輝く薬剤師Vol.8は長崎県五島市の医療に貢献される田中秀和先生のご登場です。薬剤師の視点から、離島の抱える問題を提起する。田中先生の活動は必見です!!(インタビュアー井上)
田中先生のご略歴をお聞かせください。
「どうしようもないダメ学生でした・・・」
1995年に高校を卒業後、2年間浪人し大学に入学。大学では1回留年し、また卒業延期処分にもなる。卒業後はドラッグストアでのバイトに明け暮れ、2006年にようやく薬剤師免許取得・・・。
ダメ学生でしたが、実家の薬局(長崎県五島市)への就職を機に、「離島=情報が入ってこない」という視点を変え、「自分から情報を入手する事」を選択するようになりました。
また、1人の薬剤師とのネットでの出会いが、その後、多くの方との出会いに繋がって今の私が在ります。 「疑問を感じたら、先ず動く」 これは今までも、そしてこれからも変える事がない私のスタンスです。
「考え方次第」で人生は変えられるものですね!!
田中先生は離島で薬剤師としてご活躍されていますが、具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
「離島」という事で、多くの方が「信号機がない」「牛が道を歩いている」「野球をすればちょっと打っただけでボールが海に落ちる」などというイメージをお持ちではないでしょうか。もちろん、私の住む五島市福江島の周辺に、人口2名の小さな島などもありますが、福江島は人口3万4千人ほど、島の広さは東京で言えば環七通りを一回り大きくしたくらい、大阪ですと大阪市の1.5倍くらいの面積です。上手く伝わりますでしょうか(笑)?
私の母校となる高校は、勿論この五島市福江島にあるのですが、東京大学入学者を数年に一人輩出しているので、「離島だから学問が・・・」という心配もありません。本人のやる気次第で、東大にも行けるでしょうし、私のようなダメ学生にもなれます。
さて、本題ですが…離島ですので、地続きの他の地域との違いも勿論ありますし、逆に何ら変わらないことも多々あります。こと薬局の通常業務においては、離島だからといって変わることは殆どありません。流通等で制限はありますが、医師も患者も理解している事なので、これが元でトラブルになった事はありません(一部特殊な事例が存在することは把握しています)。
「離島ならではの薬剤師としての活動」ということであれば、私に限って言えば離島の抱える問題を明確にするための研究活動がその大半を占めます。残りは、県の薬剤師会に委員会委員として出向し、県薬の事業と離島支部の事情を擦り合わせて、より良い環境を作るために協力することくらいでしょうか。もちろんですが、研究・発表・執筆活動は離島に関するもの以外についても行っており、内容はお薬手帳や後発品・災害関連など多岐に渡ります。
「離島で働く」きっかけは何だったのでしょう??
一言で言えば、「何となく、必然的に」です(笑)
現在住んでいる、長崎県五島市という離島のみで構成された自治体で生まれ育ちました。高校を出るまで、ずっと現在の五島列島の福江島にて生活していました。父が、この福江島の基幹病院で薬剤師として勤務していましたので、幼少の頃から病院や薬は身近なものでしたし、たまに見かける白衣姿の父を見て尊敬もしていましたので、自然と薬学部を目指していました。
大学入学前、大学在学中、卒業後と紆余曲折しておりまして(簡単に申し上げればダメ息子、ダメ学生ですね)、薬剤師の資格を有する前に埼玉県でドラッグストアや薬局でバイトをしていたのですが、父が体調不良で倒れたのを機に地元・五島へ戻りました。その後、国家試験を突破し、何とか薬剤師になれた…というのが実情です。
離島というと何か特別なイメージがありますが、「離島薬剤師」ならではのエピソードや、「離島薬剤師」ならではの役割などはあるのでしょうか??
