メディカルライターの平野菜摘子です。
「主治医からは授乳OKと言われたのですが、インターネットで検索したら授乳を中止することと記載があって不安・・・。」
「妊娠中だけど、この薬を飲んで赤ちゃんに影響でませんか?」
このように薬局で妊娠、授乳中の方から相談をうけるケースがあるかと思います。
妊娠・授乳期にも、風邪や扁桃腺炎などで処方されることがあるアジスロマイシン(先発商品名:ジスロマック)についての考察と、 妊娠・授乳期の患者について、薬剤師が何をどのように注意すればいいのか、自身の出産・育児経験も参考に述べていきます。
妊娠・授乳期に、歯茎の炎症や風邪や扁桃腺炎では、少し前までは、昔からあるセフェム系の処方が多かったように思えますが、最近はマクロライド系も処方されることがあると思います。
アジスロマイシンを含むマクロライド系は、セフェム系、ペニシリン系と同様に、妊娠中に比較的安全とされている薬になっています(1)。
アジスロマイシンは、妊娠期における催奇形性の研究が行われており、先天奇形発生率の有意な上昇は認められていない、となっています。 また、母乳移行性も低く安全に使用できると書かれています(3)。
以上より、日常の薬局の調剤業務では、アジスロマイシンは妊婦にも授乳婦にも比較的安全に服用できる薬であると答えても差し支えないと考えます。
妊娠週数 | 最終月経日からの日数 | 胎児への影響 |
受精前〜3週まで | 0〜27日 | 無影響期 |
4週〜7週末 | 28〜50日 | 絶対過敏期 |
8週〜12週 | 51〜84日 | 相対過敏期 |
12週〜16週前後 | 85〜112日 | 比較過敏期 |
17週以降 | 113〜出産 | 潜在過敏期 |
絶対過敏期、相対過敏期、比較過敏期は特に慎重にならなければいけない時期ですので、薬局でもより慎重になりましょう。
医師によっては、上記の3つの時期は、緊急時以外の一切の薬を処方しないこともあります。
ジスロマックの添付文書の、妊婦、産婦、授乳婦等の欄を見てみましょう。
妊婦、産婦、授乳婦等への投与
(1)妊婦
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
(2)
授乳婦
ヒト母乳中に移行することが報告されているので、授乳中の婦人に投与することを避け、やむを 得ず投与する場合には、授乳を中止させること。引用元 ジスロマック添付文書
添付文書上はお決まりの文句で書かれているので、あまり参考になりません。
それは妊婦や授乳婦には通常のように臨床試験ができないからです。
研究結果がないことが多いので、ほとんどの薬の添付文書でこのような表現になっています。
ジスロマックの添付文書で「ヒト母乳中に移行」という部分が引っかかるので、インタビューフォームでさらに調べてみましょう。
ジスロマックのインタビューフォームより該当箇所を引用しました。
蜂巣炎の患者に対してアジスロマイシン1gを単回経口投与し、48時間後の乳汁中のアジスロマイシン濃度を測定した結果、0.64μg/mLであった。また、その後継続して500mg/日を3日間経口投与した結果、500mg初回投与1時間後(1g 投与の60時間後)の乳汁中のアジスロマイシン濃度は1.3μg/mL、さらに500mgの3回目投与30時間後の乳汁中のアジスロマイシン濃度は2.8μg/mLであった。
引用元 ジスロマックインタビューフォーム
これらのことから、微々たる量しか母乳中に移行していないと分かります。
移行したと書かれていても、母乳移行性が高いのか低いのかを、私達は判断すべきであると考えます。
アジスロマイシンは小児用製剤が発売されていることからも、たとえ、母乳中に移行して子供が少し飲んだとしても、危機的状況にはなりにくいと考えます。(子供が心疾患などの持病がある場合や、低出生体重児など、 特別な事情がある場合を除く。)
ジスロマック小児用細粒は1日1回体重1kgあたり10mgで小児へ投与可能です。
