チェーン薬局勤務の薬剤師、シンです。
HbA1cは基準値の6.2%以内を目標にしましょう。
薬局でも糖尿病患者さんにこのような説明をされることがあるかと思います。
もし、認知症のある高齢の糖尿病患者さんの場合はどうでしょう?
画一的に「HbA1cは6.2%以内」といった目標設定にしてしまうことで重症低血糖を引き起こしてしまう可能性もゼロではありません。
2016年5月20日に日本糖尿病学会の発表した「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」というガイドライン(以下 本ガイドライン)では、
「HbA1c目標は、一律6.2%以下を目指すのではなく、個々の患者さんの状態に合わせて設定したほうがよい」
という考えを示しています。
本ガイドラインにおける高齢者とは、65歳以上を想定しております。
なお、平成26年10月の厚生労働省患者調査によると、推定の国内糖尿病患者数は24万3千人、その内65歳以上は16万5千人(68%)と、糖尿病患者さんの2/3は高齢者です(1)。
本ガイドラインで具体的にどのようにHbA1cの目標値を設定するのか解説していきます。
薬局薬剤師にとっても、服薬指導に役立つ情報となれば幸いです。
HbA1c(NGSP;国際標準値)の目標は、年齢、性別、併存疾患などに関わらず、6.2%以下とされております。
しかし、近年の臨床研究により、従来考えられていたよりも、高血糖のデメリットは小さく、低血糖のデメリットが大きいことが分かってきました。
高齢者糖尿病の患者さんでも、高血糖は、糖尿病細血管症、大血管症、感染症、死亡、認知機能障害、ADL低下、サルコペニア、フレイル、転倒・骨折と関連しているとの報告があります。
しかし、血糖コントロールの改善が、これらの予防になるという明確なエビデンスもないというのが現状です。
一方、高齢者糖尿病患者さんの重症低血糖は、認知機能低下、転倒・骨折、うつ病、QOL低下、心血管疾患発症と関係があるとの報告があります。
HbA1cと大血管症発症との間には、Jカーブ(ある数値付近で最少となり、それより高くても低くてもリスク増加となる状態)が見られるとの報告もありますので、低血糖が起きないようにすることも重要だとの考え方が広まってきております。
本ガイドラインでの、基本的な考え方は以下の通りです。
上記の中で、基本的ADLとは、着衣,移動,入浴,トイレの使用などで、手段的ADLとは、買い物,食事の準備,服薬管理,金銭管理などです。
本ガイドラインの目標値は、これまでの一律6.2%以下よりも穏やかなものです。
また、インスリン製剤、SU剤、グリニド薬のような低血糖をおこしやすい薬を使用中の場合には、HbA1cの下限が設定されているということが新しいものです。
下限の設定は、無自覚低血糖を防ぐためのものです。
高齢者になると、低血糖症状(空腹感、動悸、冷や汗、ふらつき等)を自覚しにくくなり、低血糖になっていても対処しづらくなります。
私の経験でも、
「これまで一度も低血糖になったことがない」
と断言されていた患者さんの血糖値が66mg/dlになっていたことがありました。
低血糖の定義は、血糖値70mg/dl以下ですので、この患者さんは低血糖になっておりました。
血糖値が66mg/dlになっていても、自覚症状はなかったようです。
夜寝ている間の低血糖も気を付ける必要があります。
朝起きた時に寝汗をかいていたり、頭痛があるような場合には夜間低血糖を起こしていたのかもしれません。
夜間低血糖の可能性のある症状が出ている方や、低血糖を起こしやすい薬剤使用中で、HbA1cが下限よりも下がってしまった患者さんについては、トレーシングレポートを医師へ提出し、減量を提案してもよいかもしれません。
ただし、上記目標値は、あくまでもガイドラインであり、厳密に遵守することが正しいとは限りません。
基本的な考え方でも述べられておりますが、治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定されるものです。
家族のサポートが十分であれば、表よりも厳格な目標を設定できるかもしれません。
高齢になるほど重症低血糖の危険性が高まりますので、高齢者ではもっと穏やかな目標設定の方が良いこともあると考えます。
引用
(1)平成26年患者調査の概況 厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態・保健社会統計課 保健統計室 岩﨑容子、渡三佳 平成17年12月17日
(2)「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」を踏まえた治療の要点と展望 荒木厚、井藤英喜 日老医誌 2018;55:1―12
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