統合失調症、薬物依存、反社会的なバックグラウンドを持つ患者さんなど、日頃接する患者さんの中には対応に注意が必要な場合があります。
私も在宅患者さんにそのような事前情報があると身構えてしまいます。
どうすればそういった患者さんと、良い関係を築いて治療に参加してもらえるのでしょうか。
薬剤師よりも、より在宅患者さんの近くでサービスを提供する訪問看護師の眞榮和紘さんに対応困難患者さんと接する上での心得を伺いました。
眞榮和紘(しんえ かずひろ) 卒後、大学病院・市中病院でICUから外科・内科急性期病棟にて勤務。その後訪問看護ステーションにて管理者に就任。 現在は、関西医科大学大学院看護学研究科にて在宅看護学を専攻する修士課程2年 |
訪問看護をしていると対応に注意が必要な患者さんご依頼をいただくことがあります。
ときには遠く離れた患者さんの場合もあり、そのような時はたいてい何件かの訪看さんとトラブルを起こした後のため私も気を使います。
しかし、きちんとポイントを押さえて対応をすれば良好な関係を築くことができる場合も多くあります。
今回は薬剤師さんの在宅業務でも役立つと思うポイントを5つお伝えします。
・アサーティブコミュニケーションを心がける
・リミットセッティング(限界設定)をする
・ストレングス(強み)に注目する
・エネルギーの隙間を狙って訪問する
・脅しになったら帰る
専門用語が多いので順番に説明します。
アサーティブコミュニケーションとは
自分も相手も大切にするコミュニケーション方法を言います。
漠然とした定義なので具体的な手法を一つ紹介します。
悪い例
〇〇さん、血圧が高いと脳梗塞になるので薬を飲んでください。
良い例
〇〇さんが薬を飲んでくれて血圧が下がって脳梗塞を防げると私は薬剤師として嬉しいです。
というふうに”私”を主語にして話をするというものです。
これをアイ・メッセージと言います。
精神疾患を持つ患者さんは生活や行動を制限されることに対して抵抗が強い人が多いです。
アイ・メッセージを使うことで「〜をしてくれると”私は”嬉しい。でも強制するわけではないし、やるかどうか決めるのはあなた自身です。」というふうに相手に決定権を委ねることができます。
これは「あなたに言われてやったらこうなった。」など責任の押し付けを回避するという意味でも有効です。
リミットセッティング(限界設定)とは
ここまでは対応できるがここからは対応できないと自分の職種、職能として対応できる限界を合意形成することをいいます。
今日は時間があるし多少なら良いかなと思って対応してしまった場合、
「前はしてくれたじゃないか」
「〇〇さんはしてくれたのに」
などトラブルの原因となることもあります。
具体例
「イライラするから肩をもんでくれ」
「〇〇さん。今までにもイライラしたことはあると思いますが、今まではどのように対応されていたんですか?」
「本を読むようにしたことがあるな。」
「その時はイライラはおさまりましたか?」
「だめだった。」
「他にはなにかありますか?」
「大声を出したことがある」
「その時はどうでしたか?」
「割とスッキリしたよ」
「そうなんですね。大声を出したときはスッキリしたんですね。とても良い対応ですね。」
「でも近所迷惑だろ?」
「たしかにそうかもしれませんね。どうしたらいいですかね?」
「タオルを口に当てて声をだすようにしたら良いんじゃないか。」
「それはいいですね。今度からイライラしたときはタオルを口に当てて大声をだすようにしましょう」
このように無理なお願いに対しては単にできないということではなく、
今までの経験などをもとにどのように対応するかの合意をすると良好な関係を続けたまま、きちんと服薬遵守や服薬指導など本来の業務に集中することができるのではないかと思います。
精神疾患をもつ患者さんは”できないことに注目されてきた”人生を送ってきた人が多いです。
そのためできないことを克服するように促すよりも、うまくできることをもっと伸ばすにはどうすればよいかという視点をもって接するとケアの上でも関係性の上でもうまくいくことがあります。
具体例
「好きなことはありますか?」
「歌が好きなんだよ。」
「いいですね。」
「歌手を目指してるんだよ。」
「すごいですね。そのためにはどういうことが障害になっていますか?」
という感じのやり取りから生活改善や治療参加を患者さん自身の意思で決めてもえるととてもいいですね。
このときに突拍子もないことや現実味のないことを言われたとしても明らかな犯罪などでない限りは「それは無理でしょう」などと否定せずに「いいですね」と受け止めてあげるのがコツです。
また、やりたいことや得意なことを聞いても「特にない」「何も」など前向きな話が聞けない場合もあります。
そういう場合はやりたくないことを聞いて、そうならないためにどうするかというアプローチが有効となることがあります。
具体例
「〇〇さん、やりたいことは特にないということでしたが、逆になにかこうなりたくないなと言うことはありますか?」
「入院はしたくない。」
「それを回避するためにはどうするのがいいですかね?」
このような流れから治療への参加を促すことも有効な場合があります。
患者さんの中にはいつも怒りっぽい患者さんや、いつもそわそわしている患者さんがいます。
でもそういった人も24時間ずっと怒りっぽかったりそわそわしているわけではないので時間帯を変えるとすんなりケアを行えることがあります。
私が受け持った患者さんでもいつも怒りっぽい患者さんがいました。
いつも朝に訪問していたのですが
「1日の中でこの時間はそわそわするとか、この時間は落ち着いているとかありますか?」
と質問すると
「午前中はそわそわする」
とお返事があったのでその後は午後に訪問をすることにして良好な関係を築けた患者さんがいます。
これはとても重要なので必ず実施してほしいことです。
大声を出す、包丁を持つなど脅し行為があった場合はすぐにその場を離れるようにしてください。
身を守るというのはもちろんありますが、なだめたり制止するという行為が相手の行動を否定することになり、余計にこじれてしまう場合があるからです。
このときもアイ・メッセージを使用することが有効です。
良い例
「あなたに大きな声をだされると私はとても怖いので帰ります。」
悪い例
「包丁をおろしてください」
「大きい声を出さないでください」
たいていはしばらくすると「悪かった」など連絡があります。
ケアマネージャーさんや病院からの情報で不十分なとき、市区町村の障害福祉課や介護保険課などが情報を持っていることがあるので、所属や立場を明らかにして問い合わせをすると教えていただける場合があります。
実際に私が患者対応に困ったときに訪問看護師の眞榮さんに教えていただいた内容がとても汎用性が高く、広く日常業務に活かせそうだったので記事にさせていただきました。
対応が困難な患者さんを避けたいと思うのはあたりまえのことです。
この記事でお伝えしたポイントをおさえて少しでも苦手意識を持たずに対応できるようになると幸いです。
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