ある日の病棟での出来事・・・
看護師さんから、こんな質問受けました。
この認知症の患者さん、1週間前はリスペリドンが処方されていたけど、先生が今日からペロスピロンに変更するって。調べたらどっちも同じ抗精神病薬っていう分類だけど、変更することに意味はあるの?
薬剤師の皆さんはどのようにお答えしますでしょうか?
近年認知症に伴う様々な周辺症状(BPSD)に対して、多種多様な薬剤が用いられます。
私の勤務する病院は認知症の患者が多く、先ほどのような質問をよく受けます。
しかし中には適応外処方となっているものも多く、添付文書上の情報だけでは十分とは言えないことがあります。
そのため、(特に家族への)説明の時には注意しないと誤解を招くことがあります。
また、添付文書に書かれている以上の特性を知ることで処方意図をより理解することができます。
日々病棟で質問を受けることが多い抗精神病薬の適応外処方を中心にまとめてみました。
認知症の症状の一つである行動・心理症状(behavioral psychological symptoms of dementia:BPSD)は、認知症患者の約8割に認められていると言われています。
BPSDには不眠や幻覚・妄想、焦燥感など様々な症状があり、患者の苦痛はもちろんですがそれ以上に家族や介護者の心理的、身体的な苦痛が大きいことも知られています。
このような背景から、認知症に対しては中核症状のほかBPSDへの対応も重要となります。
しかし、BPSDに対しての薬物療法は保険適応で認められているものは少なく、多くの薬剤が適応外処方となっており、適切な服薬指導が難しいのが現状です。
一般的には抗不安薬、睡眠薬などのベンゾジアゼピン系薬剤など各症状に合わせて薬が処方されます。
近年では抗精神病薬や一部の抗うつ薬(ミアンセリン、トラゾドンなど)、抗てんかん薬(バルプロ酸Na、カルバマゼピンなど)が有効との報告もありますが、処方頻度の高い抗精神病薬について詳しくとりあげます。
抗精神病薬は基本的にはドパミンD2受容体遮断作用が主ですが、薬剤の特徴は各受容体への親和性によって異なります。
ドパミンD2受容体への親和性をゼロとしたときに、他の受容体へどのくらいくっつきやすいかで各薬剤の特徴を理解することができます。
同じ人間でも『目が大きい』『鼻が高い』など一人一人の顔に個性があるのと同様に、各薬剤にも個性があります。
それでは薬の個性をみていく前に、各受容体の作用をおさらいしましょう。
セロトニン5-HT1A受容体 | 抗不安作用や錐体外路症状軽減作用 (アゴニスト作用の場合) |
セロトニン5-HT2A受容体 | 睡眠状態を改善、気持ちの安定、錐体外路症状の軽減 |
セロトニン5-HT2C受容体 | 食欲亢進、肥満 |
ドパミンD2受容体 | 抗精神病作用、錐体外路症状を起こす |
ヒスタミンH1受容体 | 眠気をおこしやすく、過鎮静になることもある |
ムスカリン受容体 | 抗コリン作用。便秘、口渇、尿閉と関連。認知機能へも影響する |
アドレナリンα1受容体 | 起立性低血圧や過鎮静と関連 |
これらの受容体にどのくらい作用するか、しないかを理解することで、期待される効果、起こりうる副作用を予測しやすくなります。
では、各薬剤の解説をしていきます。
ドパミンD2受容体以外に、α1受容体への親和性が高い。
他の受容体への親和性は低いため、抗コリン作用による便秘や口渇などは少ないと考えることができます。
ドパミンD2受容体以外に、セロトニン5-HT2A受容体への親和性が高いため、睡眠状態の改善が期待できます。
また、α1受容体への親和性も高いため、起立性低血圧や過鎮静には注意が必要です。
ただし、ムスカリン受容体への親和性は低いため、抗コリン作用による便秘、口渇、尿閉などは起こしにくいです。
ドパミンD2受容体以外にセロトニン5-HT2A受容体への親和性が高いため、睡眠状態の改善が期待できます。
リスペリドンと異なり、セロトニン5-HT2C受容体やヒスタミンH1受容体への親和性も高いため、体重増加、食欲亢進などがおこります。
そのため添付文書では糖尿患者へは禁忌。
また、ムスカリン受容体への親和性も高く、便秘や口渇にも注意が必要です。
オランザピンと似たような受容体特性をもちます。
ドパミンD2受容体以外にセロトニン5-HT2A受容体への親和性が高い薬剤。
セロトニン5-HT2C受容体への親和性は比較的低いため、オランザピンよりも食欲亢進を起こしにくいと考えられます。
しかし、ヒスタミンH1受容体への親和性は高いため、体重増加などの代謝系副作用を起こす可能性があり、添付文書上で糖尿病患者へは禁忌となっています。
また、α1受容体への親和性も高いため、過鎮静や起立性低血圧への注意が必要です。
ドパミンD2受容体以外にセロトニン5-HT2A受容体への親和性が高い薬剤。
セロトニン5-HT1Aへの親和性も高いため、抗不安作用が期待できます。
ムスカリン受容体やセロトニン5-HT2C受容体などへの親和性は低いため、抗コリン作用や肥満、体重増加などを起こしにくく、高齢者へ比較的安全に使用できる薬剤とされています。
ハロペリドールと似た受容体特性をもっています。
異なる点は、ドパミンの部分作動薬*(パーシャルアゴニスト)という点です。
また、ヒスタミンH1受容体やα1受容体への親和性が低いため、眠気や過鎮静はおこしにくいと考えられます。
一方で、この特徴のため薬を切り替えたときに不眠を起こすことがあり、服薬指導の際には注意が必要です。
*部分作動薬:受容体に結合しても、1~100%未満の刺激しか伝えない
抗精神病薬が処方されている場合で、BPSDに対しての適応外処方かも・・・と気付くポイントを紹介します。
このような場合は、患者の日中や夜間の行動を家族から聞き取り、そのうえで処方された薬剤の受容体特性を踏まえた説明をするとうまくいく場合が多いです(少なくとも私はそうでした)。
皆さんの明日からの服薬指導に役立てば嬉しいです。
参考:
1)予測して防ぐ抗精神病薬の「身体的副作用」 長嶺敬彦
2)認知症のBPSD 日本老年医学会雑誌 48巻3号(2011:5)
3)各薬剤添付文書、インタビューフォーム
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