こんにちは。
健康食品を担当しているエビデンスエージェントの工藤知也です。
キャベツ、カブ、小松菜、大根、白菜等々。
これらは全てアブラナ科の野菜です。
冬になれば、大根や白菜は欠かせませんね。
食卓に頻繁に登場するアブラナ科野菜ですが、
日本の研究グループが「肺がんの予防に効果あり」と報告しました。
法律上の問題はさておき、
「がんに効く」という食品情報はネット上に氾濫しています。
そして、薬剤師としては科学的な信頼性は?との疑問が常に付きまといます。
薬局で、「私、こんなものを飲んでいるの」と言われて、
返答に困った経験は少なくありません。
一方で、抗がん剤に天然物由来は珍しくありませんね。
ビンクリスチンなどのビンカアルカロイドや、セイヨウイチイの抽出成分であるパクリタキセルなどは、第一線で活躍してきました。
特定の食品によるがんの予防効果を証明するとなれば、 相当数の被験者を集めて、「がん」という性質上、長期の試験を行う必要があります。
実際にネット上に氾濫している情報の多くは、この適正なプロセスが欠落しているのが現状です。
ここでは、2017年に国立がんセンターの研究グループが米国栄養学会誌(The Journal of Nutrition)に報告した研究を紹介します。
がんの既往の無い45歳から74歳までの日本人82,330名(男性38,663名と女性43,667名)での前向き試験です。
食品138項目の摂取状況を質問票にて調査し、
アブラナ科野菜の摂取状況と肺がんリスクについて解析しています。
14.9年の追跡期間の間に、1499名(男性1087名と女性412名)が肺がんの診断を受けました。
筆者らは、アブラナ科野菜の摂取量から4つのグループに分け、 アブラナ科野菜を最も多く摂取しているグループと、最も少ないグループで比較しました。
すると、喫煙習慣の無い男性では、アブラナ科野菜を最も多く摂取するグループの肺がんリスクが有意に低値を示していたのです1)。
このように日本人対象の大規模試験において有意差を示したとなれば、 薬剤師としては自信を持って患者さんにお伝えしていきたいですね。
では、アブラナ科野菜の何が、がん予防を実現させているのでしょうか?
本体は、「イソチオシアネート」とという-N=C=S構造を有する化合物です。
実際には、配糖体としてアブラナ科野菜に存在しています。
イソチオシアネートは、予防だけでなく癌細胞の増殖や転移に対する抑制効果や、既存の抗がん剤との併用による抗がん剤の効果改善を目指して世界的に研究が進んでいます2)。
次に、どのように予防効果を発揮するのでしょうか?
イソチオシアネートのがん予防効果のポイントは、「酵素」にあるようです。
マウスに化学物質を投与して発がんを引き起こす実験モデルにおいて、
複数の報告がイソチオシアネートによる発がん抑制効果を支持しています。
化学物質による発がんには、酵素による酸化還元あるいは加水分解が必須になります。
研究者は、イソチオシアネートが、これらの酵素の中でもCYP(シトクロムP450)や、肝臓で解毒を担う酵素に影響を与えているのではと注目しています2)。
それでは、患者さんとの会話時の利用法を考えていきます。
最近、食事は、どうですか?
特に問題ないと思うけど。
野菜は摂れていますか?
なかなかね。健康のために食べなければいけないとはわかっていても、量が足りているのかどうかはわからない。
そうですよね。量を意識していてもつまらないですしね。
そういえば、最近聞いた話ですが、大根や白菜などには男性の肺がんを予防する効果が期待できるみたいですよ。
へ~そうなんだ。
野菜といっても沢山ありますからね。
そうだね。何を選ぶか迷ったらとりあえず大根や白菜を選べばよいから。解りやすい。
野菜を見直す機会にしたいですね。
無論、実感ができる何かがあるわけではありませんが、
野菜という一括りから脱して、食材への意識が生まれる機会になれば良いですね。
むしろ、がん予防よりも栄養改善のきっかけとして使える話題かなと感じています。
次回来局以降で、栄養について話せる関係になれば大成功です。
今回は、アブラナ科野菜によるがん予防効果について注目してみました。
アブラナ科野菜は、おなじみ野菜ですので薬局の話としては使いやすいと思います。
栄養改善といっても、否定から入るのではなく、食材への興味から始めたいものです。
学術的知見の中には、薬局即戦力の信頼性の高い埋もれた知見がたくさんありますので、この場で今後も紹介していければと思います。
引用文献
1) Mori N, et al. Cruciferous Vegetable Intake Is Inversely Associated with Lung Cancer Risk among Current Nonsmoking Men in the Japan Public Health Center (JPHC) Study. J Nutr. 2017; 147(5): 841-849. PMID: 28381528
2) Gupta P, et al. Phenethyl Isothiocyanate: A comprehensive review of anticancer mechanisms. Biochim Biophys Acta. 2014; 1846(2): 405-424. PMID: 25152445
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