リンの摂取量にはCKD前の糖尿病の段階から要注意

この記事を書いた人

工藤 知也(くどうともや)

エビデンスエージェント代表
薬剤師
博士(医学)

こんにちは。
健康食品を担当しているエビデンスエージェントの工藤知也です。

糖尿病というと、まずは食事療法ですね。
誰しも糖の摂取制限と減量が頭に浮かぶのではないでしょうか。

また、生活習慣の修正がうまくいかず、服薬アドヒアランスも悪いと、 CKD(慢性腎臓病)などの合併症のリスクが高まります。
人工透析原因の第1位は、糖尿病性腎症です。

糖尿病治療とは、糖をコントロールして合併症を防ぎ、
これまでと変わらない生活を続けるためにあります。

では、腎機能に変化のない段階から合併症リスクを軽減するために生活習慣で気を付ける栄養素はないのでしょうか?

2017年の米国臨床栄養学誌に、腎臓機能が正常な糖尿病患者のリン摂取量を調査したところ、リンの摂取量が多いとCKDリスクが増加するという報告がありました。

CKDではリンの制限が大切ですが、
CKDになる前の糖尿病の段階からリンの摂取に気をつける必要がありそうです。

CKDを起こしていない糖尿病においてもリンの摂取制限が重要

韓国のYoonらは、2001年から2014年までの14年間をかけて、40歳から69歳までの糖尿病873名(DM群)と非糖尿病5846名(非DM群)のリン摂取量に関する前向きコホート研究を行います。

調査期間内で、CKDを新たに発症したのは、DM群で32.4%と非DM群で13.5%でした。

そして、リンの摂取量から4グループに分けると、DM群では、最もリンを摂取しているグループではCKDの発症リスクとの間に相関性を見出しました。また、非DM群では、CKDとの相関性がありませんでした1)

この論文を薬剤師的にみると、リンの摂取量を4グループに分けたうちの、
最も摂取量の多いグループで有意差が出てきたという知見ですので、
一般的な常識の範囲にリンの摂取量を戻せばリスクを軽減できると解釈できます。

リンの多い食品

それでは、リンの多い食品とはどんな食品でしょうか?

細かく見れば色々とありますが、
薬局で注目しやすいのは、「加工食品」でしょう。

インスタント麺ファストフードハムベーコンといった加工食品には、
食品添加物としてリンを比較的多く含みます。

個別の食材の話をするのは限られた時間の中で難しい場合もありますが、
加工食品に着目すれば、「インスタントを控えめに!」と素早くお伝えできるので実用的ではないでしょうか。

その後、「何で?」と興味を持って頂けたら、新しいコミュニケーションが生まれますね。

参考サイト
リンはどのような食事、食品に多く含まれていますか?|MediPress透析

薬局での患者さんとの会話例

さて、実際に薬局での患者さんとの会話を想定してみましょう。

今回の患者さんは、肥満気味の中年女性で、間食が辞められず3日に1回は薬を忘れてしまいます。

 


薬剤師

最近、間食はどうですか?
少し減らせるようになってきましたか?

 


患者

う~ん、なかなか辞められないわ。
ビスケットが好きで。

 


薬剤師

気持ちは解ります(笑)。
辞めようと思わないで、いつもより1枚少なくする意識をもちましょうね。

 


患者

そうね。
理解しているつもりでも、なかなかね。
その場になると、食べてしまうから。

 


薬剤師

(今日は間食の話題を、この辺にして)
ところで、食事のなかでインスタント食品やハムとかベーコンって頻繁に使いますか?

 


患者

朝は、ハムやベーコンが多いわね。
昼間は、一人のことが多いからインスタントで済ませてしまうわ。

 


薬剤師

それ全部加工食品ですね。
加工食品にはリンが沢山入っているんですよ。
このリンを沢山摂ると糖尿病による腎臓へのダメージが起きやすいようですよ。

 


患者
あら、私危ないわね。

 


薬剤師

糖尿病が怖いのは、腎臓をはじめとして、眼や末梢神経への障害が起こるからです。

 


患者

今は、何ともないけど。
やはり、生活習慣を変えないと、次の病気が一歩一歩近づいているのかもね。

 


薬剤師

ビスケット1枚もそうですが、昼の生活習慣を1週間に1回から見直して、将来の生活も今と変わらないものにしたいですね。

 


患者

そうね、厳しくするというよりも当たり前の生活なのよね。

 


薬剤師

おっしゃる通りです。また、お話を聞かせてくださいね。

 

まとめ

今回は、糖尿病において腎機能が正常でもリンの摂取量に注意を払うべきという知見を、薬局での患者さんとの会話へ落とし込んでみました。

糖の摂取制限や減量だけでない新たな食事療法の話題として利用して頂けたら幸いです。 今後も、患者さんが食事に関心をもつ一つのきっかけになるような知見に注目していきたいと思います。

引用文献

1) Yoon CY, et al. High dietary phosphorus density is a risk factor for incident chronic kidney disease development in diabetic subjects: a community-based prospective cohort study. Am J Clin Nutr. 2017; 106(1): 311-321. PMID: 28592606

この記事を書いた人

工藤 知也(くどうともや)

エビデンスエージェント代表
薬剤師
博士(医学)

2007年、金沢大学大学院医学系研究科博士課程修了。
2009年、ケンタッキー大学医学部博士研究員。帰国後から薬剤師を始め、2013年、科学的知見に基づいた医薬品情報を患者様向けに発信するエビデンスエージェントを開業。

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