こんにちは。
健康食品の話題を担当しているエビデンスエージェントの工藤知也です。
これまでの2回では、脱水を防ぐ経口補水理論や、
低カロリー食品を実現するための甘味料について取り上げました。
今回は原点に立ち返り、健康食品の定義に注目します。
皆さんは、「健康食品って一体どんな食品のことですか?」
と聞かれたら適切な返答ができるでしょうか?
これは、かなり難しい質問であると言わざるを得ません。
なぜならば、健康食品には、明確な定義がないからです。
しかし、薬剤師にとってはこの辺りの事柄を理解しておきたいところですね。
そこで、関連する法律を踏まえながら食品と医薬品の境を確認してみましょう。
日本では、口に入る物を、
「食品」または「医薬品」のいずれかに分類します。
まずは、医薬品の定義から見ていきましょう。
医薬品の定義は、
「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律」
の第二条に記載してあります。
一 日本薬局方に収められている物
二 人または動物の疾病の治療・診断・予防に使用されることが目的とされている物
三 人または動物の身体の構造および機能に影響を及ぼすことが目的とされている物
1は明確ですが、2と3のポイントは「目的」という単語を含むことですね。
例えば、甘いお菓子を食べれば急激に血糖値が上がりますが、
これは身体の機能に影響を与えているので医薬品なのでしょうか?
脂っこいモノを食べ続ければ体重が増えますが、
これは身体の構造に影響を与えているので医薬品なのでしょうか?
いいえ。
これらは、結果であって「目的」ではないので、医薬品にはなりませんね。
ところが、最近では食品売り場に、
「血圧が高めの方に」や「コレステロールが気になる方に」などを標榜する商品が並んでいます。
これらは、明らかに2と3の医薬品の定義に合致しています。
一体どういうことでしょうか?
食品の機能には、栄養・嗜好・生体調節という三つの機能がありますので、
元来、食品には身体の構造や機能に影響を与える、
あるいは疾病の予防に使う目的があっても不思議ではありません。
※農産物・食品の機能性とは|神奈川県ホームページ
こう考えると、医薬品の定義は非常に曖昧であることがわかります。
特に現代では、科学技術の進歩に伴い疾病の予防や身体の構造機能に影響を及ぼす物質の発見が増加し、医薬品と食品の境がますます不明確になってきています。
昭和46年に当時の厚生省は、
「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」を通知しました。
厚生労働省は、この局長通知を昨年の12月の改正を含めてこれまで15回改正してきました。
そして、この通知の中で「医薬品の範囲に関する基準」(以下、医薬品範囲基準)を示して、医薬品と食品をより明確に区別しています。
医薬品範囲基準では以下の物は、「ただし、次の物は、原則として、通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識しないものと判断して差し支えない」と述べています。
1. 野菜、果物、調理品等その外観、形状等から明らかに食品と認識される物
2. 特別用途食品(健康増進法に基づく)
3. 機能性表示食品(食品表示法に基づく)
またここでも、「目的」が出てきましたね。
つまり、医薬品の定義で想定する程の「目的」に達していないという解釈です。
特別用途食品には、以下の5つが該当します。
1. 病者用食品(例:オーエスワン)
2. 妊産婦、授乳婦用粉乳
3. 乳児用調整粉乳
4. えん下困難者用食品
5. 特定保健用食品(トクホ)
機能性表示食品は、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠を届け出れば、食品に機能性を表示できる制度で、平成27年4月からスタートしています。
ここまでで、医薬品と食品の境が少しクリアになってきたのではないでしょうか。
しかし、今回の目的は、「健康食品とは一体何だろう」でしたね。
その答えに、迫っていきましょう。
まず、これまでに出てきた特定保健用食品と機能性表示食品に、栄養機能食品(栄養成分の補給・補完を目的)を合わせて「保健機能食品」と表現しています。保健機能食品は健康食品と言っていいですね。
そして、食品に相当する理由は、医薬品の定義で想定する程の「目的」に達していないことでした。
従って、通常人が医薬品の定義で想定する程の「目的」を認識せず、かつ医薬品と誤って認識しない標榜や形状であれば、それも健康食品と言えることになります。このような健康食品の範囲を、「いわゆる健康食品」と呼ぶことにしましょう。
健康食品=保健機能食品+いわゆる健康食品
※「健康食品」のホームページ|厚生労働省
では、この「いわゆる健康食品」を、どのように区別するのでしょうか?
判断は、以下の4点で行います。
1. 物の成分本質(原材料)からみた分類
2. 医薬品的な効能効果の標榜
3. 医薬品的な形状
4. 医薬品的な用法用量の表示
1では、物の成分本質(原材料)が、専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)であるか否かについて判断します。1に該当すると判断された成分本質(原材料)はリストとして公表されています(専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト)。
これは、言われてみれば当たり前のことですが、例を挙げてみると、「なるほど、確認する必要があるな」と実感します。
アロエについて
まずは、アロエを考えてみましょう。
アロエは、化粧品で見かけますが、ヨーグルトにも入っていますね。
リストで確認すると、アロエの葉の液汁は医薬品ですが、根と葉肉は医薬品に該当しないようです。
センナについて
次に、センナはどうでしょうか?
最近、センナ茶を食品として販売しているのを目にしますが、
センナの果実と葉はリストに載っており、茎のみが食品として取り扱えるようです。
グルタミン酸について
最後に、グルタミン酸について確認します。
グルタミン酸は、味の素として有名ですが、日本薬局方にも載っています。
専ら医薬品として使用される物であっても、ビタミン、ミネラル類およびアミノ酸を分類から除外しています。
さて、1の判断をクリアすると、それは「いわゆる健康食品」の可能性が高くなってきます。
後は2から4に該当する「医薬品と誤って認識しない標榜や形状」でなければ、「いわゆる健康食品」という訳です。
2の効能効果の標榜には様々な例示がありますが、
その中でも「身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効能効果」では、「栄養補給」・「健康維持」の表現は問題ありませんが、
「疲労回復」・「強精強壮」・「体力増強」・「食欲増進」・「老化防止」・「勉学能力を高める」といった表現は医薬品的な効能効果を標榜しているとみなしています。
また、効能効果を暗示させることもいけません。
例えば、大学教授が、
「○○の成分には、癌細胞の増殖を抑制する効果があることが報告されています。」
的な学術的知見を述べている広告を見受けますが、
これは暗示の類にあたります。
また、2001年の改正で、
錠剤やカプセルなど医薬品のような形態でも食品であることを明記すれば、
形状だけでは医薬品とは判断しないことになりました。
従って、3の要件は比較的ハードルが低くなってきています。
いかがでしたでしょうか?
軽い気持ちで始めた、食品と医薬品の境の探索でしたが、
想像以上に険しく驚きました。
以下に図にまとめましたので、再度確認してみて下さい!
健康食品の知識体系を理解する一助になると同時に、
患者さんへの健康アドバイスを再考するキッカケになるかもしれません。
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