過敏性腸症候群では食物中の糖の種類に注目〜IBSとFODMAP(フォドマップ)の相関性

この記事を書いた人

工藤 知也(くどうともや)

エビデンスエージェント代表
薬剤師
博士(医学)

こんにちは。

健康食品を担当しているエビデンスエージェントの工藤知也です。

「お腹が痛くて下痢をするけど、腸を調べてもらっても何ともなかった。」

処方せんを見ると、イリボーやポリカルボフィルカルシウムの文字。
過敏性腸症候群(IBS; irritable bowel syndrome)は、薬局では日常的に見受ける疾患ですね。

精神的ストレスはIBSの症状を増悪するので、 日常のストレス原因にアプローチしたいところです。

しかし、IBSの患者さんは働き盛りの方が多く1)、 ゆっくりお話しするのが難しいと感じる薬剤師が多いのではないでしょうか?

そこで、腸の疾患ですから「食事の影響は?」という考えが浮かんできます。
調べてみると、食物中の糖の種類がIBSの症状に影響を及ぼしているとの知見を見つけました。

FODMAP(読み方:フォドマップ)とは?

糖というと、先ずはグルコース(C6H12O6)を思い出しますね。
グルコースは単糖類の代表格ですが、 いくつかの単糖がつながった糖を思いだしてみましょう。

これらに多価のアルコールを加えた短鎖炭水化物のグループをFODMAP(Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides, And Polyols)と呼びます。

腸内細菌がFODMAP(読み方:フォドマップ)を分解する際には、ガスが発生します。
このガスは体内に移行しにくいので、 腸管の浸透圧があがり、結果的にお腹の調子に影響を与えていくのです。

糖がお腹の調子に影響するというのは感覚的に理解しにくいかもしれませんが、 FODMAPを多く含む食品はIBSの症状に悪影響を及ぼす可能性があると理解できます。

それでは、代表的なFODMAP高含有食品をみていきましょう。

穀物; 小麦に多く米には少ない。
野菜; アスパラガスやブロッコリーに多く、人参やジャガイモには少ない。
果物; リンゴやスイカに多く、バナナやグレープフルーツには少ない。

FODMAP低含有食品だけで食事が成立するわけではないですが、 食材や食事を選択する際には参考になりそうです。

FODMAP摂取の抑制がIBSの症状を軽減する

2014年、オーストラリアのモナシュ大学のHalmosらは、FODMAP摂取の抑制によるIBS症状の軽減を、米国消化器病学会の公式ジャーナルであるGastroenterologyに報告しました2)

方法は、IBS患者30名を、オーストラリアの典型的な食事グループと、1回の食事でFODMAP0.5g未満に抑える低FODMAP食事グループに分ける、21日間のクロスオーバー試験です(休息期間21日間)。

症状の変化を視覚的評価スケール(VAS)で行い、17日目から21日目の便を評価しています。

結果より、低FODMAP食事群では、下痢型および便秘型IBS共に胃腸症状を示す値が有意に減少しており、腹部膨満感や腹痛なども同様に減少しました。

また、下痢型IBSでは便性状が改善していました。

薬局で患者さんとの会話に落とし込む

それでは、今回の知見を活かす患者さんとの会話シナリオを考えてみましょう。
患者さんは、独身男性と想定します。

 


薬剤師

食事はパン中心ですか?

 


患者

どちらかというとパンが多いかも。

 


薬剤師

パンの方が調理しやすいですよね。

 


患者

そうだね。
朝は忙しいし、トースターで簡単だからね。

 


薬剤師

そうですよね。朝は忙しいですよね。
ただ、症状の腹痛や下痢を考えると、パンよりもご飯の方がお腹に優しいです。

 


患者

そうなんだ。
なかなか難しいよね。
でも、外食や夕飯では米を選ぶようにできるかもな。

 


薬剤師

とても良いと思います!
薬だけでなくて食事からも腸の調子を変えていけるので、是非、またお話しを聞かせて下さい。

 


患者
食事は年齢的にも気にしなければいけないと思っていたから丁度良い機会かも。

次回、ご飯食の状況を確認してみて、野菜や果物も含めた話から、さらに話が広がると良いですね。
働き盛りの方が多いと思いますので、栄養の偏りを確認するきっかけにもなるかもしれません。

まとめ

今回は、IBSの諸症状とFODMAPの相関性に関する知見を学び、 それを基に薬局での患者さんとの会話シナリオを考えて見ました。

IBSの患者さんは、20~30代が多く、 忙しい日常の中にあって、話を長く聞いてくれる状況ではありませんが、 今回の知見が新たな関係を築く一助になれば幸いです。

引用文献
1) 大島忠之 他: FGIDの基礎知識 疫学. 日本内科学会雑誌. 2013; 102: 4-10. https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/1/102_4/_pdf

2) Halmos EP, et al. A Diet Low in FODMAPs Reduces Symptoms of Irritable Bowel Syndrome. Gastroenterology. 2014; 146(1): 67-75. PMID: 24076059 www.gastrojournal.org/article/S0016-5085(13)01407-8/pdf 

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工藤 知也(くどうともや)

エビデンスエージェント代表
薬剤師
博士(医学)

2007年、金沢大学大学院医学系研究科博士課程修了。
2009年、ケンタッキー大学医学部博士研究員。帰国後から薬剤師を始め、2013年、科学的知見に基づいた医薬品情報を患者様向けに発信するエビデンスエージェントを開業。

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