こんにんちは。
薬剤師ライターのヒロです。
私は認知症の患者さんや脳血管疾患を発症した患者さんが多く入院している病院で勤務しています。
数年前から、五苓散の処方が多く見られるようになってきました。
薬剤師のみなさんもご存知の通り、五苓散は水毒症に用いられる漢方薬ですよね。
口渇や悪心・嘔吐、下痢、時には二日酔などに用いられるのが古典的な使用方法です。
しかし、最近の処方をみると別の疾患に対しての使用ケースが多く見られます。
その疾患は慢性硬膜下血腫です(保険適応外)。
今回は、なぜ慢性硬膜下血腫に五苓散が使用されるのか、その解明されつつある薬理作用について解説します。
慢性硬膜下血腫とは、脳を覆っている硬い膜と脳との間に血液が溜まってしまう病気です。
交通事故や転倒などで頭部を打ったあと、2~3ヶ月後に発症します。
血腫によって脳が圧迫されるため、症状としては物忘れや歩行困難、尿失禁など認知症とよく似た症状が現れることがあります。
治療方法として手術で血腫を除去する方法もありますが、血腫の量が少なく緊急性がない場合は経過観察となることもあります。
近年、慢性硬膜下血腫や脳浮腫に五苓散が用いられるケースが増えています。
なぜ五苓散が硬膜下血腫や脳浮腫に用いられるのでしょうか。
薬理作用について解説します。
体の中の水は細胞内外を行き来していますが、細胞の浸透圧が変化すると水の流れが変化し、一方向に流れるルートができてしまいます。
これが脳内でおこると脳浮腫の状態になります。
細胞内外の水の透過性は、『アクアポリン(AQP)』というタンパク質が調整しています。
AQPには様々な種類があるのですが、脳浮腫になると、脳内にアクアポリン4(AQP4)という水分子を選択的に透過させる膜タンパク質が増加します(動物実験)。
このAQP4は脳の水分代謝や脳脊髄液の産生に大きく寄与しています。
五苓散には蒼朮(読み方:ソウジュツ)が含まれています。
蒼朮にはマンガンが非常に多く含まれており、このマンガンがAQP4に対して強い阻害作用を持つため、水の流れを改善して脳浮腫を改善すると考えられています。
慢性硬膜下血腫は頭蓋骨内に余分な血液が溜まっている状態です。
漢方では浮腫を『水の異常』と診ています。
血液も広い意味で『水』ですから、五苓散によるAQP4阻害作用によって水(血液)の流れを改善し慢性硬膜下血腫へ効果が期待できます。
五苓散は浮腫に対して保険適応が可能です。
しかし、慢性硬膜下血腫という病名に対しての保険適応はありません。
そのため適応外処方となります。
外傷などによる慢性硬膜下血腫、脳血管疾患による脳浮腫などの保存的治療に五苓散が処方される場合は、このような考え方がもとになっています。
認知症だと思われていた患者さんが、実際に五苓散が開始となったあとに認知症のような症状が軽くなったケースをみると、効果があるのだなと実感することもあります。
参考:
・五苓散とトラネキサム酸の併用で改善した硬膜下水腫の一例』漢方医学vol38 No2 2014 土屋 寿司郎
・『五苓散による慢性硬膜下血腫治療の薬理学的合理性』ファルマシア2018年54巻2号 礒濱洋一郎、堀江一郎
・ツムラ五苓散 添付文書
・第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集 熊本大学大学院 生命科学研究部薬物活性学分野 准教授 礒濱洋一郎
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