慢性腎臓病(CKD)における糖尿病治療薬一覧

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

こんにちは。
メディカルライターのサエです。

前回は、CKDにおける高血圧薬治療について記事を書きました。

今回は、CKDにおける糖尿病治療薬の使用について述べていきたいと思います。

2018年時点で、透析導入の原因となる疾患の第一位は糖尿病性腎症であり、糖尿病の治療をしている腎機能障害の患者さんはとても多いです。

CKD患者さんに糖尿病薬を投与する際は、腎機能が低下により、半減期の延長、血中濃度、AUCの上昇がみられ、低血糖などの副作用のリスクが増大し注意が必要です。

そのため、多くの糖尿病薬では減量などの用量調節が必要であり、腎機能の程度によっては禁忌になることもあります。

それぞれの糖尿病薬がCKDにおいてどのように使われているか述べていきます。

早期腎症での血糖コントロールの目標値(HbA1c)

薬について述べる前に、糖尿病治療の目標値について触れておきたいと思います。

早期腎症の発症、進行を防ぐために厳格な血糖コントロールが推奨されており、早期腎症ではHbA1cの目標値は7.0%未満としています1)

また腎機能が低下するとインスリンの分解が遅くなり、低血糖を起こしやすくなるので、低血糖に注意しながら血糖コントロールをしていく必要があります。

それぞれの糖尿病薬の使用・用法について

チアゾリジン誘導体

・ピオグリタゾン(商品名:アクトス)

ピオグリタゾンは主に肝臓で代謝される薬物ですが、重篤な腎機能障害患者には禁忌であり、日本ではCKDステージG4からは禁忌です2)

ただし、海外では常用量で使用可能だそうです3)

※CKDステージG4:GFR15~29 mL/min/1.73m2(高度低下)2)

ビグアナイド系

・メトホルミン塩酸塩(商品名:メトグルコ)
・ブホルミン塩酸塩(商品名:ジベトス)

腎機能障害患者にビグアナイド系を投与すると重篤な乳酸アシドーシスを起こす可能性があるために、用量調節する必要があります。

現在、日本で使われているビグアナイド系はほとんどがメトホルミンだと思います。

メトホルミンは、中等度以上の腎障害患者、透析患者には腎臓での排泄が減少するため禁忌とされています。
添付文書では血清クレアチニン値が男性1.3mg/dL、女性1.2mg/dL以上の患者には投与しないよう書かれています4)

推定糸球体濾過量(eGFR)で評価する場合、30(mL/min/1.73m2)未満は禁忌で、30~45ではリスクとベネフィットを考慮して慎重投与となっています5)

ただし、eGFRが45以上でも腎血流を低下させる薬剤(利尿薬など)を併用している場合は、注意しなければいけません。

もう一つのビグアナイド系であるブホルミン塩酸塩については低血糖だけではなく、乳酸アシドーシスのリスクが高くなるという理由で、クレアチニンクリアランス(CCr)<70mL/minでは禁忌とされ3)、軽度障害を含む腎機能障害患者および透析患者には使用できません。

スルホニル尿素(SU)薬

・グリメピリド(商品名:アマリール)
・グリベンクラミド(商品名:オイグルコン・ダオニール)
・グリクラジド(商品名:グリミクロン)

SU薬は腎機能が低下すると一定の効果が得られない上に低血糖など副作用のリスクが高まるので、CKDステージG4以降は禁忌です2,3)

αグルコシダーゼ阻害薬

・アカルボース(商品名:グルコバイ)
常用量でOKですが、重度の腎機能障害患者では、本剤および活性代謝物の血中濃度が約4~5倍上昇するので慎重投与となっています6)

・ボグリボース(商品名:ベイスン)
ボグリボースは吸収されにくいために減量する必要はありません。
添付文書では代謝状態が変化するため重篤な腎機能障害患者には慎重投与とはなっています7)

・ミグリトール(商品名:セイブル)
常用量でOKです。
しかし、本剤は未変化体のまま主に腎臓から排泄される腎排泄型の薬剤です。
本剤は腎機能の低下に伴い、半減期が延長したり、重度の腎機能障害患者では血中濃度が上昇することから慎重投与になっています8)

DPP-4阻害薬

・アナグリプチン(商品名:スイニー)
用量調節あり
CCr<30mL/minでは1日1回100mg9)

・アログリプチン(商品名:ネシーナ)
用量調節あり
30≤CCr<50mL/minでは1日1回12.5mg
CCr<30mL/minでは1日1回6.25mg10)

※補足
MDRD(Modification of Diet in Renal Disease)式により算出したeGFR(推定糸球体濾過量)では、30≤eGFR<60 mL/min/1.73m2で12.5mgとなっていました11)
また「腎機能別薬剤投与量(じほう社)」ではCCr60mL/min未満から12.5mgと記載されていました。

・サキサグリプチン(商品名:オングリザ)
用量調節あり
CCr<50mL/minでは1日1回2.5mg12)

・シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)
用量調節あり
30≤CCr<50mL/minでは1日1回25mg(最大50mg)
CCr<30mL/minでは1日1回12.5mg(最大25mg)13)

