こんにちは。
健康食品を担当しているエビデンスエージェントの工藤知也です。
薬剤師が名前を呼ぶと、ゆっくり歩いてきて開口一番、
「運動しなさい!って先生に毎回言われるけど。本当に歩くの嫌い。すぐに車を使ってしまうわ。家でもゴロゴロしているの。だから、体重も増える一方(笑)。」
こんなやり取りは、薬局での日常ですね。
外に出る切っ掛けを患者さんにどうにか与えたいと考える薬剤師は多いはずです。
ここで、薬剤師のアドアイスが患者さんの生活を変えるのであれば、薬剤師の存在感は大きいでしょう。しかし、言うほど簡単ではありませんよね。
こういう時「始めは1日5分で構いませんから歩いてみましょう。」と提案していますが、それでも反応しない患者さんは少なくありません。
ややきつい運動を1日40分で週3回以上がゴールと考えると、かなり遠い道のりです。
何か、他のアプローチは無かろうかと模索していたところ、
「日光浴によるビタミンD生成の増加」に関する論文が目に留まりました。
運動とは陽を浴びることだから、
「運動へのアプローチとして日光浴のエビデンスを利用できないか?」
そんな期待が湧き起こりました。
論文のタイトルを見ると、ビタミンDについて大昔の授業を思い浮かべました。
「ビタミンDは、食事由来の経路と紫外線により生成する経路からやってきて、骨との関係で重要。」
「日光浴でビタミンDが生成するのは教科書レベルの話で何ら珍しい物でもなかろう。
この論文の意義は何だろうか?」
読み始めると直ぐに、この意義について理解しました。
教科書の中では当然の記述でしたが、紫外線の量と生体内でのビタミンD量の相関性を検討した論文がこれまで存在しなかったようなのです。
確かに、個人が浴びる紫外線量を客観的に評価するのは難しいかもしれませんね。
紫外線は地域, 天候そして季節により変わりますから個人の行動把握も含めて根気のいる研究になりそうです。
試験管レベルの知見が、実際には疫学的に確認されていないのに、その知見をヒトの知見に還元してしまう例は珍しくありません。
試験管レベルの知見は、疫学的解析を待って初めて確かな知見になっていくわけで、これは医薬品の開発を見れば明らかです。
今回の論文は、それを改めて自戒する機会にもなりました。
アイルランドにあるダブリン大学のO’sullivanらは、平均年齢73歳の被験者5138名(67%女性)で解析を進めました。
まず筆者らは、質問票を使ってサプリメントや日光浴を含むライフスタイルの情報を収集しています。日々のビタミンDを合成する紫外線(D-UVB)量はインターネットサービスから取得し、個人の室内でのD-UVB量も計測しています。
そして、同時期に血清ビタミンD量を測定したわけです。
結果は、血清ビタミンD濃度が、サプリメント, 日光浴そしてD-UVBの量と有意な相関性を示していました1)。
これより、紫外線による生体内のビタミンD量の増加を確認して、教科書の記述を証明したわけです。
そして、高齢者でも紫外線を浴びると血清ビタミンDが増加する点は、薬剤師が患者さんに運動を勧める理由として使えそうです。
では、実際に薬局でどのようなタイミングで使いましょうか。
患者:「外に出るのは面倒。先生は運動するように話すけど。」
薬剤師:「買い物はどうしてるのですか?」
患者:「自転車で数分だもの。」
薬剤師:「自転車でも運動にはなりますよ。もう少し遠くのお店に行ってみては?」
患者:「それなら、バスを使うかな。」
薬剤師:「では、ウォーキングを1日5分からでも初めてみませんか?」
患者:「5分じゃ、何も役に立たないでしょ。」
薬剤師:「外に出る習慣をつけることが大切です。それに、陽が当たるとビタミンDが増えるので骨にも良いのです。」
患者:「そうなの。陽を浴びるのも必要なのね。5分くらいならやれるかも。」
薬剤師:「毎日でなくても構いません。週に3回を目標にしましょう。」
さて、次回にはどんな話が聞けるのか楽しみですが、
例え実践していなくても覚えていてくれただけでも誉めましょう。
人間、誉められて嫌な思いをする方はいませんよね。 患者さんの話を聞きながらまた同様の話題を展開してみます。
患者さんの中にエビデンスが染み込むには根気が必要なのです。
今回は、紫外線を浴びる量と血清ビタミンDの相関性を示す論文をきっかけに、
陽を浴びる大切さから運動を勧めるアプローチをお話ししました。
栄養関連の国際誌には、薬局で使える内容が盛りだくさんです。
これからも現場で使えるエビデンスを実践形式でお伝えできればと思います。
引用文献
1) O’Sullivan F, et al. Ambient UVB Dose and Sun Enjoyment Are Important Predictors of Vitamin D Status in an Older Population. J Nutr. 2017; 147(5): 858-868. PMID: 28331054
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