離島であっても目の前の患者さんと向き合うことに変わりない。
「離島薬剤師」と言いましても、やることは他の地区にお住まいの方々と何ら変わりません。薬局業務に従事し、患者さんからの相談に応え、受付で患者さんと冗談を言い合い、コミュニケーションを図りながら問題点を探っていく。問題点が見つかれば、処方医にフィードバックし、その後のフォローについて検討する。たまに患者さんから採れたての野菜や魚、つきたてのお餅や自家製お漬物など頂き、感謝しながら日々の業務を全うすることで恩返しをする。
しかしながら前述の研究活動については、これが一変することも。地続きでないという物理的・地理的要因が、他の地域にない、あるいは隠れている問題点を明確にすることもあります。
本当に必要な患者さんの薬を切らさない。これは僕達の使命。
例えば、台風などで海・空の便が共に欠航してしまえば、医薬品に限らず食品等においても物流が完全にストップします。ここから何が見えてくるのか。薬局にとどまらず、島全体での医薬品の備蓄問題に繋がりますし、その際の患者さんへのフォローも問題になります。それらを考えていくと、実は災害時の対応と共通する部分が多いことに気づきます。
20年前の阪神淡路大震災、そして記憶に新しい東日本大震災。このほか、日本は数々の災害を経験しているわけですが、このような事態において我々薬剤師の社会に対して負う責任とは、薬剤師法第一条「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」そのものですよね。
他にも、離島ゆえの問題点などを深く考えていくと、「離島は日本の縮図」という一言を毎回痛感させられるのです。日本そのものが「離島」で構成されていますので、当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。そういう意識を持って研究を続けると、今まで見えなかったものがぼんやり形を成していくような、妙な気分になることもあります。
お薬を本当に必要とする方のために供給していくこと。これは大切な使命ですね。最後に離島で働くことに少しでも興味のある薬剤師さんに向けてメッセージをお願いします。
現在、インターネットの普及によって、情報格差は都市部と離島などの僻地においてほぼ存在しないと考えて良いと思います。東京のど真ん中に住んでいて、いくら良質の情報がふんだんに入ってきても、意識しなければすべて捨てることになったり、その情報量に圧倒されてメインの情報ではなくジャンク的な情報しか残らなかったりという事もあるのではないでしょうか。
意識して情報を探せば、離島に住んでいても重要な情報を入手することは容易です。そして、情報を入手するだけではなく発信することも、離島に住まいを構えながら可能になります。現に、私は今、離島の薬局の中でお読み頂いている皆様に情報を発信できていますよね。
そして、先程も申し上げました「離島は日本の縮図」という点に加え、離島は皆様の想像通り国内でも有数の「高齢化が進んでいる地域」です。すなわち、これから日本全域に訪れる超々高齢化社会を、先駆けて体験している地域でもあります。ということは、「離島は日本の縮図であり、数十年先の日本の姿」と言えないでしょうか?
薬剤師あるいは薬局の業務が、調剤メインから在宅活動を加えた形へシフトし、加えてセルフメディケーション推進拠点を目指すことで、「健康ナビステーション」構想(厚生労働省案)の実現に向かって進んでいることは、既に皆様もご存知のことと思います。
今はまだ見えていないだけで今後の検討対象となるかもしれない、薬業界のみならず医療全体、あるいは物流・サービス全体の隠れた問題点が、離島で先に体験・発見できるかもしれません。おそらくは現在もあるのでしょうが、残念ながら注目して下さる方も少なく、実際に離島で一緒に頑張って下さる方も少ないので、マンパワー不足で掘り出せていない可能性が高いのではと感じております。
研究なんて興味が無い、そんな方でも是非一度、離島(できれば五島)にお越しください。離島は全国的に薬剤師不足が慢性化しています。もし幸運にも充足するような流れになれば、やるべきことを抱えている人が、それに集中出来るようになります。そうなれば、離島で勤務してくださった方が支えてくれたからこその成果であり、それ自体が研究活動を支える事になります。
当社も一緒に働いてくださる方を募集中ですので、よろしくお願い致します。
最後の最後になりましたが…魚に限らず野菜も鳥も豚も牛も、島内で生産されるものが多いので、五島の食べ物は抜群に美味しいです。この辺りの情報は、当社ホームページにてご確認下さい。
ありがとうございました!!
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