インスリン離脱の方法と薬剤師の介入

この記事を書いた人

ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

糖尿病治療では、糖尿病の病型により経口血糖降下薬やインスリンなどを単剤もしくは併用で治療します。

病棟や薬局などで、患者さんや家族、時には看護師などの医療職からこんな質問をされたことはありませんか?
 
「インスリンは、一度始めたら一生続けないといけないの?」

「インスリンを打っているから、施設への入所が難しい。飲み薬ではだめなの?」

「今までインスリンを打っていたのに、飲み薬に変更するみたいだけど大丈夫なの?」

基本的に、1型糖尿病ではインスリン分泌が非常に低下しているか全くないため、インスリン療法は必須です。

しかし、2型糖尿病ではインスリン分泌能や血糖コントロール状況によっては、インスリン療法から経口血糖降下薬への変更が可能となる場合があります。

そこで、インスリンから離脱できるのはどのような場合か、そして医師と共に取り組んで実際に離脱に成功した症例について、薬剤師のみなさんと情報共有できればと思います。

2型糖尿病でインスリンが必要となる場合

インスリンが必要となる場合は、大きく分けて5つです。

  1. 著明な高血糖の場合
  2. 妊娠中の高血糖
  3. 肝障害、腎障害、重症感染症などの併発疾患を伴う場合
  4. ステロイド使用時の高血糖状態
  5. 糖毒性の積極的解除

インスリン療法は、生理的かつ最も確実に血糖降下の可能な治療方法であるため、2型糖尿病の場合も必要に応じて使用されます。

インスリンの離脱を検討する場合

インスリン療法は患者本人が自己注射が可能な場合を除き、家族や介護者等の協力が必要になるケースが多いです。

そのため、インスリン療法が治療上望ましい方でも家族等の協力が得られにくい場合は、継続が困難となるケースがあります。

インスリン離脱を検討する場合についてまとめてみました。

1.血糖コントロールが良好な場合

重篤な高血糖状態や、一時的に糖毒性解除のために使用していた場合は、インスリン分泌能が保たれていれば離脱し、経口血糖降下薬への変更を検討できます。

2.患者背景により検討せざるをえない場合

患者本人が認知症や脳卒中などの後遺症で自己注射できない状態で、家族の協力が得られにくい場合、検討することがあります。

  • 同居の家族はいるが、認知力が低下していて手技が覚えられない。
  • 家族の仕事が不規則で、決まった時間にインスリンを打つことができない。

など、理由はいろいろですが、協力したくてもできない場合があります。
また、訪問看護などのサービスを利用したとしても、限度がある場合もあるでしょう。

他にも、施設入所をしたいけど、看護師が常にいるわけではないためインスリン施行ができず入所できない。
インスリンがなければ入所できるのに・・・などの状況もあります。

もちろん離脱を検討する前に、どうやったらインスリン療法が継続できるか、服薬指導を通して患者や家族と一緒に考えます。

しかし、それでもインスリン療法が困難な場合、医師は経口血糖降下薬を組み合わせながらインスリン離脱に向けて検討を進めていきます。

インスリン離脱の方法・注意点

インスリンから離脱を行うためには、患者のインスリン分泌能が残っていなければいけません。
そこで、内因性インスリン分泌能の指標であるCペプチドが測定されます。

Cペプチドの測定は空腹時の血液中のCペプチドを測定する方法と、24時間で尿から排泄されるCペプチドを測定する方法があります。

Cペプチドはインスリンが作られる過程でできることから、Cペプチドが高い場合はインスリン分泌能が高く、低い場合はインスリン分泌能も低くなります。

下記の基準値がインスリン分泌能があるかどうかの目安となります。

  インスリン依存状態の指標
空腹時血中Cペプチド 0.5ng/ml
24時間尿Cペプチド排泄量 20μg/ml

Cペプチドの測定によって、インスリン分泌能が保たれていると判断できれば、インスリン離脱を検討することができます。

また、一般的に投与されているインスリン量が0.8単位/kg/日以下であれば離脱可能であるケースが多いと言われているため、徐々にインスリンの投与量を減らしながら血糖コントロールが行われます。

インスリンの減量とともに経口血糖降下薬を併用する場合は、患者の病態から選択されますが、多くの場合DPP-4阻害薬が使用されます。
また、インスリン抵抗性があるがインスリンから離脱したい場合は、インスリン抵抗性改善薬であるメトホルミンやピオグリタゾンなどが使われます。

入院を機に糖尿病が発覚または発症し、インスリンと経口血糖降下薬を併用しながらインスリン離脱をする場合などは、一時的にいろいろな薬を使うことになるため、患者の心理的負担が大きくなります。

その際、服薬に対する不安感などに対応することも、薬剤師の大切な仕事だと思います。

インスリン離脱の症例

では、実際のインスリン離脱の症例を紹介します。

76歳男性 
糖尿病の既往歴はなく、脳梗塞後遺症の療養目的で入院。
入院時検査でHbA1c10.3%、空腹時血糖200~300mg/dl
 
在宅時には高血圧で開業医通院していたが、糖尿病治療薬は使用しておらず数年前から通院を自己中断していた。

入院時の面談で、全身のかゆみに対して、数年にわたり皮膚科開業医から処方されたセレスタミン錠(ステロイド含有)を服用していたことがわかった。

ステロイド性の高血糖状態と考え、主治医にインスリン療法開始を提案し、超速攻型インスリン+持効性インスリンの強化療法が開始となった。

その後約半年でHbA1c7%台に低下した。

今後の療養先を検討する際に、検討先の施設からインスリン中止が可能かとの問い合わせがあり、主治医と共に検討を開始した。

Cペプチドを測定し、インスリン分泌能が保たれていることを確認後、インスリン単位の漸減と同時にシタグリプチン50㎎の併用を開始し、経過を観察した。

その後HbA1c6%台で推移し、検討開始から約3カ月でシタグリプチン50㎎単剤投与となり、施設へ退院した。

まとめ

インスリン注射の離脱に関しては、日本糖尿病学会からの明らかな勧告書はでていません。

どの薬剤を選んでも、インスリンの代わりにはならないため、インスリンの継続が可能であれば、インスリン療法が望ましいのは確かです。

しかしインスリン療法の継続が困難な場合、病態や患者背景などを考慮して医師はインスリンからの離脱が可能か検討しています。

そのような背景を理解すると、医師の処方意図が理解しやすくなり、服薬指導にも役立つのではないでしょうか。

参考資料
1)糖尿病治療ガイド
2)糖尿病薬・インスリン治療-知りたい、基本と使い分け

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ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

新潟薬科大学薬学部を卒業後、地元の病院に就職。
回復期と慢性期の薬物療法を医師とともに実践中。
中小病院ならではのオールラウンダーな業務に日々邁進中。
今は認定取得に向けて勉強中です。

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