慢性腎臓病(CKD)の定義・原因・治療について

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

今回は年々増加している慢性腎臓病CKD : Chronic Kidney Disease)の定義、病態、治療について述べたいと思います。

CKDの定義

CKD診療ガイド2012によると慢性腎臓病(CKD)の定義は以下の通りです。

  1. 尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか、特に蛋白尿の存在が重要
  2. 糸球体濾過量(GFR)<60mL/min/1.73m2

1,2のいずれか、または両方が3カ月以上持続する。

CKDの原因

CKDの原因で代表的なものは糖尿病、高血圧などの生活習慣病や慢性糸球体腎炎です。

以前は慢性糸球体腎炎が透析導入の原因となる疾患のトップでしたが、1998年からは糖尿病性腎症がトップになっています。

透析導入患者の主要原疾患の比較

  1983年 2016年
第一位 慢性糸球体腎炎 糖尿病性腎症
第二位 糖尿病性腎症 慢性糸球体腎炎
第三位 不明 腎硬化症

参照 「日本透析医学会:図説 わが国の慢性透析療法の現状(2016年)」

CKDの経過

CKDは自覚症状がほとんどなく、長い年月をかけて腎機能が低下していきます。

放置していると慢性腎不全に陥り、最終的には透析、腎移植が必要になります。
また、腎機能の低下により、脳卒中や心筋梗塞などの心血管病のリスクも高まります。

一般的に血清クレアチニン(Cr)値が2mg/dL以上になると、すでに腎機能は30%低下しているとされ、慢性腎不全になったと判断されます。

さらに血清Cr値が8mg/dL以上になると透析が必要になります。
 
参照 「患者さんとともに理解するCKDと血液透析」

CKD分類

GFRの値とステージは下記のとおりです。

ステージ GFR (mL/min/1.73m2)
G1 正常または高値 ≧90
G2 正常または軽度低下 60~89
G3a 軽度~中等度低下 45~59
G3b 中等度~高度低下 30~44
G4 高度低下 15~29
G5 末期腎不全(ESKD) <15

参照 「腎機能別薬剤投与量」

添付文書での腎機能の指標について

ガイドラインではGFRが用いられますが、添付文書ではクレアチニンクリアランス(CLcr)を用いることが多いです。

これは治験が欧米で行われることが多かったためです。

Crは尿細管で分泌されるため、CLcrはGFRよりも20~30%高値になります。
(GFR測定に用いられるイヌリンは尿細管で再吸収、分泌されません。)

しかし、欧米ではJaffe法という日本とは違う方法で血清Cr値を測定していて、この方法では実際の血清Cr値よりも20~30%高くなってしまい、実際のCLcrも低く評価されてしまいます。
(日本では正確な酵素法という方法で測定されています。)

つまり添付文書に用いられているCLcrは真の値よりも20~30%低値であり、GFRよりも高値という影響が相殺され、GFRの値とほぼ同等になります。

したがって、ほとんどの添付文書で腎機能の指標がCLcrになっていても、CLcr≒GFRと考えてよいということです。

しかし、2011年以降、IDMSに準じた正確なCr測定法に変更された後に米国、カナダで治験された薬物や新しい薬物で日本だけで治験された薬物に関しては、添付文書にGFRが記載されていれば、GFRをそのまま使用できます。
 
参照 「腎機能別薬剤投与量」より

標準化eGFRと未補正eGFRについて

eGFRはmL/min/1.73m2と表したものと、mL/minと表したものがあります。

前者は標準化eGFR(mL/min/1.73m2)と言われ、標準体表面積1.73m2(身長170cm、体重63kg)の場合のGFRで補正されています1)

標準化eGFRはCKD重症度分類に用います。

後者は個別eGFR(mL/min)と言われ、補正されていません。
薬物投与設計の際は、個々の患者の体格に応じた腎機能の評価が必要なので、こちらを用います。

標準eGFRは患者固有の腎機能を示していないので薬物投与設計には用いません2)

また薬物投与設計の時におけるCLcrについてですが、酵素法により算出したCLcrを用いません。

これは前述した通り、添付文書でのCLcrはJaffe法で測定した血清Cr値から算出されているからです。

薬物投与設計では個別eGFRを用いるか、Cockcroft-Gault式の血清Cr値のところに酵素法で測定した血清Cr値×0.2を代入して求めた推定CLcrを用います。

参照
*1)「腎機能別薬剤投与量」より 

2)「腎機能を評価するための10の鉄則改訂5版」より

CKDの治療

CKDは完治することができませんので、進行を遅らせることが治療の目的となります。

CKDの治療方法の一覧です。

  1. 生活習慣の改善
  2. 食事指導
  3. 高血圧治療
  4. 尿蛋白、尿中アルブミンの減少
  5. 糖尿病の治療
  6. 脂質異常症の治療
  7. 貧血に対する治療
  8. 骨・ミネラル代謝異常に対する治療
  9. 高尿酸血症に対する治療
  10. 尿毒症に対する治療
  11. CKDの原因疾患に対する治療

参照 「CKD診療ガイド2012」

CKDは薬の管理が重要

生活習慣病が主な原因になりつつあるCKDはこれからも増えていくでしょう。

CKDの予防、進行予防には生活習慣の改善、食事療法、薬物治療など幅広いサポートが必要で、また腎機能が低下していることから薬の副作用が出やすくなることから、薬剤師の役割が重要になってくると思います。

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

東邦大学大学院薬学研究科で修士課程修了後、都内の病院で薬剤師として勤務。その後、調剤薬局へ転職。東京、千葉、福島にて勤務経験あり。
現在は石川県で育児の傍ら勉強中。英会話が趣味で、TOEIC810点取得。

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