嚥下障害の原因となる薬剤

この記事を書いた人

ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

食べ物を認識してから、口を経由して胃の中へ送り込む一連の動作のことを『摂食嚥下』といいます。

「食事中にむせやすくなった・・。」
「食べ物が飲み込み辛くなった・・。」

摂食嚥下障害を訴える高齢の患者さんに医療現場で対応するケースもあるのではないでしょうか。

摂食嚥下障害には、

  • 器質的原因
    構造上に問題がある
  • 機能的原因
    構造上は問題ないが神経や筋肉に問題がある
  • 心理的原因

の大きく3つの原因があり、機能的原因では薬剤が引き起こすケースがあります。

高齢者では、抗うつ薬抗不安薬などの向精神薬が処方されることがあり時に重篤な摂食嚥下障害を引き起こすことが知られています。

摂食嚥下には5つの段階が存在するのですが、嚥下障害を引き起こしやすい薬剤と、どの段階に作用することで嚥下障害を引き起こすのかを知っておくことは薬剤師にも求められます。

摂食嚥下と、嚥下障害を引き起こす薬剤についてまとめました。

摂食嚥下の5期

『摂食嚥下』は下記のように5段階にわけて考えられることから、『摂食嚥下の5期』と呼ばれます。

先行期 視覚、嗅覚などから食べ物を認識して、口に運ぶ前の時期
準備期 食べ物を口腔内に送り込み、咀嚼し、唾液と混ぜ合わさった食塊を形成する時期
口腔期 舌を使って、食塊を咽頭へ送り込む時期
咽頭期 嚥下反射によって、食塊を咽頭から食道入口へ送り込む時期
気道防御機構が働くことで、誤嚥を防止します
食道期 蠕動運動と重力によって、食塊を食道から胃へ送り込む時期
食道入口部の筋肉は収縮し、食塊が逆流しないように閉鎖します

 

薬剤による摂食嚥下障害

各時期の薬による影響を下記にまとめました。

先行期

認知機能の低下や味覚異常、上肢の運動機能へ影響するような薬剤がこの時期に影響します。

準備期

食塊を形成するには唾液分泌や、舌・口腔周囲筋の協調運動などが不可欠です。
口渇や運動障害を起こすような薬剤がこの時期に影響します。

口腔期

口腔期は舌の動きが大きく影響するといわれています。
錐体外路障害を起こす薬剤がこの時期に影響します。

咽頭期

咳・嚥下反射を低下させる薬剤がこの時期に影響します。

食道期

消化管運動を低下させるような薬剤がこの時期に影響します。

嚥下障害を起こしやすい薬剤の分類

意識レベルや注意力を低下させる薬剤

意識レベルの低下や眠気、嚥下反射低下や咳反射低下などが起こるため、先行期をはじめ影響を与える時期は多いとされています。

具体的な薬効分類

抗精神病薬抗うつ薬抗不安薬抗てんかん薬抗ヒスタミン薬

唾液分泌を低下させる薬剤

唾液分泌が低下すると口腔内乾燥がおこります。
味覚異常や咀嚼機能の低下に繋がり、胃腸機能や摂食・嚥下の協調運動にも影響を与えます。

具体的な薬効分類

抗うつ薬抗コリン薬抗ヒスタミン薬利尿薬

錐体外路障害を起こす薬剤

口周囲にみられる不随意運動を含むジスキネジアや、振戦などで先行期~口腔期にまで影響を与えます。

具体的な薬効分類

抗精神病薬制吐薬消化性潰瘍治療薬

筋力低下を招く薬剤

筋弛緩作用による嚥下反射機能の低下や、舌の筋肉が弛緩することで食塊形成不全や送り込み低下などがおこるため、口腔期に影響します。

具体的な薬効分類

筋弛緩薬睡眠薬抗不安薬

消化管運動低下を招く薬剤

蠕動運動の低下や食道括約筋機能の低下、胃食道逆流などが食道期に影響します。

具体的な薬効分類

抗コリン薬Ca拮抗薬β遮断薬

味覚に変化をおよぼす薬剤

味覚の変化や味覚異常は先行期に影響します。

具体的な薬効分類

抗菌薬抗コリン薬利尿薬降圧剤

味覚障害を引き起こす薬剤の詳細はこちらを参照ください。
薬剤性味覚障害の原因と代表的な薬剤

この記事を書いた人

ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

新潟薬科大学薬学部を卒業後、地元の病院に就職。
回復期と慢性期の薬物療法を医師とともに実践中。
中小病院ならではのオールラウンダーな業務に日々邁進中。
今は認定取得に向けて勉強中です。

記事作成のサイトポリシーについてはコチラ

この投稿者の最近の記事

「ヒロ」のすべての投稿記事を見る>>

コメント欄ご利用についてのお願い

  • 薬剤師、薬学生、調剤事務、医師、看護師といった医療に携わる方が使用できるコメント欄となります。
  • 「薬剤師の集合知」となるサイトを目指していますので、補足・不備などございましたらお気軽に記入いただけると幸いです。
  • コメントの公開は運営者の承認制となっており「他のユーザーにとって有益な情報となる」と判断した場合にのみ行われます。
  • 記事に対する質問は内容によってお答えできないケースがございます。
  • 一般消費者からの薬学、医学に関する相談や質問は受けつけておりません。

※コメントはサイト管理者の承認後に公開されます

薬剤師専門サイト「ファーマシスタ」のFacebookページに「いいね!」をすると、薬剤師が現場で活躍するために役立つ情報を受け取ることができます。ぜひ「いいね!」をよろしくお願いします。

お客様により安全にご利用いただけるように、SSLでの暗号化通信で秘匿性を高めています。

ページトップに戻る