慢性腎臓病(CKD)における脂質異常症治療薬一覧

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

こんにちは。
メディカルライターのサエです。

今回のテーマは慢性腎臓病(CKD)における脂質異常症の治療薬をとりあげたいと思います。

脂質異常症は高血圧、糖尿病と同様にCKDの発症をもたらし、CKDの症状悪化を引き起こします。
そのために脂質異常症の治療は重要になってきます。

しかし、CKD患者に脂質異常症治療薬を投与する場合、横紋筋融解症などの副作用が現れる可能性があるので注意が必要です

そこで、CKDにおける脂質異常症治療薬の使用について述べたいと思います。

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脂質異常症の治療の重要性

脂質異常症はCKDの発症、進行およびCVD(心血管疾患)の危険因子であり、脂質異常症を治療することにより、蛋白尿の減少と腎機能低下抑制が期待できます。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017においては、冠動脈疾患の既往がないCKD患者は冠動脈疾患発症の高リスク群に分類されています。

高リスクに該当する場合は、食事療法、運動療法など生活習慣の改善を行なった後、薬物療法の適用が考慮されます。

冠動脈疾患の既往がある場合は、管理目標値がより厳しくなり、生活習慣の是正と共に薬物治療が考慮されます。

管理目標値については以下の図に示しました1)

図1:CKD患者における脂質異常症治療での管理目標値

 

管理区分  LDL-C HDL-C TG Non-HDL-C
高リスク
一次予防

病気にならないための対策
生活習慣の改善の後、薬物治療の適用を考慮
<120 ≧40 <150 <150
冠動脈疾患の既往がある場合
二次予防

生活習慣の是正と共に薬物治療を考慮
<100 <130

 

CKD患者への脂質異常症の薬物治療

脂質異常症に罹っているCKD患者へのHMG-CoA還元酵素阻害薬、またはHMG-CoA還元酵素阻害薬とエゼチミブ(商品名:ゼチーア)の併用による薬物治療はCVDイベントの発生・再発、尿蛋白増加や腎機能障害の進展を抑制する可能性があると言われています2)

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の慢性腎臓病患者への投与

HMG-CoA還元酵素阻害薬については、主に胆汁排泄型のため、ロスバスタチン以外はすべてのCKDステージにおいての用量調節の記載は添付文書にはありません。

しかしHMG-CoA還元酵素阻害薬は腎機能低下時に頻度は低いですが横紋筋融解症の報告例があるため慎重投与となっています。
ステージG3以上では注意していく必要があります3)

また、腎機能の臨床検査値に異常が認められる場合、HMG-CoA還元酵素阻害薬とフィブラート系薬剤の併用は横紋筋融解症が現れやすいため原則禁忌となっています。

国内外のガイドラインではスタチン系とフィブラート系の併用禁忌の記載がないことからも、2018年10月16日に添付文書の改訂があり、「原則禁忌」の表記が削除されました。

腎機能低下時にやむを得ず併用する場合は、定期的に腎機能検査等を実施し、自覚症状(筋肉痛、脱力感)の発現、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇、血清クレアチニン上昇等の腎機能の悪化を認めた場合は直ちに投与中止することと「重要な基本的注意」に追記されています。
(2018年10月27日 追記)

代表的なスタチン一覧 CKD時の用量の調節
プラバスタチン
商品名:メバロチン
添付文書に減量の記載ないが慎重投与
シンバスタチン
商品名:リポバス
フルバスタチン
商品名:ローコール
アトルバスタチン
商品名:リピトール
ピタバスタチン
商品名:リバロ
ロスバスタチン
商品名:クレストール
クレアチニンクリアランス30mL/min/1.73m2未満では血漿中濃度が約3倍上昇するため2.5mgより開始し、1日最大5mg6)7)

 

フィブラート系薬剤の慢性腎臓病患者への投与

フィブラート系薬剤の場合は、重大な副作用として急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症が現れる可能性があり、ベザフィブラート、フェノフィブラートは透析、腎不全には禁忌となっていて、ステージG4以上では使用できません3)4)5)

そのため、CKD患者へのフィブラート系薬物投与は必要性がなく推奨されていません。

代表的なフィブラート系一覧 CKD時の用量の調節
クリノフィブラート
商品名:リポクリン
添付文書に減量の記載はないが慎重投与
クロフィブラート
商品名:クロフィブラートカプセル「ツルハラ」
減量又は投与間隔の延長8)         
12~18時間の間隔をあける ・末期腎不全では原則禁忌7)
ベザフィブラート
商品名:ベザトールSR
血清Cr値が2.0mg/dL以上は禁忌5)
フェノフィブラート
商品名:リピディル・トライコア
中等度以上の腎機能障害患者は禁忌(血清Cr値2.5mg/dL以上)4)

 

その他脂質異常症治療薬の慢性腎臓病患者への投与

コレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブはどのステージにおいても減量の記載はありません。

陰イオン交換樹脂(例:コレスチミド)、コレステロール異化排泄促進薬(例:プロブコール)、ニコチン酸誘導体(例:ニコモール)といった他の治療薬も全てのステージで減量の記載はないです。

ただし、ニセリトロールは用量調節の必要があります。

※CKDステージについては「慢性腎臓病(CKD)の定義・原因・治療について」で述べています。

図2 CKDにおける脂質異常症治療薬と腎障害時の用量調節一覧

まとめ

脂質異常症の薬は糖尿病薬と比較すると、フィブラート系以外は添付文書に減量の記載がないものが多いと感じました。

しかし、CKDにおいては横紋筋融解症といった副作用のリスクは高まるので、注意が必要です。

高血圧、糖尿病、脂質異常症は生活習慣の改善も重要になってくるので、私達薬剤師が薬物治療以外にもそういった面でサポートできたらいいなと思います。

【参考文献】
1)動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017版
2)エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018
3)CKD診療ガイド2012
4)ベザトールSR錠添付文書
5)トライコア錠添付文書
6)クレストール錠添付文書
7)腎機能別薬剤投与量 じほう社
8)クロフィブラート「ツルハラ」添付文書

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

東邦大学大学院薬学研究科で修士課程修了後、都内の病院で薬剤師として勤務。その後、調剤薬局へ転職。東京、千葉、福島にて勤務経験あり。
現在は石川県で育児の傍ら勉強中。英会話が趣味で、TOEIC810点取得。

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