医薬品による消化器症状は、私達が日々接する患者さんとの会話や、看護師など他職種からの相談を通して経験することの多い副作用の一つです。
中でも問題となるのが軟便なども含む「下痢」ではないでしょうか?
急性下痢症は90%が感染症に起因しますが、残りの大部分は医薬品の副作用によるものと言われています。
そういえば、最近下痢が続いているんです・・・。
と相談を受けた時のために、下痢の原因となる代表的な薬剤や機序について取り上げます。
抗がん薬が関連する下痢は大きく2種類に分けられます。
抗菌薬による下痢の原因としては、腸内細菌叢の菌数減少や菌腫の変化により生じるもの、偏性嫌気性グラム陽性桿菌であるClostridium difficile(CD)の毒素によるものなどがあります。
CDは芽胞を形成するため、芽胞の状態では乾燥、熱、消毒薬(エタノール、グルコン酸クロルヘキシジン)に抵抗性を示します。
このため、医療スタッフの手指や医療機器などを介して、院内感染の感染源や感染経路となることが知られています。
CDによる下痢の原因となる抗菌薬は、クリンダマイシン、ペニシリン系、セフェム系が多いですが、カルバペネム系、マクロライド系など、ほとんどの抗菌薬で発症報告があります。
下痢は腸炎により起こることもありますが、薬剤性腸炎の一つにcollagenous colitis(CC)があります。
CCは、内視鏡検査では肉眼的に異常が見られず、顕微鏡下で観察して初めて診断される疾患です。
病理組織学的に大腸粘膜下に特徴的なコラーゲンバンドの肥厚が認められます。
CCの発症の原因は十分に解明されていないものの、薬剤の関与が報告されており、なかでもPPI、H2ブロッカー、NSAIDs等で報告されています。
特にランソプラゾールによるCCは、薬剤開始後1~2ヶ月程度経過して発現すると言われています。
下痢症状が続いている場合は、薬剤性腸炎も疑ってみる必要があります。
多くの場合、他のPPIへの変更や中止等で改善すると言われています。
実際にわたしの勤務する病院でも、ランソプラゾール服用後1~2ヶ月くらいしてから水様便となる患者さんがいましたが、他剤へ変更することで症状が改善したケースを何度か経験しています。
α1A受容体は前立腺平滑筋に多く存在しているため、α1A受容体への親和性が高いシロドシン(商品名:ユリーフ)が前立腺肥大症の治療にはよく使用されます。
しかし、一方で胃・小腸に存在するα1A受容体を遮断することで運動亢進が起こり下痢が起こるといわれています。
脳内セロトニン活性が亢進されることで発現するセロトニン症候群の自律神経症状として下痢が見られることがあります。
セロトニン症候群は服用後数時間以内に現れることが多く、通常は24時間以内に症状が治まります。
ジスチグミン(商品名:ウブレチド)は、可逆的・持続的にコリンエステラーゼを阻害する薬剤であり、重症筋無力症の術後や、神経因性膀胱による排尿障害などに汎用されます。
ジスチグミンによりコリンエステラーゼが必要以上に阻害された場合、呼吸困難等を伴うコリン作動性クリーゼに陥ることがあります。その初期症状として下痢が発現します。
その他の初期症状としては、腹痛、悪心・嘔吐、徐脈、水分分泌過多などがあります。
医薬品の副作用としての下痢は、服用後すぐに現れるもの、数ヶ月経過してから現れるものなど様々です。
今回取り上げたたのは、下痢の原因となる薬剤の一部です。
患者さんや医療スタッフとの会話から下痢であることがわかった場合に、皆さんの対応の一助になればと思います。
参考文献
重篤副作用疾患別対応マニュアル 第4集 重篤な下痢,JAPIC,2008
ランソプラゾールに関連したcollagenous colitisの3例 日農雑誌 62巻2号 2013.7
各種添付文書・インタビューフォーム
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