薬剤性味覚障害の原因と代表的な薬剤

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ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

薬局や病院で患者さんや家族から、
『ご飯が美味しくない』
『味がかわった』
などと相談されたことはありませんか?

味覚障害の原因でもっとも多いのは、薬剤性味覚障害21.7%
ついで、特発性15%、亜鉛欠乏性14.5%、心因性10.7%と言われています。

食は人間の生活に欠かせないもの。
そこで、薬剤性味覚障害について、原因や代表的な薬剤、病院で経験した症例を取り上げたいと思います。

1.味覚障害の種類

味覚障害にはいろいろな分類がありますが、『濃い味でないと感じない』という味覚減退や、『金属のような味がする』『嫌な味がする』など本来の味と異なった味に感じる錯味、『全く味を感じない』という味覚消失などが代表的です。

特に、薬剤性の味覚障害では味覚減退や錯味が多く報告されており、進行すると味覚消失になるといわれています。

2.薬剤性味覚障害について

薬剤性味覚障害の、好発時期、原因となる薬剤、発生機序について解説します。

2-1 好発時期

多くは、原因となる薬剤を服用後2~6週間で症状がでると言われています。
服用中止後も長期にわたって症状が継続し、緩解まで数ヶ月要することもあります。
できるだけ早期に発見し、原因となる薬剤を中止・変更したほうが症状改善することが多いです。

2-2 原因となる薬

味覚障害は多くの薬で報告されています。報告件数が多い分類は、降圧薬、消化性潰瘍治療薬、抗うつ薬、抗菌薬、抗がん剤です。
また、発生機序からみると、特に亜鉛キレート作用のある薬、抗コリン作用の強い薬で味覚障害を起こしやすいです。

2-3 薬剤性味覚障害の発生機序と原因となる代表的な薬剤

味覚の生理的観点から、薬剤性味覚異常の発症機序は『味物質の運搬への影響』『味覚受容器への影響』に大別されます。

1.味物質の運搬への影響

唾液と混ざりあった味物質を含む食べ物が味蕾にある味覚受容体に到達することで、わたしたちは味を感じます。
唾液が不足していると味覚受容体へ味物質が届きにくくなり、味覚が低下します。
つまり、唾液分泌低下の原因となる薬剤(特に抗コリン作用のある薬)はこの機序で味覚障害をおこします。
代表的な薬剤としては、アミトリプチリンイミプラミンイミダフェナシンプロピベリンオキシブチニンなどがあります。

2.味覚受容器への影響

味覚を感じるのは、舌にある味蕾という器官です。味蕾には味細胞という細胞があり、1か月程度で新しく生まれ変わっています。味細胞の再生には亜鉛が必要ですが、亜鉛が不足すると味細胞が再生できずに機能が低下し、味覚障害がおこることがあります。
薬剤による亜鉛に対するキレート作用(亜鉛の吸収を抑制する作用)と、これに続発する亜鉛欠乏による味細胞へのターンオーバーへの影響が原因として指摘されています。
代表的な薬剤としては、フロセミドレボドパカプトプリルペニシラミンアスピリンなどがあります。

3. 味覚障害を疑ったらどう対応すればいい?

実際に薬剤性味覚障害を疑ったら、薬剤以外の要因も考えなければなりません。ここでは、薬剤以外で味覚障害を引き起こす要因と、患者さんへ説明する際に注意することを解説します。

3-1 味覚障害を引き起こす他の要因

味覚障害は、味蕾から中枢への味覚伝達の異常で起こることがあります。
代表的なものとしては、ウイルス感染悪性腫瘍脳梗塞等があります。
また、舌炎や肝・腎障害なども関連しており、鉄欠乏性貧血による平滑舌、VB12欠乏によるHunter舌炎などもあります。
副作用の可能性を検討すると同時に、これら他の要因も検討する必要があります。

3-2 患者さんへ説明するときに注意したいこと

副作用を疑った場合、被疑薬がすでに副作用報告がある薬剤の場合は、その薬剤が原因と考え中止や他剤への変更が可能かを検討します。
しかし因果関係を証明するためには、味覚異常が薬剤を開始してから現れ、中止により症状が改善することが確認されなければなりません。
このため実際に薬剤性味覚障害を証明するのは困難なことが多いといわれます。
また、味覚異常は人の感覚による判断のため症状の経緯がわかりにくく、急激な改善も期待しにくいです。
改善には時間がかかること、被疑薬は原疾患の重要性から中止ができない場合があることも医師とともに十分に説明しておく必要があります。

4.治療法

味覚障害の治療は大きく4つにわけられ、薬剤性味覚障害では1,2が重要です。

  1. 被疑薬の中止
  2. 亜鉛補給(プロマック、ノベルジンなど)
  3. 口腔乾燥の治療 人工唾液、麦門冬湯など
  4. 口腔ケア

5.症例

83歳女性。脳出血後のリハビリ目的で入院。既往歴なし。

摂食嚥下リハビリを進めていたが、喫食率が5割程度の日が続いていた。管理栄養士が患者さんの好む食事を提供することを試みたが、一向に喫食率は改善しなかった。看護師から副作用の可能性はないかと相談され、患者さんに確認したところ『味が変な風に感じるから食べたくない。』と言われた。脳血管疾患の影響も考えられたが、患者さんが服用していたランソプラゾールで味覚異常の報告があったため、主治医と検討し、消化器症状がないため中止とした。血中の亜鉛濃度は81μg/dlで基準範囲であったが、亜鉛補充を行い、3か月程度経過した頃、患者さんから『以前と比べて、味がわかるようになってきた』と言われた。消化器症状の悪化はなく、血中亜鉛濃度も高くなったため亜鉛補充を終了した。

味覚異常はデータや身体所見だけではわかりにくい副作用です。

患者さんや家族も、『まさか薬の副作用だなんて思わなかった』というケースもあります。今回の記事が、皆さんの日常業務の気づきになれば幸いです。

参考文献
薬物治療と口腔内障害 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)127.447~453(2006)
重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害 平成23年3月厚生労働省

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ヒロ

薬剤師
日本薬剤師研修センター認定薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
認定褥瘡薬剤師

新潟薬科大学薬学部を卒業後、地元の病院に就職。
回復期と慢性期の薬物療法を医師とともに実践中。
中小病院ならではのオールラウンダーな業務に日々邁進中。
今は認定取得に向けて勉強中です。

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