中枢神経障害性疼痛に処方される代表的な薬剤一覧

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ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

病院薬剤師のヒロです。

現在、地元の新潟の病院で回復期と慢性期の薬物療法に携わっています。
そこで私が学んだ「脳卒中発症後の中枢神経障害性疼痛に処方される薬」について情報共有できればと思います。

高齢者にプレガバリン(商品名:リリカ)やアミトリプチリン(商品名:トリプタノール)が処方されている場合、薬局ではどのようなことに注意しなければいけないでしょうか。

これらの薬剤は脳卒中発症後の中枢神経障害性疼痛に用いられることがあります。
併用薬や患者さんとの会話から、個々の病態に合わせた服薬指導が求められます。

脳卒中の急性期から回復期での身体的な状態変化

 

脳卒中発症後から生活期までのながれ

脳卒中となった患者は、急性期病院で手術などの救命処置を行った後(1~2カ月間)、回復期病院でリハビリを行い生活期へと移行します。

後遺症として、麻痺や感覚障害、高次脳機能障害、排尿障害など様々なものがありますが、どのような後遺症がおこるかは損傷された部位によって決まります。

痛みやしびれの出現時期

脳卒中発症の数週間~数か月後に麻痺側の上下肢や顔面に異常感覚を生じることがあり、これを中枢神経障害性疼痛と呼びます1)

ちょうど急性期から回復期へと移行し、これからリハビリに取り組む重要な時期です。
この痛みやしびれのため、リハビリが思うように進まないことがあります。

脳卒中後にしびれを自覚している患者は60%を超えており、うち50%は常にしびれを感じながら生活をしている2)との報告もあり、程度によっては著しく患者のQOLが低下します。

そのため、不眠やうつ傾向となってしまう患者も多く、痛みやしびれの緩和はリハビリの進行だけではなく患者のQOL向上に直結します。

中枢神経障害性疼痛に使用される薬

神経障害性疼痛に対して使用される薬剤が主体となります。

主な薬剤は下記のとおりです。

  • プレガバリン(商品名:リリカ)
  • アミトリプチリン(商品名:トリプタノール)
  • ノルトリプチリン(商品名:ノリトレン)
  • デュロキセチン(商品名:サインバルタ)
  • トラマドール(商品名:トラマール、ワントラム、トラムセット配合)

それぞれの薬剤の特徴を解説していきます。

プレガバリン(商品名:リリカ) Ca2+チャネルα2δリガンド

プレガバリンは2018年時点で本邦で唯一の神経障害性疼痛全般に適応をもつ薬剤です。

副作用として、眠気や浮動性めまい、ふらつきなどがでやすいため、増量は慎重に行う必要があります。

また、腎排泄薬のため特に腎機能低下患者への投与量には注意しなければなりません。

添付文書上の初期用量は150㎎/日(朝・夕食後の分2投与)からの開始となっていますが、高齢者や腎機能低下患者では副作用がでやすく、副作用軽減目的で25~75mg/日(就寝前1回投与)など低用量から開始する場合があります。

アミトリプチリン(商品名:トリプタノール)・ノルトリプチリン(商品名:ノリトレン) 三環系抗うつ薬

アミトリプチリンは脳卒中治療ガイドラインでも推奨されている薬剤です(エビデンスレベルⅡb)。

しかし、高齢者の場合は特に高用量の使用で、転倒や心疾患リスクが高くなることが報告されているため、使用の際は低用量から開始する必要があります。

また、副作用として口渇や眠気、振戦などの症状がおこりやすい薬剤です。  

アミトリプチリンとノルトリプチリンとの間では鎮痛効果に差はなく、ノルトリプチリンはアミトリプチリンよりも忍容性が高いとの報告もありますが、いずれにしても三環系抗うつ薬である以上副作用チェックはかかせません。

デュロキセチン(商品名:サインバルタ) SNRI

デュロキセチンの鎮痛機序は下行性疼痛抑制系の賦活作用に起因しています。

副作用で発現率5%以上かつプラセボと比べて優位に高いのは悪心傾眠です。

投与初期におこりやすい副作用発現を抑制する目的で、20㎎/日の低用量から開始し、治療域まで漸増するやりかたがよく見られます。

治療域40~60mg/日となった時点から1週間経過したころから鎮痛効果が得られますが、悪心(副作用 5%以上の発現率)のため服薬を中断する患者もいます。

通常は悪心の副作用は継続服用とともに軽減していきますが、我慢できない場合は主治医や薬剤師に相談するように服薬指導であらかじめ説明しておくことが重要です。

トラマドール(商品名:トラマール、ワントラム、トラムセット) μオピオイド受容体作動薬+SNRI作用

トラマドールは医療用麻薬に指定されていないため、広く疼痛に対して使用されます。

μ(ミュー)オピオイド受容体に対して完全作動薬として働くため鎮痛効果に天井がなく、鎮痛作用は用量依存です(臨床用量400㎎/日が上限です)。

中枢神経障害性疼痛への有効性は未報告ですが、実際にはよく処方されます。

他のオピオイドよりも副作用(便秘、眠気、嘔吐)は軽度といわれていますが、高頻度で出現するため副作用チェックはかかせません。

その他

カルバマゼピン(商品名:テグレトール)やラモトリギン(商品名:ラミクタール)、メキシレチン(商品名:メキシチール)なども中枢神経障害性疼痛に対して使用されますが、いずれも保険適応外となっています。

薬剤師が処方意図に気づくためのポイント

中枢神経障害性疼痛に使われる薬は多岐にわたるため、処方箋を一見しただけでは処方意図がくみ取りにくい場合があります。

また、分類として抗てんかん薬や抗うつ薬などが処方されるケースも多く、医師からの説明と薬剤師からの説明が食い違うと患者の不信感を招くこともあるため、処方意図を慎重に見極める必要があります。

この薬、中枢神経障害性疼痛に使われているかも・・・と疑うポイントがいくつかあります。

  1. 抗血小板剤、DOACなどの抗凝固薬が処方されていないか
  2. 麻痺や、構音障害(しゃべりにくい)などの症状が出ていないか
  3. 用法・用量が添付文書に記載されているよりも少なくないか
    (抗てんかん薬では少量で使われる場合があります)
  4. 睡眠薬が処方されていないか
    (しびれや痛みが気になって眠れない場合があります)

このような場合は、投薬時に医師からどのような説明を受けているかをまず確認し、痛みやしびれがないかを聞き取ることで服薬指導が行いやすくなります。

参考文献
1) 脳卒中治療ガイドライン2009  
2) 脳血管障害による痛み・しびれの実態(第一報) 日本看護学会論文集 老年看護(35)73-75
3) 各薬剤添付文書
4) 脳卒中治療ガイドライン2009
5) 日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第二版 

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ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

新潟薬科大学薬学部を卒業後、地元の病院に就職。
回復期と慢性期の薬物療法を医師とともに実践中。
中小病院ならではのオールラウンダーな業務に日々邁進中。
今は認定取得に向けて勉強中です。

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