こんにちは。
メディカルライターの平野菜摘子です。
2018年時点で、梅毒が流行っているというニュースをよく見かけます。
東京、大阪、愛知、神奈川、兵庫、福岡都市圏では、もはや、珍しい疾患ではない可能性もあります。
大都市圏以外にも各地に広まってきています。
梅毒患者の処方箋が、調剤薬局に持ち込まれたときのことを想定して述べます。
近年では2013年に1,228例、2014年に1,671例、2015年に2,697例の報告があり、2018年に至っては、6月までの半年間で、患者数が3,236人に上っています。
このように患者数は近年、急激な増加傾向にあります。
原因は梅毒トレポネーマという病原菌です。
本菌は低酸素状態でしか長く生存できないので、同性間、異性間問わず、早期感染者(第Ⅰ期、Ⅱ期)との粘膜の接触を伴う性行為や疑似性行為で感染します。
また、感染した妊婦の胎盤を通じて胎児に感染する経路もあります。
なお、母乳による母子感染は成立しないと考えられています。
症状が現れたり、自然に消えたりしながら、全身に広がっていく感染症です。
各期を資料5)6)7)を参考に簡単にまとめます。
第Ⅰ期
(3〜6週間の潜伏期間後)
感染場所に、しこりや潰瘍が形成されます。
無治療でも数週間で軽快します。
第Ⅱ期
(第Ⅰ期から数週間から数カ月後)
皮膚や粘膜(唇、口腔内にも)に発疹が見られるようになります。
こちらも、無治療でも数週間で症状が消えます。
第Ⅲ期
(数年から数十年の無症候の期間を経て)
結節やゴム腫が、皮膚や筋肉、骨などにできます。
第Ⅳ期
血管や神経が侵され、大動脈炎、大動脈瘤あるいは脊髄癆、進行麻痺などの症状が現れることがあります。
第Ⅲ期と第Ⅳ期は現在では殆ど見られません。
女性患者から婦人科の処方箋を受け取った時や、男性患者から泌尿器科の処方箋を受け取った時に、アモキシシリンだけ書かれているような場合、梅毒を疑ってみてもよいでしょう。
皮膚科や感染症科でも、梅毒の治療の処方箋が発行されることは予想されます。
ちなみに女性の場合、20代の梅毒患者が圧倒的に多いです。
男性は20代から50代と幅広い梅毒患者がいます4)。
血液検査によって、医師による梅毒の診断がされます。
殺菌的に働き、耐性の報告もない下記のペニシリン系内服薬を第一選択とし、治療が開始されます5)。
アモキシシリンは梅毒の場合、通常の感染症と服用量が違います。
アモキシシリン1日1500mg分3を内服します。
つまり、250mgのカプセルなら、6カプセル分3の処方です。
ぺニシリンアレルギーの場合は、塩酸ミノサイクリンまたはドキシサイクリン1日200mg分2を、妊婦の場合はアセチルスピラマイシンを1日1,200mg分6を、内服します。
投与期間は、第Ⅰ期は2~4週間、第Ⅱ期では4~8週間、第Ⅲ期以降では8~12週間の服用が目安です。
またHIV患者での梅毒の治療には、
アモキシシリン1日3000mg(250mgだと12カプセル)
+プロベネシド(商品名:ベネシッド)
の併用で処方されるケースもあります。
ブロベネシドを併用する理由は、アモキシシリンの血中濃度を維持するためです。
このように梅毒の治療の際はアモキシシリンが高用量で処方されるケースがあることを頭に入れておかなければいけません。
(参考)添付文書上のアモキシシリンの通常量はこちら。
アモキシシリン水和物として、通常1回250mg(力価)を1日3~4回経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
梅毒は性感染症であることから、デリケートな話題のため、患者が何の目的で処方されたのか話さないこともありますが、処方箋の内容でピンときたら、言葉に注意し、工夫しながら投薬することが大切です。
自覚症状がなくなっても、病原菌は体内に残っているので、途中で服薬をやめないように伝えましょう。
一度に全期間分(第Ⅱ期なら最長8週間分)処方されることは稀で、医師が、途中経過を見るので、薬が無くなる前に、必ず受診して、続きを処方してもらうことなどを患者にしっかり伝えましょう。
避妊具をつけていても、パートナーに移す可能性があるので、性行為は控えるように伝えなければいけません。
また、感染後1年以内に患者との性的接触があった人には、血液検査をするよう、患者から伝えてもらいましょう。
梅毒は過去の病気と思われていることもあり、若手の医師は、第Ⅱ期の発疹を、アトピー性皮膚炎や他の皮膚疾患と間違えて診断されることもあるようです。
しかし、時期を逃すと無治療でも症状が消えてしまうので、医療機関である調剤薬局では、ポスターなどの啓発運動で、なにか心当たりがある人には、早く受診してもらうことが、感染の拡大を防ぐことにつながると考えられます。
厚生労働省のページからポスターがダウンロードできます。
「特定感染症予防指針 啓発」で検索してもこのページに辿り着きます。
日本有数の繁華街にある都内のレディースクリニックからの処方箋で、アモキシシリンが処方されていましたが、1回の服用量が極端に少なかった例がありました。
成人女性にもかかわらず、小児用細粒で調剤せざるを得ない量であり、不審に思ったので、患者に聞き取りをしました。
患者は、なんで病名を聞かれるのかと若干、怒りながらも、「梅毒ですよ!」と教えていただき、手のひらにできた湿疹を見せてくれました。
皮膚疾患が出ている時期であり、第Ⅱ期と推定できました。
用量について疑義照会しましたが、受付の人の判断で医師に電話を繋いでもらえずに、
「ドクター指示なんで、それでお願いします」
という、忙しい都心のクリニックにありがちな門前払いを食らいました。
しかし、しつこく問い合わせて処方医に電話をつないでもらい、疑義照会をしたところ、用量が少ない理由を医師は言わずに
「そのままでいいです」
と電話を切ろうとしたので、
「こちらは患者から梅毒と診断されたと聞いており、日本性感染症学会の治療指針を見ながら電話をしているのですが、本当にこの量でお間違えないですか、1日1500mgではないのでしょうか」
と質問したところ、処方量が変更になったということがありました。
以上のように、梅毒患者が増えてきたといっても、地域や医師によってはまだ珍しい疾患の可能性があり、慣れていない医師が、たまたま勘違いして、用量を大幅に間違えることもあるので、感染をこれ以上増やさないためにも、注意していきたいものです。
参考
1)厚生労働省 梅毒に関するQ&A
2)産経ニュース 2018.9.5
3)NIID 国立感染症研究所 日本の梅毒症例の動向について
4)東京都感染症情報センター
5)性感染症 診断・治療 ガイドライン 2016 (改訂版)
6)病原微生物検出情報(IASR)2015年2月
7)NHK健康チャンネル
8)サワシリンカプセル添付文書
9)「感染症合併妊婦の管理」梅毒,トキソプラズマ,風疹合併妊娠の管理 唐津赤十字病院 産婦人科部長 萩尾 洋
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