メトホルミン塩酸塩(メトグルコ)作用機序・乳酸アシドーシスとは?薬歴記載のポイント

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伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

ビグアナイド系経口血糖降下剤として2型糖尿病に処方される薬がメトホルミン塩酸塩(商品名:メトグルコ)です。

メトホルミン塩酸塩について、注意が必要な乳酸アシドーシスについて、作用機序、服薬指導の要点をまとめてみました。

またメトホルミンの乳酸アシドーシスについて薬剤情報提供書薬情)に記載がない場合、薬学管理料の返還の対象となる可能性があるため注意しなければいけません。

ビグアナイド系経口血糖降下剤(BG剤)の歴史

ビグアナイド剤(BG剤)の歴史は古く、中世ヨーロッパ時代に血糖を下げる目的で使われていたガレガ草の抽出物から発見されました。

1970年第代に BG剤であるフェンホルミンによる乳酸アシドーシスの副作用が問題になってから、メトホルミンにも用法・用量や使用患者に制限がかけられ、日本では欧米に比べ低用量で使用されてきました。

しかし、海外の大規模臨床試験(UK Prospective Diabetes Study)などで、日本の承認用量を大きく上回る用量での安全性・有効性が実証されたことから、日本でも高用量の「メトグルコ500mg」が承認されました。

メトホルミン塩酸塩の作用機序

メトホルミン塩酸塩の作用機序は下記の3つがあると言われています。

  • 肝臓での糖新生抑制

  • 末梢での糖利用促進

  • 腸管からの糖吸収抑制

膵臓でのインスリン分泌には作用せず、筋肉での糖の利用を高め、肝臓で糖が作られるのを抑える働きがあります。
また小腸からの糖吸収が抑制されることもわかっています。

乳酸アシドーシスとは?初期症状

メトホルミン塩酸塩によって、血液中の乳酸が増えることで血液が著しく酸性に傾くことを乳酸アシドーシスといいます。

乳酸アシドーシスの初期症状

具体的な乳酸アシドーシスの初期症状として

胃腸症状(悪心・嘔吐・腹痛・下痢)
筋肉の痙攣、筋肉痛、倦怠感、脱力感、腹痛、胸痛

があります。

進行した乳酸アシドーシスの症状

過呼吸(アセトン臭を伴わない)
脱水、低血圧、低体温、傾眠、ショック状態、全身痙攣
クスマウル呼吸

使用禁忌の患者さんに使わなければ、乳酸アシドーシスが起こる確率は極めて低いといわれています。

乳酸アシドーシスが生じる理由・メカニズム

メトホルミンをはじめとしたビグアナイド薬は肝細胞のミトコンドリア膜に結合し、酸化的リン酸化を阻害しTCAサイクルを低下させることで結果的に乳酸の産生が亢進されることと、乳酸からグルコースへの変換(糖新生)の抑制によって乳酸が蓄積することが原因と考えられています。

乳酸アシドーシス対策・対応

・過度のアルコールを避ける
・脱水を避けるために水分補給をする
・発熱、嘔吐、下痢、食事が摂れない時など脱水状態が懸念される場合は中止し、主治医に相談
・乳酸アシドーシスの初期症状(嘔吐・呼吸困難・筋肉痛・意識の低下)があらわれたら直ちに受診

過度のアルコールを避ける理由

過度の飲酒によって、肝臓における乳酸の代謝が低下し、乳酸が蓄積しやすくなります。

またアルコールは利尿作用があるため脱水状態になり、乳酸アシドーシスの発現リスクが高まるためです。

そのためメトホルミンを服用中はお酒を飲みすぎないように注意しなければいけません。

併用禁忌薬

メトホルミン塩酸塩と併用禁忌の薬はありません。

ヨード造影剤での検査時の中止する理由と期間

ヨード造影剤を使って検査をする際に、メトホルミン製剤の服用を避ける必要があります。

ヨード造影剤は一時的に腎機能を低下させるため、メトホルミン製剤の排泄が遅れ乳酸アシドーシスの発生確率が上昇するからです。

特に中止する期間は設定されていませんが、製薬メーカーによるとヨード造影剤投与の前後2日間(48時間)はメトホルミン製剤を中止するように推奨されています。

オルメテックとの一包化は避ける

メトホルミン製剤とオルメテック(オルメサルタンメドキソミル製剤)を一包化するとメトグルコの錠剤全体がピンク色に変色することが報告されています。

メトグルコ(メトホルミン製剤)はオルメテックとの一包化は避けるようにしなけれないけません。

また変色してしまったメトホルミン製剤の使用は避けるようにしましょう。

服薬指導・薬歴の要点(ハイリスク薬)

  • 膵臓に影響を与えず、筋肉での糖の利用を促進したり、肝臓での糖新生を抑制する。
  • 小腸から糖の吸収を抑える作用もあり。
  • 乳酸アシドーシスに注意、初期症状を理解してもらう。(吐き気・下痢、筋肉の痙攣、倦怠感など)
  • 過度なアルコールは控える(乳酸アシドーシス対策)
  • こまめに水分を摂る(乳酸アシドーシス対策)
  • 飲み忘れ時は、次回から正しい量で服用。
  • 低血糖の症状を伝える。
    (強い空腹感・発汗・手足の震え・頭痛など)
  • 低血糖時の対処方法を伝える。
    (ブドウ糖5〜15g or 砂糖10〜30g を摂取 αGI併用中はブドウ糖摂取)
  • 低血糖が起こりやすいケースを伝えておく。
    (シックデイ、激しい運動後、過度な飲酒、食事を摂らない時)

この記事を書いた人

伊川勇樹(いかわゆうき)

株式会社ティーダ薬局 代表取締役・管理薬剤師
薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」管理者

2006年 京都薬科大学 薬学部卒。

調剤併設ドラッグストアのスギ薬局に新卒で入社。
調剤部門エリアマネージャーを経験後、名古屋商科大学院経営管理学修士課程にて2年間経営学を学び、経営管理学修士号(MBA)を取得。
2013年4月、シナジーファルマ株式会社を設立。
2013年8月、薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」をリリース。

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」は臨床で役立つ学術情報や求人広告を発信し月間24万PV(2023年6月時点)のアクセスが集まるメディアとして運営中。

2021年より福岡県北九州市にてティーダ薬局を運営(管理薬剤師)。

1983年11月 岡山県倉敷市で生まれ、水の都である愛媛県西条市で育つ。
大学より京都・大阪で14年間、沖縄Iターン特集立ち上げのため沖縄県で4年間暮らし、現在は福岡県民。
二児の父親。

当面の目標は、
「息子達の成長スピードに負けないこと」

座右の銘は、
「まくとぅそうけい なんくるないさ」
=「誠実に心をこめて精進していれば、なんとかなる!!」

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