授乳婦への抗インフルエンザ薬の選択と服薬指導

この記事を書いた人

Kay (ケイ)

広島大学 薬学部卒 
研修認定薬剤師

薬剤師であれば、授乳中の患者さんから次のような質問を一度は受けたことがあるのではないでしょうか?

「授乳中なのですがこの薬は飲んでも大丈夫でしょうか?」
「服用してからどれくらい時間をあければ授乳しても大丈夫ですか?」

先日インフルエンザに罹患した患者さんから
処方箋を受け取る際に同じような質問を受けました。


先生に授乳中ということを話し忘れたのですが大丈夫でしょうか?
もし授乳が無理な場合、どれくらい時間をあければいいですか?

処方されていたのはゾフルーザ(一般名:バロキサビル)でした。

添付文書では授乳は避ける

ゾフルーザの添付文書を確認すると「授乳婦への投与」は以下のようになっています。

授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。
[ヒト母乳中への移行は不明だが,ラットで乳汁中への移行が報告されている]
引用元 ゾフルーザ添付文書

製薬メーカーに「ゾフルーザを服用後どれくらい授乳を中止したらよいか」を確認したところ、ゾフルーザは半減期が95.8±18.2ということもあり「7日間の中止」との回答で少し驚きました。

授乳中のお母さんにとって、7日間も授乳禁止というのは難しいですよね。

一方で、バロキサビルのヒト血清蛋白結合率は92.9〜93.9%であり、母乳移行しにくいという考えから、治療中の授乳は差し支えないと判断されるケースもあるかもしれません。

しかし、薬剤師という立場上、情報が集まっていない限りは、より無難な薬剤への変更を提案しなければいけません。

授乳婦にゾフルーザの処方は適切ではないと判断し、処方医に問い合わせを行った結果、有益性投与となっているイナビル(一般名:ラニナミビル)に処方変更となりました。

インフルエンザ治療薬と授乳の可否・半減期比較

添付文書上での抗インフルエンザ薬の授乳婦への対応と半減期についてまとめてみました。

薬剤名
一般名
授乳の可否
添付文書
T1/2
半減期
単位hr
ゾフルーザ
バロキサビル
授乳不可 95.8±18.2
40mg空腹時投与時
イナビル
ラニナミビル
有益性投与
ラットで移行
77.4±19.3
40mg投与時
タミフル
オセルタミビル
有益性投与
ヒトで移行
6.6±1.5
150mg投与時
リレンザ
ザナミビル
授乳不可 2.56±0.56

また、国立成育医療センターのホームページには
授乳婦への抗インフルエンザ薬の選択について、以下の記載があります。

タミフル®に関しては母乳移行量を調べて、非常に少なかったと報告されています。
授乳中の使用が問題になる可能性は低いと考えられます。
リレンザ®・イナビル®はいずれも母乳移行量を調べた報告はありませんが、もともとお母さんの血液中にほとんど検出されないので、授乳中の使用は問題にならないと考えられます。

引用元 国立成育医療センター

以上により、授乳中の方への抗インフルエンザ薬は吸入薬ではイナビル、内服薬であればタミフルが適切であると考えられます。

インフルエンザ感染時の授乳の注意点

授乳婦がインフルエンザに感染時は、授乳時の接触による母親から乳児への感染についても注意喚起の必要があります。

厚生労働省の資料では以下の3つをクリアしてからの授乳をすすめています。

① 抗インフルエンザ薬を2日間以上服用している
② 熱が下がって平熱となっている
③ せきや鼻水がほとんどない

しかし、まだ上記3点をクリアしておらず、
症状が落ち着かない状態でも母乳を続けたい場合は
搾乳して赤ちゃんにあげることもできます。
ウィルスは母乳にはほとんど移行しないとされています。

授乳する場合はマスクを着用したり、授乳が終了したら部屋を分けるなど
できるだけ赤ちゃんに感染しないように注意が必要です。

薬剤選択だけでなく、授乳時の注意点などを踏まえての服薬指導を行い、
患者さんが安心して療養できるようアドバイスをするのも薬剤師の重要な役割ではないでしょうか。

まとめ

  • 添付文書ではゾフルーザを服用時は授乳不可
  • イナビルは半減期は長いが血中にほとんど検出されないため授乳婦への投与が可能(有益性投与)。
  • タミフルは母乳に移行するが授乳婦への投与が可能(有益性投与)。
    新生児、乳児にも適応あり
  • 授乳時には赤ちゃんに感染しないよう注意が必要。
  • 母親がインフルエンザに感染時には無理をせず搾乳で乗り切る方法もある。

参照
国立成育医療センター 授乳中のお薬Q&A
厚生労働科学研究 新型インフルエンザ対策

この記事を書いた人

Kay (ケイ)

広島大学 薬学部卒 
研修認定薬剤師

愛媛県出身 
現在は東京在住。

化粧品メーカーの営業・販売員教育職を経て、薬剤師歴16年のアラフィフです。

総合病院の門前薬局、商店街にある下町の調剤薬局、オフィスビルの医療モール内薬局などで幅広い処方箋の応需経験があります。

婦人科、皮膚科、眼科、患者さまとのコミュニケーション術などについて、私なりの視点でお伝えできればと思います。

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