絶対過敏期・相対過敏期とは?妊娠中に注意が必要な薬剤

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

薬局の初回質問票に

「妊娠中もしくは授乳中ですか?」

といった項目があるかと思います。

妊娠中にチェックがあった場合に確認しないといけないのが

妊娠何週目なのか?

といった「週数の確認」です。

薬局での週数の確認と、注意事項についてまとめました。

絶対過敏期・相対過敏期・潜在過敏期の週数

妊娠週数 胎児への影響
受精前〜3週まで 無影響期
4週〜7週末 絶対過敏期
8週〜16週前後 相対過敏期
17週以降 潜在過敏期

妊娠週数の考え方は、最終月経開始日を0日としてカウントします。

40週0日目が分娩予定日となります。

受精前〜3週までは無影響期で、薬剤の影響がなければ問題なく受精・着床し、薬剤の影響があれば着床ができなかったり、自然に流産します。

このことから「all or nothingの法則 または all or noneの法則」と呼ばれます。

この時期に妊娠週数を把握することは難しいため、気がつかずに薬を服用することがありますが、患者さんにはたとえ薬を服用したとしても問題ないことをお伝えし、不安を与えないようにしなければいけません。

絶対過敏期 妊娠4週〜7週前後

妊娠4週〜7週前後は絶対過敏期といわれ、中枢神経、心臓、消化器、四肢などの重要な器官が作られ胎児が最も敏感な時期です。

生理がこなくて「妊娠したかも?」と妊娠の可能性を考え始めるのが4週前後以降となります。

つまり妊娠に気づいた時が最も薬の影響を受けやすい時期ですので、薬局では「妊娠の有無」だけでなく「妊娠の可能性があるかどうか」も確認する必要があります。

相対過敏期 妊娠8週〜16週前後

8週〜16週前後は相対過敏期といわれ、口蓋や性器が完成する時期です。

相対過敏期は絶対過敏期に比べて胎児への影響は少ないといわれています。

またつわりは4〜6週くらいからではじめ、7〜12週でピークとなり、16週前後で落ち着くといわれています。
もちろん期間や程度に個人差はありますが、この時期に食後に薬が処方されている場合は、「食事はとれているか」の確認と、食後でなくても特別問題ない薬であれば食後でなくても問題ないと、状況に応じて指導する必要があります。

潜在過敏期 妊娠17週以降

17週以降は潜在過敏期といわれ薬剤による奇形発生はありません。

奇形発生がないといっても17週から分娩の40週(妊娠中期〜後期)にかけて注意が必要な薬剤があります。

代表的なのがNSAIDsです。

NSAIDsは胎児の動脈管を収縮させる可能性があり妊娠後期に禁忌の薬剤が多くあります。

ロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)やジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン)は妊娠後期には禁忌です。

また外用剤でもケトプロフェン(商品名:モーラステープなど)は妊娠後期には禁忌となっていますので、残薬を使用したり、家族から譲り受けて使用させないように注意する必要があります。

催奇形性・胎児毒性を示す代表薬剤

催奇形性もしくは胎児毒性を示し、妊娠中に禁忌の代表的な薬剤です。(抗がん剤は除く)

一般名 商品名 影響
エトレチナート チガソン 催奇形性
メトトレキサート リウマトレックス 催奇形性
ワルファリン ワーファリン 催奇形性
ミソプロストール サイトテック  催奇形性
子宮収縮
流産・早産 
ACE阻害薬全て
エナラプリル
イミダプリル
リシノプリル
など
ACE阻害薬全て
レニベース

タナトリル
ロンゲス
 

など
妊娠中・後期
胎児腎障害
肺低形成
ARB全て
バルサルタン
オルメサルタン
テルミサルタン
カンデサルタン
ロサルタン
イルベサルタン
など
ARB全て
ディオバン

オルメテック
ミカルディス
ブロプレス

ニューロタン
イルベタン

など
妊娠中・後期
胎児腎障害
肺低形成
NSAIDs
内服
ロキソプロフェンNa
ジクロフェナクNa
セレコキシブ
外用
ケトプロフェン
エスフルルビプロフェン
など
NSAIDs
内服

ロキソニン
ボルタレン
セレコックス
外用
モーラス
ロコア
など
妊娠後期
動脈管収縮
羊水過少

禁忌にはなっていませんが、テトラサイクリン系抗生物質(商品名:アクロマイシンなど)は歯の着色やエナメル質の形成不全が報告されていることから注意が必要な薬剤です。

抗てんかん薬のカルバマゼピン(商品名:テグレトール)、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン)、フェノバルビタール(商品名:フェノバール)は妊娠中に禁忌ではありませんが、奇形発生の頻度が通常より高くなるとの疫学的調査報告があります1)

調剤・服薬指導での注意点

  • 妊娠中の場合は「週数」を確認する
  • 絶対過敏期相対過敏期、それ以外か把握
  • 妊娠3週目までは無影響期のため気づかずに薬剤を摂取したとしても問題ないことを説明
  • 妊娠の可能性があるかどうかも確認
  • 妊娠中に禁忌な代表的な薬剤を把握しておく
  • 妊娠後期は鎮痛剤の内服薬、外用薬を自己判断で使用させない(残薬を使用しない)
  • つわりは4〜6週くらいからではじめ、7〜12週前後でピークとなり、16週前後で落ち着く(程度・期間に個人差あり)
    →食後の薬が処方されている場合は、食事はとれない可能性があることを理解しておく
  • 薬局の待合室では感染患者さんと一緒にならないように気を配る
  • 急な立ち上がりが辛い場合や、逆に座るのが辛い場合もあることを理解しておく

参考文献
1)フェノバール錠 テグレトール錠 デパケン錠 各添付文書

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

2006年 京都薬科大学 薬学部卒。

調剤併設ドラッグストアのスギ薬局に新卒で入社。
調剤部門エリアマネージャーを経験後、名古屋商科大学院経営管理学修士課程にて2年間経営学を学び、経営管理学修士号(MBA)を取得。
2013年4月、シナジーファルマ株式会社を設立。
2013年8月、薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」をリリース。

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」は臨床で役立つ学術情報や求人広告を発信し月間24万PV(2023年6月時点)のアクセスが集まるメディアとして運営中。

2021年より福岡県北九州市にてティーダ薬局を運営(管理薬剤師)。

1983年11月 岡山県倉敷市で生まれ、水の都である愛媛県西条市で育つ。
大学より京都・大阪で14年間、沖縄Iターン特集立ち上げのため沖縄県で4年間暮らし、現在は福岡県民。
二児の父親。

当面の目標は、
「息子達の成長スピードに負けないこと」

座右の銘は、
「まくとぅそうけい なんくるないさ」
=「誠実に心をこめて精進していれば、なんとかなる!!」

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