CKDにおける薬物治療について~骨・ミネラル代謝異常の治療~

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

こんにちは。
メディカルライターのサエです。

慢性腎臓病(CKD)における骨・ミネラル代謝異常についてお話します。

CKDにおける骨・ミネラル代謝異常とは?

腎臓は骨・ミネラル代謝調節に大きく関わっています。

CKDの進行により起こる骨・ミネラル代謝異常を総じてCKD-mineral and bone disorder (CKD-MBD)と言います。

CKD-MBDで最も多いのが二次性副甲状腺亢進症です。
またCKD-MBDでは血管石灰化といった全身の異常なども生じ、生命予後にも影響を及ぼすので注意が必要です。

CKD-MBDは以下のような機序で起こります1)、2)

  1.  CKDでは腎臓でのリン(P)排泄が低下し、高P血症になります。
  2.  P負荷により骨からFGF23というホルモンが分泌され、腎臓におけるビタミンDの活性化が阻害されます。
  3.  腸管からのカルシウム(Ca)吸収が抑制され、低Ca血症になります。
  4.  代償的に副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌され、骨を溶かすことで血液中のCa濃度を上げようとします。
  5.  この状態が続くと、骨がもろくなり骨折しやすくなります。

*FGF23
fibroblast growth factor 23という新規リン利尿ホルモンで、P負荷に反応して骨細胞で産生されます。主な作用は腎臓でのP排泄促進、ビタミンD活性化の抑制、副甲状腺でのPTH分泌抑制です1)、3)

骨・ミネラル代謝異常は、CKDステージG3aですでに起こっていますが、FGF23とPTHによりPが排泄されます。
実際に血清P濃度が高くなるのはステージG4以降です1)

CKDのステージについてはこちらを参照ください。
慢性腎臓病(CKD)の定義・原因・治療について

CKD-MBDの治療について

副甲状腺ホルモン(PTH)の管理の前に、先にPとCaを基準値内にコントロールします。

P、Ca値を適正に保つために、食事療法、活性型ビタミンD製剤、リン吸着薬といった薬物療法を行います。

≪P及びCaの適正値≫
P : 2.5~4.5mg/dL1)、2)
Ca : 8.4~10.0mg/dL1)、2)

Pについては、血清P濃度が上がる前から食事療法を始めることが望ましいです。
具体的な方法は、たんぱく質制限や無機Pをたくさん含む食品(ハム、インスタント麺、ファストフードなど)を避けることです。

血清P濃度が基準値を超えたらリン吸着薬投与を開始します。

高リン血症治療薬

種類 一般名
商品名
適応となる患者
Ca含有リン吸着薬 沈降炭酸カルシウム
カルタン錠・OD錠・細粒
保存期及び透析中の慢性腎不全患者
Ca非含有リン吸着薬 クエン酸第二鉄水和物
リオナ錠
慢性腎臓病患者
セベラマー塩酸塩
フォスブロック錠・レナジェル錠
透析中の慢性腎不全患者
スクロオキシ水酸化鉄
ピートルチュアブル錠
透析中の慢性腎臓病患者
炭酸ランタン水和物
ホスレノールチュアブル錠・顆粒
慢性腎臓病患者
ビキサロマー
キックリンカプセル
慢性腎臓病患者

この表から、セベラマーとスクロオキシ水酸化鉄については適応が透析患者さんのみとなっているのが分かります。

リン吸着薬は食物由来のリンが腸管から吸収されるのを抑制する薬なので、食直後食直前の用法となっています。
また、リン吸着薬は便秘、腹部膨満感といった消化器系の副作用が起こりやすいです。

沈降炭酸カルシウムはCa含有のリン吸着薬で、低Ca血症の補正もできます。
しかし透析患者さんでは、Ca含有リン吸着薬がCa非含有リン吸着薬と比較して、血管石灰化の進行を早めたり、生命予後にマイナスの影響を与えることが示されています4)

保存期CKD患者さんにもこれが当てはまるかを調べた研究でも、Ca非含有リン吸着薬の方がCa含有リン吸着薬と比べ、死亡、血管石灰化を抑制する可能性があると示されました4)

ただこれらの研究では、使われたリン吸着薬が日本では透析患者さんのみの適応になっているセベラマーであること、患者さんの経過が日本での一般的なCKD患者さんと異なること、保存期CKDでのエビデンスが十分に存在しないことなどから、問題点が多くまだまだ検討していかなくてはなりません。

 

活性化型ビタミンD3製剤

活性型ビタミンD3製剤については、保存期CKDにおいてPTHを減少させ、尿蛋白を抑制する効果が期待されます4)
しかし、高Ca血症の原因になりうるので患者さんの状態に応じて少量から開始することが望ましいです。

現在、慢性腎不全におけるビタミンD代謝異常に伴う諸症状の改善に対して適応となっている活性型ビタミンD製剤(内服)はアルファカルシドール(商品名:アルファロールカプセル・ワンアルファ錠)、カルシトリオール(商品名:ロカルトロールカプセル)です。

ファレカルシトリオール(商品名:フルスタン錠・ホーネル錠)については維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症への適応があります。

また、2018年CKD診療ガイドラインでは骨粗鬆症を伴う保存期CKD患者さんに対して、ビタミンD製剤、ビスホスホネートといった骨粗鬆症の薬物治療を推奨しています4)

Ca受容体作動薬

二次性副甲状腺機能亢進症に使われるのが、Ca濃度を上げずにPTHの分泌を抑えるシナカルセト塩酸塩(商品名:レグパラ)です。

シナカルセトは副甲状腺細胞表面のCa受容体に直接作用してPTH分泌を抑制します。
PTH分泌を抑制するので血中Caを低下させる作用があります。そのため、血清Ca濃度が低値でないことを確認してから投与開始します5)

まとめ

透析クリニックの門前薬局に勤める前までは、リン吸着剤、シナカルセトを扱ったことがありませんでしたし、活性型ビタミンD製剤は整形外科で出されるイメージが強かったです。

以前、活性型ビタミンD製剤を継続服用していた透析患者さんが足腰の痛みで他の整形外科に初めてかかり、そこでも活性型ビタミンD製剤が処方され、疑義照会で処方削除してもらったことがあります。

高齢のCKD患者さんは整形外科にかかることもあるので、活性型ビタミンD製剤を服用している場合は併用チェックが重要です。

また、リン吸着薬は食直前もしくは食直後の服用なので、飲み忘れがないように注意しなければなりません。
そういった意味でも、CKD患者さんの薬物治療に薬剤師が関わることはとても重要なのではないでしょうか。

【参考文献】
1)CKD診療ガイド2012
2)患者さんとともに理解するCKDと血液透析
3)臨床と検査-病態へのアプローチ-(VOL.68)CKD-MBD(慢性腎臓病と骨ミネラル代謝異常)
4)エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018
5)レグパラ錠添付文書

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

東邦大学大学院薬学研究科で修士課程修了後、都内の病院で薬剤師として勤務。その後、調剤薬局へ転職。東京、千葉、福島にて勤務経験あり。
現在は石川県で育児の傍ら勉強中。英会話が趣味で、TOEIC810点取得。

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