NSAIDsによる血圧上昇のメカニズムと症例

この記事を書いた人

ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

こんにちは、ライターのヒロです。

今や、病院で処方される以外に市販薬としても使用頻度の高いNSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)について取り上げようと思います。

NSAIDsは関節痛や腰痛などの整形外科領域の疾患や、心筋梗塞、脳梗塞などの心血管系疾患に使われるため、多くの高齢者が使用している薬です。

なんで今更?薬剤師ならだれでも知っている薬でしょ?と思う方も多いでしょう。

NSAIDsの副作用としてよく知られているのは、胃潰瘍などの消化器系副作用、腎機能障害、アスピリン喘息などです。

しかし、このほかにも血圧上昇があります。

私の経験した症例を通して、NSAIDsと血圧の関係を皆さんと情報共有できればと思います。

NSAIDsの作用機序

NSAIDsの主な効果は、炎症がある局所におけるプロスタグランジン(PG)合成阻害によります。

アラキドン酸カスケードにおいて、アラキドン酸からPGを合成する律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを阻害することで、抗炎症・鎮痛作用を発揮します1)

NSAIDsによる血圧上昇の機序

NSAIDsの血圧上昇の機序について説明します。

NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、プロスタグランジン(PG)が産生される経路を抑制します。

これにより、水やNaの再吸収の抑制に関与するPGE2プロスタサイクリンの産生が抑制されます。
その結果、Na、水貯留をきたします。

また、腎血管の拡張が阻害されるため腎血流量が低下し、腎機能が低下することによっても血圧の上昇をきたします。
特に、高齢で、腎機能が低下している場合に起こりやすいとされています。

NSAIDsでの血圧上昇は意外と盲点になりやすいため、降圧剤が増えてしまうなどポリファーマシーの原因となる場合もあります。

症例:NSAIDsによる血圧上昇 

症例
66歳女性 脳出血で入院

使用薬

  • アムロジピン10㎎
  • カンデサルタン8㎎
  • ランソプラゾール15㎎
  • ラメルテオン8㎎
  • アトルバスタチン5㎎

入院初期の血圧は120~130/65~70mmHgで推移していた。

入院1週間後から腰痛のため、

ロキソプロフェンNa60㎎ 
1回1錠1日3回 連日服用

となった。

ロキソプロフェン開始後3週間程度経過したころから収縮期血圧140mmHgを超えることが多くなり、降圧剤増量について医師から相談を受けた。

・入院時の腎機能
血清クレアチニン0.65 mg/dl、CCr55.1ml/min。
・相談を受けたときの腎機能
血清クレアチニン0.81 mg/dl、CCr44.2ml/min

腎機能はやや低下しており、NSAIDsによる腎機能低下および血圧上昇をうたがいアセトアミノフェンへ変更を提案した。
降圧剤はドキサゾシン1㎎が追加となった。

ロキソプロフェン中止後1カ月程度で収縮期血圧120~130mmHgに戻り、その後ドキサゾシンも中止となったが血圧は120mmHg程度で安定している。

医師への情報提供のポイント

NSAIDsは患者さんからの訴えがあり処方されることが多い薬剤です。

当たり前のことですが、医師は患者さんの苦痛を取るために処方しています。
情報提供をするときは、下記のポイントを確認しておくと聞き入れてもらいやすいです(経験談ですが)。

1.血圧は患者の降圧目標を超えているのかを確認

降圧目標は医師からの指示がない場合は、高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)などを参考にしましょう。

血圧上昇がそれぞれの疾患に対しての許容範囲内であれば、経過観察をする場合も多いです。

血圧上昇したことが危ないのか、危なくないのかを医師に判断してもらうためにも、降圧目標の確認・把握が重要です。

2.腎機能は悪化しているか

検査値が分からない場合は、浮腫などが起こっていないかもチェックしてみましょう。
腎機能が低下していれば、NSAIDsによる副作用である可能性が高くなります。

3.患者の痛みの程度はどう変化しているのか

痛みなどが緩和されていれば、薬剤の中止などを提案しやすくなります。

医師に情報提供をする前に、少なくとも上記1~3は確認しましょう。
また、代替案も忘れずに考えていくとよいでしょう。

NSAIDsはOTC薬としても汎用されているため、処方薬と一緒に使用している患者さんも多いかもしれません。
血圧管理が必要な患者さんで、最近血圧コントロールが悪いなと思ったら、NSAIDsを使用していないか疑ってみるのもいいかもしれません。

参考:
1)日本緩和医療学会 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010

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ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

新潟薬科大学薬学部を卒業後、地元の病院に就職。
回復期と慢性期の薬物療法を医師とともに実践中。
中小病院ならではのオールラウンダーな業務に日々邁進中。
今は認定取得に向けて勉強中です。

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