メディカルライターの平野菜摘子です。
実際に私が経験したネキシウム(一般名:エソメプラゾール)とプレタール(一般名:シロスタゾール)を別の病院からそれぞれ処方され、内出血をおこしていた可能性のあった、高齢の患者さんの例について報告します。
どこの薬局でも起こりうる可能性がありますので、ぜひ頭の片隅においておくことをオススメします。
佐藤幸一(仮名)さん(72歳)は、腕の斑点をご自分で発見され、薬局に来店されました。
腕の皮膚の下に、広範囲にわたって赤黒い斑点が複数あることを筆者も一緒に確認し、もしかして内出血かもしれないと疑い、処方薬を調べることにしました。
ご自身では、どこかにぶつけた覚えはないとのことでした。
処方内容
薬局門前の内科クリニックにて定期処方
T大学病院にも通院しており、手帳にて以前、併用薬をチェックしていました。
T大学病院処方
もしこれが内出血であるとすれば、プレタールの効きすぎではないかと疑いました。
普段の調剤業務で、個々の薬の代謝酵素まで確認している人は私含めて少ないと思いますが、なにか問題があった時に、代謝酵素は添付文書で簡単に確認できることが多いので、知っておくといいかと思います。
この2つの薬剤の代謝酵素はなんでしょうか。
プレタールは主にCYP2C19で代謝されます。(CYP3A4とCYP2D6でも代謝されます。)
ネキシウムも主にCYP2C19で代謝されます。(CYP3A4でも代謝されます。)
またCYP2C19は、遺伝子多型が知られており、東洋人にはPM(Poor Metabolizer)が多いのです(約20%と言われている。白人は約4%)。
この患者がPMかどうかは分かりませんが、もともとこれらの薬剤を代謝しにくい人が日本に多い上に、今回は、同じ代謝酵素で主に代謝される薬剤が、別々の病院から処方されていました。
主に同じCYP2C19で代謝されるネキシウムとシロスタゾール製剤は併用注意となっています。
以下にネキシウムの添付文書を抜粋します。
併用注意
シロスタゾール
理由
シロスタゾールの作用増強の可能性があるため
本剤は主に肝臓のチトクロームP450系薬物代謝酵 素CYP2C19で代謝されるため、本剤と同じ代謝酵素で代謝される薬物の代謝、 排泄を遅延させるおそれが ある。引用元 ネキシウム添付文書
そのためネキシウムとシロスタゾール製剤が併用されている場合は、出血傾向の増強に特に注意しなければいけません。
またPPIであるオメプラゾール(商品名:オメプラール)はCYP2C19を阻害することからシロスタゾール(商品名:プレタール)の作用を増強させる可能性があるため併用注意となっています。
佐藤幸一(仮名)さん(72歳)の薬歴を簡潔にまとめます。
H24.4
胃のムカムカで内科クリニックに初受診、ネキシウムを処方される。併用薬の確認。
H24.9
両腕にあざがあることを薬剤師が確認。電話にて、プレタールの投与が開始されたと患者から報告。あざについてはいつからかは不明だが、プレタール服用前からあるとのこと。
H24.10
ネキシウムの長期投与が可能に。この患者もネキシウムを継続する。
H24.11
T大学病院の薬もここの薬局でもらえるのか、と本人より確認あり。
H25.1
ネキシウムはGERD(逆流性食道炎)で服用していると本人より聞き取り。
H25.4
ネキシウムが奏効していると、本人談。引き続き継続。
H25.6.26
腕に湿疹があると訴え、当薬局に来局。
以前よりあざはあったようですが、今回は本人も気にするほどで、来店されました。
薬局でも、プレタールの効きすぎなのではと疑い、その場で、T大学病院の
内科主治医に電話をし、患者の状況、併用薬とその処方歴、薬物代謝について報告しました。
クリニックの併用薬はT大学病院の医師には伝わっていなかったようでした。
患者にはT大学病院への受診勧奨をしました。
後日、T大学病院の処方のプレタールOD(100)がカットになったと本人から報告がありました。
H25.8.20
T大学病院の処方箋を初めて持って来局。(プレタールの処方はなかった)
H25.8.26
腕のあざが悪化し、出血もあり来局。直ちにT大学
病院への受診勧奨。
H25.8.27
内臓の内出血はなかったとDrより聞いたと、本人より確認。
今回は、腕のあざは結果的には、内出血ではあったのですが、なにが原因で内出血に至ったのかは、分かりませんでした。
またプレタールを辞めたあともなぜ悪化したのかも不明のままです。
しかし、疑義照会でT大学病院に併用薬を伝え、原因になりそうな薬剤が専門医の判断によって、結果的にカットされたことで、薬局の果たした義務は大きいと言えるでしょう。
初めてプレタールを処方された時、患者の認識としては、全く別の疾患で処方を受けているわけで、医師にあざの相談はしていませんでした。
そのため、T大学病院では、出血傾向のある患者であると見逃されていた可能性はあります。
患者は、あざについて、どこに相談していいかわからず、今まで放っておいたようでした。
患者の気になった些細なことを、気軽に相談できる、かかりつけ薬局の役割は、重大な疾患を未然に防ぐ上でも、重要であると考えます。
一人一人の患者に向き合い、信頼感から、かかりつけ薬局にしていただければ、他院の処方箋を自然と持ってきてくださります。薬局の経営上、売上にも直結してきます。
また、お薬手帳の重要性も再認識された例であります。
特に高齢者は、他院で併用薬が多くある場合が多いです。
手帳を忘れたからと言ってそのままにせず、患者が帰宅したら、当日中に家から電話で教えてもらうと言った、一歩踏み込んだ指導が、問題が起こった時の、迅速な対応に繋がります。
参考文献
Frequency Distribution of CYP2C19,CYP2D6 and CYP2C9 Mutant-alleles in Several Different Populations. KUBOTA Takahiro, CHIBA Kan, IGA Tatsuji
プレタール、ネキシウム 添付文書
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