上記のインタビューフォームで調べたことを踏まえて、 例えば、2.8μg/mlの薬剤が入った母乳を、仮に3kgの体重の乳児が、1日に500ml飲んだ場合は、1400μg(1.4mg)のアジスロマイシンが体内に入ったことになりますが、3kgの乳児が1回に30mgのアジスロマイシンを飲むことと比べたら、少量といえるでしょう。
今回は割愛しますが、更に踏み込むなら、薬の体内濃度がどれくらいで中毒性があるのか、インタビューフォームなどで調べることもできます。
患者が妊娠しているか、または授乳しているかというのは、見た目では分かりにくいです。
自己申告してくれない限り、処方箋を見ただけでは、こちらから聞かないと分からないことが多いので、初回のアンケートだけでなく、その都度の確認は重要です。
男性から聞かれることや、薬局を医療機関と思っていない患者からすると、薬剤師にデリケートなことを聞かれるのに嫌悪感を示す患者も中にはいます。
「お薬を安全に使っていただくために、当薬局では皆さんにお聞きしていますが」
などのワンクッションの言葉を添えると聞きやすいでしょう。
当たり前のことですが、投薬の際、患者が医師へ、妊娠または授乳を告げているか確認するのは必須です。
しかし、投薬時に初めて、妊娠または授乳が分かると、そこから慌てて薬の安全性ついて調べ始めるので時間がかかってしまいます。
ただでさえ通院が辛い状況にあることが多い、妊婦や授乳婦をさらに待たせることになります。
こちらはダブルチェックをしたいわけですが、待たせると、
「医師に言ったからもういいです、帰ります」
という状況になりかねません。
ですから、処方箋を受け取った時点で、該当しそうな年齢の方には、事務員が聞くことにするのも一つの案です。
最近は40代、さらには50代前半で出産をされる方も増えていますので、先入観だけで判断しないように気をつけましょう。
授乳を中止すると、ホルモン、または刺激の減少で、すぐに母乳が止まってしまうことがあります。
風邪薬などの緊急を要しない薬を服用し、授乳をしばらく中断したあとに、母乳が出なくなっていたら、それは母乳で育てたい母親にとって、予期しないショッキングな出来事です。
添付文書通りの指導は、かえって悪い結果につながる可能性があります。
一方で、頻回に母乳を与えている場合は、いきなり授乳を中止すると、母乳が作られすぎて、数時間のうちに乳腺炎になることもあります。
以上のことと、処方薬の安全性を踏まえて、授乳を中止する必要はない、とする医師もいます。
「母乳は自分でコントロールできるものではない」ということは薬剤師にも知っておいてほしいこと の一つです。
授乳を中止するなら、なるべく短い期間にとどめたいものです。
医師から、「薬の服用中は授乳中止」の指示があった場合は、患者には搾乳を勧めるとよいでしょう。
手でも絞れますが、大変なので、手軽に扱える手動の搾乳機が、数千円でネットショップや ドラッグストアで売られています。
そういった商品を紹介するのも良いでしょう。
また、授乳再開時期について、患者が医師より聞いていなかった場合、医師に確認をとるのをお勧めします。
アジスロマイシンの場合は組織内半減期が長いという特性を考慮して再開時期を設定する医師もいます。
妊娠・授乳期の薬の投与については、添付文書が頼りにならないことも多く、医師の経験や裁量に任されることが多くありますので、医師の意見も人によって様々です。
ジスロマックを服用したと告げると、嫌な顔をする産婦人科医もいます。
南山堂の「妊娠と授乳」という本に関しては、産婦人科医師も実際に現場でよく使っているので、疑義照会や服薬指導に役立ててみてはいかがでしょう。
参考資料
(1)今日の治療薬
(2)薬物治療コンサルテーション
(3)妊娠と授乳 改訂2版
(4)ジスロマック錠250mg 添付文書
(5)ジスロマック細粒小児用10% 添付文書
(6)ジスロマック インタビューフォーム
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