子宮頸がんワクチン(サーバリックス・ガーダシル)について薬剤師に知ってほしいこと

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薬剤師


患者さん

子宮頸がんワクチンを受けていれば大丈夫だったのでしょうか

私が病棟で患者さんに聞かれたことです。

当時、私は産婦人科病棟に勤務する薬剤師で、子宮頸がんの患者さんに、CCRT療法(同時化学放射線療法)の説明を行っているときでした。

薬剤師の皆さんは、「子宮頸がんワクチン」と聞いてどのような印象を受けるでしょうか。

一時期、子宮頸がんワクチン接種後に疼痛や運動障害が報告され話題になったこともあり、

「副作用が怖いワクチン」
「危ないワクチン」

とイメージされる薬剤師もいるかもしれません。

しかし、本当に危険なワクチンなのでしょうか。
子宮頸がんワクチンについて考えてみたいと思います。

子宮頸がんはどんな病気?

子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約2900人が死亡しています1)
そしてその数は年々増加傾向にあり、20歳~40歳台の若い世代での罹患が目立ちます。

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が主な原因です。

HPVの主な感染経路は性的接触です。
HPVはありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち8割近くの方が生涯で一度はHPVに感染していると言われています。

つまり、女性にとって子宮頸がんはとても身近な病気であり、性交渉の経験がある女性なら誰でも子宮頸がんを発症する可能性があります。

しかし、HPVに感染しても多くの場合は一過性です。
90%の方はHPVに感染しても無症状のまま過ごし、からだに備わっている免疫がHPVを排除してくれています。

問題となってくるのが、免疫によりHPVが排除されず、長期間持続的にHPVに感染し続ける10%の方です。

HPVに持続的に感染すると、軽度~高度異形成という前がん状態を経て、子宮頸がんへと進行していきます。

そこで活躍するのが「子宮頸がんワクチン」です。
子宮頸がんワクチンは3回の筋肉注射が必要ですが、HPVの感染を予防し、子宮頸がんを予防する役割があります。

子宮頸がんの予防は子宮頸がんワクチン接種による一次予防と、検診により早期発見・早期治療による二次予防がグローバルコンセンサスとなっています。

海外の多くの国で、子宮頸がんワクチンの有用性2)3)、検診の重要性が示されているためです。

オーストラリアやアメリカでは、女性だけでなく男性にも子宮頸がんワクチン接種を推奨しており、集団感染予防に努めています。

子宮頸がんワクチンを取り巻く日本の現状は?

では、日本ではどうでしょうか。

2018年時点で日本で承認されている子宮頸がんワクチンは「サーバリックス」と「ガーダシル」の2種類で、それぞれ2価と4価のワクチンです。

ともに性交未経験の女性に接種した場合、子宮頸がんの60〜70%を予防が期待されるワクチンです4)

サーバリックスとガーダシルの比較

  サーバリックス ガーダシル
予防できるHPVの型 HPV16型、18型
高リスク型
HPV16型、18型
高リスク型
HPV6型、11型
低リスク型
効能・効果 子宮頸がん 子宮頸がん
尖圭コンジローマ
接種方法
接種回数
3回の筋肉注射 3回の筋肉注射

 

子宮頸がんワクチンはH25年4月に日本において定期接種化されましたが、その年の6月に疼痛や運動障害が相次いで報告され、厚生労働省から積極的接種勧奨が中止されました。

当時70%あった接種率も現在は劇的に低下し、1%未満です。

しかし、これらの症状と子宮頸がんワクチンの因果関係は認められていません。

日本産婦人科学会も4回にわたって厚生労働省に積極的接種勧奨の再開を求め、声明を出しています。
WHOもHPVワクチンは極めて安全であるとの見解7)を示し、子宮頸がんワクチンを接種していない日本の現状を危険視しています。

薬剤師に求められるワクチン接種の正しい情報

「子宮頸がんワクチンを受けていれば大丈夫だったのでしょうか」

と患者さんから聞かれたとき、私自身、子宮頸がんワクチンを接種していませんでした。

子宮頸がんワクチンの有用性は理解しているつもりではあったものの、接種することがやはり怖かったのです。

薬剤部に戻り、子宮頸がんワクチンを接種したことがあるか質問して回ったところ、接種した人数は0。

誰一人として接種していませんでした。
衝撃的でした。
有用性を一番わかっているはずの医療スタッフが接種していなければ、患者さんが接種するはずがありません。

子宮頸がんワクチンの賛否を病棟の産婦人科医3人に相談したところ、
「接種しない理由はない」と3人が口を揃えて言っていたのは今でも記憶に残っています。

そして、
「子宮頸がんワクチンを接種していない人でも同じように疼痛や運動障害は出ている」
と教えていただきました。

H28年12月に厚生労働省から、HPVワクチンの接種歴のない女性でも、HPVワクチン接種歴のある女性に報告されている症状と同様の症状を呈する人が一定数存在するとの全国疫学調査の結果が報告8)されていたのです。

子宮頸がんワクチンは唯一がんを予防できるワクチン

産婦人科診療ガイドライン2017で子宮頸がんワクチンは、好発年齢の女性において下記のように接種が推奨されています。 

  • 最も推奨される10〜14歳の女性に接種する
    (A:強く勧められる)
  • 次に推奨される15〜26歳の女性に接種する
    (A:強く勧められる)
  • ワクチン接種を希望する27〜45歳の女性に接種する
    (B:勧められる)

私は子宮頸がんワクチンを接種することを決め、恐る恐る接種しました。
筋肉注射なので痛みは多少ありますが、問題なく接種を終えました。

日本では今後、若い女性を中心に子宮頸がん患者が増加することが考えられています。

出産をひかえる女性が、子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落とす可能性があるのです。

子宮頸がんワクチンは、唯一がんを予防できるワクチンです。

海外で広く接種されているワクチンが日本で接種できない状況や、子宮頸がんワクチンのメリット・デメリットをもう一度考えてほしいと思います。

参考文献
1) 日本産婦人科学会HP
2) FUTURE II Study Group. Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent high-grade cervical lesions. N Engl J Med 2007; 356: 1915-1927.
3) Paavonen J, et al: HPV PATRICIA Study Group. Efficacy of human papillomavirus (HPV)-16/18 AS04-adjuvanted vaccine against cervical infection and precancer caused by oncogenic HPV types (PATRICIA): final analysis of a double-blind, randomized study in young women. Lancet 2009; 374: 301-314.
4)  産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来2017
5) サーバリックス添付文書
6) ガーダシル添付文書
7) http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/hpv/June_2017/en/
8) 第 23 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(平成 28 年 12 月26日)

この記事を書いた人

もも

薬剤師

明治薬科大学 薬学部卒

都内薬学部を卒業後、総合病院に勤務し、DI業務を経験。医療現場のニーズに応えられるように日々精進し、情報を収集・発信中。
臨床の薬剤師のために、そして患者さんのために!

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