こちらは薬局薬剤師、病院薬剤師に向けた教育目的の記事となっています。
N-terminal prohormone of brain natriuretic peptide(脳性利尿ペプチドのN末端ペプチド)の略。
心筋の進展や圧上昇により主に心室から放出されます。
心不全の診断や重症度の目安として測定されます。
安定性が高いため血清採血で測定ができるので採血から測定までの時間が長くなりがちな在宅医療や診療所での採血に適しています。
専用スピッツを用意する必要がないため採血時の負担も少ないというメリットがあります。
2020年8月にネプリライシン阻害薬であるサクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(商品名エンレスト)が発売となったことでネプリライシンの影響を受けないNT-proBNPの重要性は増しています。
日本心不全学会によるステートメントでは下記のように記載されています
●正常値は一般に普及している18.4pg/mlを用いました。この値より低い場合には、潜在的な心不全の可能性は極めて低いと判断されます。
●血中BNP値が18.4-40pg/mlの場合は、心不全の危険因子を有している症例でも、直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低いと判断されます。ただし、BNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合(収縮性心膜炎、僧帽弁狭窄症、発作的に生じる不整脈、一部の虚血性心疾患、高度肥満などを伴う心不全)もあるので、症状や症候を十分に加味して判断して下さい。
●40-100pg/mlの場合には、軽度の心不全の可能性があります。危険要因が多い症例や心不全を発症する基礎疾患を持っている症例では、胸部X線、心電図、心エコー図検査の実施をお勧めします。ただ、この範囲では、重症心不全である可能性は低く、BNP上昇の原因がある程度特定できれば、そのまま経過観察することも可能でしょう。
●100-200pg/mlの場合は、治療対象となる心不全である可能性があります。心エコー図検査を含む検査を早期に実施し、原因検索をお願いします。もし、心不全を疑う所見が得られ、対応が難しいようであれば専門医にご紹介下さい。
●200pg/ml以上の場合は、治療対象となる心不全である可能性が高いと思われます。原因検索に引き続き、症状を伴う場合は心不全治療を開始して下さい。更なる診療が必要な場合には専門医での対応を考慮して下さい。
BNPは生体内で受容体結合や代謝、腎排泄されるのに対してNT-proBNPは主にほぼ腎臓排泄のため半減期はBNP20分、NT-proBNP90〜120分と差があります。
またNT-proBNPは安定性が高いため血清採血での測定が可能ですが、BNPは血漿採血が必要となります。
感度、特異度に差はないとされていますが、NT-proBNPはほとんどが腎排泄されるため腎機能低下例や透析患者などでは大幅に上昇することがあり注意が必要です。
BNP | NT-proBNP | |
分子量 | 3470 | 8460 |
半減期 | 20分 | 90〜120分 |
代謝経路 | ネプリライシンやDPP4などにより分解 腎臓から排泄 | ほとんどが腎臓から排泄 |
生理活性 | 利尿作用、血管拡張作用など | なし |
採血スピッツ | 血漿 | 血漿・血清 |
心不全、心筋梗塞、不整脈、高血圧症のほか腎機能低下などでも上昇します。
NT-proBNPはほとんどが腎排泄のため薬剤の影響はあまり受けないとされています。
NT-proBNPは腎機能の影響を強く受けるため年齢別の検証が行われています。
呼吸困難患者に対する試験の結果は表の通りで基準値を300pg/mLとした場合、全年齢での陰性適中率が98%となり急性心不全の除外診断として非常に有効とされています。2)
ただし高齢者では腎機能低下の影響で、多くの患者さんが300pg/mLを超えているため除外基準としての有用性は低くなります。
年齢 | 基準値(pg/mL) | 感度(%) | 特異度(%) |
50歳未満 | 450 | 97 | 93 |
50-75歳 | 900 | 90 | 82 |
75歳以上 | 1800 | 85 | 73 |
全年齢 | 300 | 99 | 60 |
参考文献
1)日本心不全学会急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
2)Eur Heart J 2006;27(3):330-7.
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