点についてまとめました。

 

過活動膀胱(OAB)とは?定義

過活動膀胱の定義は

「症状として尿意切迫感を訴え、通常は頻尿や夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を合併することもあるが、これらの症状を説明する感染や他の明らかな疾患がないもの」

とされています。

overactive bladderの頭文字をとってOABとも呼ばれます。

過活動膀胱はおしっこに行きたい気持ちを我慢できない「尿意切迫感」があることを必須とし、頻尿(1日8回以上)や夜間頻尿(1日1回以上)の症状を伴います。

またトイレに行くまでに我慢できずおしっこを漏らしてしまう切迫性尿失禁を伴うこともあります。

過活動膀胱治療・抗コリン薬一覧

過活動膀胱治療に処方される抗コリン薬について、用法や特徴をまとめました。

一般名 商品名 用法
特徴
オキシブチニン塩酸塩 ネオキシテープ 
ポラキス錠
・1日1回(ネオキシテープ)
・1日3回(ポラキス)
・M3・M4に高い親和性がある
テープ剤は錠剤より口渇・便秘の頻度が低い 
フェソテロジンフマル酸塩 トビエース錠 ・1日1回
・デトルシトール活性代謝物(5HMT)のプロドラッグ
・5HMTのムスカリン受容体親和性はフェソテロジンの100倍
コハク酸ソリフェナシン ベシケア錠・OD錠 ・1日1回
・ムスカリンM3に高い親和性
イミダフェナシン ウリトス錠・OD錠
ステーブラ錠・OD錠
・1日2回朝・夕食後
・M3・M1受容体への選択性高い
・M1拮抗によるAch遊離抑制
・M3拮抗による膀胱収縮抑制
酒石酸トルテロジン デトルシトールカプセル ・1日1回
・CYP2D6で活性代謝物5HMT(DD01)となる
・トルテロジンと5HMTは同程度の抗ムスカリン作用あり
・ムスカリン受容体の選択性はない
・唾液腺より膀胱に作用
プロピベリン塩酸塩 バップフォー錠 ・1日1〜2回食後
・カルシウム拮抗作用+ムスカリン受容体拮抗で膀胱平滑筋の収縮を抑える

 

作用機序・ムスカリン受容体のサブタイプ

過活動膀胱(OAB)治療の抗コリン薬は膀胱平滑筋排尿筋)の収縮を抑えることで膀胱の容量を増やし、尿の回数を抑えます。

膀胱平滑筋の収縮は主にアセチルコリンムスカリンM3受容体に結合することで生じます。

OAB治療の抗コリン薬はムスカリンM3受容体にアセチルコリンが結合するのを阻害することで、膀胱平滑筋の収縮を抑えます。

ムスカリン受容体のサブタイプ(M1,M2,M3,M4,M5)

ムスカリン受容体はM1,M2,M3,M4,M5のサブタイプが存在します。

膀胱平滑筋に分布するのがM2受容体とM3受容体です。

M3受容体に比べてM2受容体の方が膀胱分布の割合は高いですが、膀胱平滑筋の収縮に最も関与しているのがM3受容体です。

理由はM3受容体は膀胱平滑筋の収縮に「直接的」に関与しますが、M2受容体はノルアドレナリンβ3受容体を介し膀胱平滑筋の弛緩を抑えることで「間接的」に膀胱平滑筋の収縮に関与するからです。

そのためM3受容体へアセチルコリンの結合を阻害することで膀胱平滑筋の収縮をコントロールできるのです。

口渇・便秘の副作用が起こる理由

唾液腺にはムスカリンM3受容体が、腸の平滑筋にはムスカリンM2、M3受容体が分布しています。

唾液腺のM3受容体にアセチルコリンが結合すると唾液が分泌され、腸の平滑筋のM2,M3受容体にアセチルコリンが結合すると腸の蠕動運動が活発になります。

過活動膀胱治療の抗コリン薬はM3受容体だけでなくM1〜M5受容体に対しても作用します。
またM3受容体に選択性があっても、膀胱平滑筋以外にも作用してしまうため「口渇」「便秘」になってしまいます。

眼調節麻痺の副作用が起こる理由

瞳孔を調整する括約筋に、ムスカリンM2、M3受容体が分布されています。

アセチルコリンが瞳孔括約筋のムスカリンM2、M3受容体と結合することで括約筋が収縮し縮瞳が起こります。

過活動膀胱治療の抗コリン薬は眼のムスカリンM2,M3受容体にも作用することで瞳孔括約筋が弛緩し散瞳します。

そのためまぶしく感じたり、目のピント調節がうまくできなくなることが報告されています。

服薬指導のポイント

過活動膀胱治療の抗コリン薬が処方された場合、薬局での服薬指導のポイントをピックアップします。

  • 口渇が高い確率でおこるため対処方法を指導
    →シュガーレスのアメ・ガムなど摂取
    →唾液腺のマッサージ
  • 市販薬の飲みわせに注意
    →抗コリン薬の併用に注意するためにも市販薬を選ぶ際は薬剤師に相談
  • 眠気・ふらつき・眼調節障害あり
    →車の運転に注意
  • ネオキシテープはかぶれ防止のため毎回貼る場所を変える
    「下腹部(おへその下あたり)」「腰部」「大腿部(太もも)」

以上、過活動膀胱治療の抗コリン薬についてまとめました。

日々の薬剤師業務のお役に少しでも立てる情報になると幸いです。

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

2006年 京都薬科大学 薬学部卒。

調剤併設ドラッグストアのスギ薬局に新卒で入社。
調剤部門エリアマネージャーを経験後、名古屋商科大学院経営管理学修士課程にて2年間経営学を学び、経営管理学修士号(MBA)を取得。
2013年4月、シナジーファルマ株式会社を設立。
2013年8月、薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」をリリース。

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」は臨床で役立つ学術情報や求人広告を発信し月間24万PV(2023年6月時点)のアクセスが集まるメディアとして運営中。

2021年より福岡県北九州市にてティーダ薬局を運営(管理薬剤師)。

1983年11月 岡山県倉敷市で生まれ、水の都である愛媛県西条市で育つ。
大学より京都・大阪で14年間、沖縄Iターン特集立ち上げのため沖縄県で4年間暮らし、現在は福岡県民。
二児の父親。

当面の目標は、
「息子達の成長スピードに負けないこと」

座右の銘は、
「まくとぅそうけい なんくるないさ」
=「誠実に心をこめて精進していれば、なんとかなる!!」

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