・トレラグリプチン(商品名:ザファテック)
用量調節あり
30≤CCr<50mL/minでは50mgを週に1回
CCr<30mL/minでは血中濃度が上がるため禁忌です14)
高度腎機能障害患者、透析中の末期腎不全患者には禁忌。

・ビルダグリプチン(商品名:エクア)
用量調節あり
中等度(CCr:30~50mL/min)以上の腎機能障害患者または透析中の末期腎不全患者では血中濃度が上昇するため、1日1回朝に50mg投与するなど慎重に投与します15)

・テネリグリプチン(商品名:テネリア)
・リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)
減量の必要はありません。
ただし、両方とも腎機能低下によりAUCが上昇するため注意は必要です。

CKDステージにおけるDPP-4阻害薬の使用

慢性腎臓病(CKD)の定義・原因・治療について」で述べましたが、GFR≒CCrとします。また、ネシーナに関しては先述の通り、60mL/min未満から12.5mgとしました。

速攻型インスリン分泌促進薬

・ナテグリニド(商品名:スターシス、ファスティック)
活性代謝物が蓄積しやすいので慎重投与です。
なお、透析を必要とする重度の腎障害患者には低血糖が起こりやすいため禁忌です16)

・ミチグリニド(商品名:グルファスト)
半減期が延長し低血糖を起こす恐れがあるので、慎重投与です。
少量(1日7.5~15mg)から開始します3)

・レパグリニド(商品名:シュアポスト)
胆汁排泄型で、代謝物に血糖降下作用がないため腎障害患者にも使用可能です。
しかし、国内での腎不全患者への使用経験が少ないため、少量からスタートし、慎重に投与します3)

インスリン製剤

腎障害が軽度~高度低下で75%、末期腎不全では50%に減量とありますが、血糖値に応じて投与量を決定します3)

GLP-1アナログ製剤

・エキセナチド(商品名:バイエッタ皮下注)
・持続性エキセナチド(商品名:ビデュリオン皮下注用)
透析患者を含むCKDステージG4以降の重度の腎障害患者には消化器系副作用の忍容性が認められていないために禁忌です17)、18)

・リキシセナチド(商品名:リキスミア皮下注)
CCr30mL/min未満のCKDステージG4以降の患者(末期腎不全患者含む)においては使用経験がないのと、AUCが約1.5倍増加することから、慎重投与になっています19)

・リラグルチド(商品名:ビクトーザ皮下注)
・デュラグルチド(商品名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス)
調節の必要はなく、常用量でOKです。

SGLT-2阻害薬

・イプラグリフロジン(商品名:スーグラ)
・ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)
・ルセオグリフロジン(商品名:ルセフィ)
・トホグリフロジン(商品名:デベルザ、アプルウェイ)
・カナグリフロジン(商品名:カナグル)
・エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)

中等度の腎機能障害患者(30≤eGFR <60 mL/min/1.73m2)では十分な効果が得られない可能性があるため慎重投与します。

また、重度の腎機能障害患者、透析中の末期腎不全患者では効果が期待できないのでSGLT-2阻害薬の投与は禁忌です3)

まとめ

CKDにおける糖尿病薬の使用についてお話してきましたが、ステージG4になると使用できない糖尿病薬が増えてくることが分かります。

ここで、ステージG4以降の糖尿病薬の使用方法について表にしてみました。

こう見ると、常用量で使用できる糖尿病薬はかなり少ないことがわかります。

特にDPP-4阻害薬は、用量が詳しく決められているので、調剤の際は気を付けなければいけないなと思いました。

以前、腎臓・透析内科の門前薬局で働いていた時、透析患者さんへの糖尿病薬はインスリンとDPP-4阻害薬がメインでした。
特にテネリグリプチン、リナグリプチンが多く処方されていたので、用量調節の必要のない薬が使用しやすいのだなと感じました。

糖尿病薬は腎機能によって用量を調節したり、禁忌になったりと注意しなければいけないことが多いと改めて実感しました。

糖尿病を患っている腎臓病の患者さんは増えていくと思うので、今回の記事が皆さんのお役に立てるといいなと思います。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

参考文献
1)「患者さんとともに理解するCKDと血液透析」
2)「CKD診療ガイド2012」
3)「腎機能別薬剤投与量」(じほう社)
4)メトグルコ錠添付文書
5)「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」
6)グルコバイ錠添付文書
7)ベイスン錠添付文書
8)セイブル錠添付文書
9)スイニー錠添付文書
10)ネシーナ錠添付文書
11)タケダニュースリリース:「アログリプチンの心血管系への安全性を評価したEXAMINE試験の事後解析データのLancet誌掲載について」
12)オングリザ錠添付文書
13)ジャヌビア錠添付文書
14)ザファテック錠添付文書
15)エクア錠添付文書
16)スターシス錠添付文書
17)バイエッタ皮下注添付文書
18)ビデュリオン皮下注添付文書
19)リキスミア皮下注添付文書

この記事を書いた人

サエ

薬剤師
東邦大学 薬学部卒

東邦大学大学院薬学研究科で修士課程修了後、都内の病院で薬剤師として勤務。その後、調剤薬局へ転職。東京、千葉、福島にて勤務経験あり。
現在は石川県で育児の傍ら勉強中。英会話が趣味で、TOEIC810点取得。

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