先日、門前である婦人科クリニックのドクターからこんな話がありました。
経口アンタゴニストが発売されましたね。
注射より患者さんの負担も少ないので処方を検討したいと思います。
わかりました。
と、返答したものの
「・・・・・経口アンタゴニスト??」
調べてみると、
ドクターがおっしゃっていたのは、
2019年3月に発売された国内初の経口GnRHアンタゴニスト「レルミナ錠」でした。
この機会に子宮筋腫治療薬であるGnRHアナログ製剤についてまとめてみたいと思います。
子宮筋腫があっても症状がない場合もあり、大きさが拳大以下のものであれば、
定期的に検診を受けるだけで特に治療は必要としません。
しかし、サイズの大きいものや症状を伴うものは治療の対象となります。
子宮筋腫によって起こる症状としては、
過多月経、下腹痛、腰痛、貧血などがあります。
また、子宮筋腫が大きくなると周囲の臓器を圧迫し、
頻尿、排尿困難、便秘、腰痛などの症状も起こってきます。
「最近トイレが近くて困っている」という女性患者さんが
検査をしてみたら、実は子宮筋腫だったという例もあります。
治療法としては、手術と薬物療法があります。
根本治療としては手術ですが、
閉経が近い場合や、合併症などにより手術を避けたい場合、手術までの保存療法として薬物治療が行われます。
薬物治療においては、卵巣での女性ホルモン産生を抑えて筋腫を縮小させるGnRHアナログ治療が行われます。
GnRHは、視床下部で合成・分泌されるホルモンで、
ゴナドトロピン放出ホルモンまたは性腺刺激ホルモン放出ホルモンの略です。
FSH(卵胞刺激ホルモン)=「卵胞を発育させるホルモン」と、
LH(黄体形成ホルモン)=「成熟した卵胞に作用して排卵をおこさせるホルモン」
を下垂体前葉から分泌させるペプチドホルモンです。
FSHとLHのことをゴナドトロピンと呼ばれます。
GnRHはいわゆるホルモンの司令塔、コントローラーのような役目をしているのがGnRHです。
GnRHアナログは視床下部から分泌される自然のGnRHの数十倍から数百倍の強い生理活性をもつ人工ホルモンです。
GnRHアナログ製剤にはアゴニスト(受容体作動薬)とアンタゴニスト(受容体拮抗薬)が存在します。
これまでに発売されている子宮筋腫に適応のあるGnRHアゴニスト、アンタゴニストは以下の通りです。(2019年5月現在)
レルミナ錠が発売されるまでは、全てGnRHアゴニスト製剤でした。
薬価収載年月日 | GnRHアゴニスト 商品名 一般名 |
GnRHアンタゴニスト 商品名 一般名 |
2006年6月 | スプレキュア点鼻液 ブセレリン酢酸塩 |
|
2006年12月 | スプレキュア皮下注 ブセレリン酢酸塩徐放性 |
|
2009年3月 | ナサニール点鼻液 酢酸ナファレリン |
|
2015年6月 | リュープリン皮下注 リュープロレリン酢酸塩 |
|
2019年2月 | レルミナ経口剤 レルゴリクス |
同じ疾患の治療薬にアゴニスト(受容体作動薬)とアンタゴニスト(受容体拮抗薬)が存在するのは不思議ですよね。
また女性ホルモンの産生を抑えることが子宮筋腫の治療にもかかわらず、なぜGnRHアゴニスト(作動薬)なのか疑問に感じる薬剤師もいらっしゃるのではないでしょうか。
ではまずGnRHアゴニストがどのような作用機序なのか簡単に説明します。
GnRHアゴニスト作用機序
このようにゴナトロビンとエストラジオール(E2)の分泌を刺激することで結果的に感受性を低下(ダウンレギュレーション)させるのがGnRHアゴニストです。
しかし一過性にE2分泌が亢進する一過性の症状悪化(フレアアップ現象)によって、子宮筋腫の病状への影響が懸念されることから、
GnRH受容体に直接拮抗することでフレアアップを回避できるGnRHアンタゴニストの開発が進められてきました。
GnRHアンタゴニスト作用機序
GnRH受容体に対する選択的な拮抗作用
↓
FSH及びLHの分泌抑制
↓
卵胞発育と排卵の抑制
↓
エストラジオールE2、プロゲステロン(P4)分泌を阻害
↓
子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)を改善
このようにGnRHアゴニストの問題点であったE2の一過性の産生増加(フレアアップ)を回避できるのがGnRHアンタゴニストの特徴です。
GnRHアンタゴニスト製剤であるレルミナ錠(一般名:レルゴリクス)は、子宮筋腫に適応のある国内初の経口投与のGnRHアンタゴニスト製剤です。
子宮筋腫に適応のないGnRHアンタゴニスト製剤は存在していますが、いずれも非経口投与剤です。
初回投与は妊娠していないことを確認の上、月経1~5日目より開始。
40mgを1日1回食前に経口投与します。
食前投与の理由ですが食後に服用するとAUCやCmaxが半分近く低下する報告があるからです。
エストロゲン低下に伴う骨塩量の低下が見られるため6ケ月を超える投与は原則として行いません。
主な副作用は主な副作用はほてり・不正子宮出血・月経過多・頭痛・多汗症です。
また更年期障害様のうつ状態が重大な副作用としてあげられていますので、患者さんの経過を十分に観察していかなければいけません。
【参考】
・日本腫瘍科治療学会
https://jsgo.or.jp/public/kinshu.html
・基礎体温を測ろう
http://www.kisotaion.org/mst/index.htm
・あすか製薬「レルミナ錠市販直後調査」
https://www.aska-pharma.co.jp/newitem/prd_relumina/data/info_new_relumina_1901_2.pdf
・レルミナ錠添付文書
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