プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期安全性

この記事を書いた人

シン

薬剤師
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学) 薬学部卒
東北薬科大学大学院博士前期課程修了

初めて記事を書かせていただきますシンと申します。

私は、製薬メーカーの研究職、CROのモニターを経て、現在調剤薬局チェーンに勤務しております。
上記の経歴より、学術情報を日々の服薬指導に活かしたいと考え、業務を行っております。

さて、2018年2月7日、遂に2018年度診療報酬改定の個別点数が決定致しました。
今回の目玉の一つは、服用薬剤調整支援料125点でしょう。

薬剤師が主導となり、不適切な多剤併用、ポリファーマシーを解消するための点数です。

服用薬剤調整支援料 125点
注 6種類以上の内服薬(特に規定するものを除く。)が処方されていたものについて、処方医に対して、保険薬剤師が文書を用いて提案し、当該患者に調剤する内服薬が2種類以上減少した場合に、月1回に限り所定点数を算定する。

この点数は、これまでの業務と一線を画すものだと、私は感じました。
これまでにも、薬剤師から医師への処方提案を推奨する声はありましたが、これまでの医師と薬剤師の関係から、実際に処方提案をすることは憚られる雰囲気があると感じております。

しかし、点数化されたからには、大手チェーンを始めとして、点数算定を求められることと思います。
これから、ポリファーマシーに取り組み、医師に処方提案していくためのヒントは、エビデンスにあると思います。

医師は、エビデンスによって処方決定していることが多いと思いますが、参考とするエビデンスは、企業のMRを経由して入手していることが多いのではないでしょうか。
MRの情報には、当然バイアスかかっているため、薬を採用する参考にはなっても、薬を中止する参考にはなりにくいです。

そこで、薬を中止するために参考となるエビデンスを、当記事によってご紹介していきたいと思います。

前置きが長くなりましたが、今回は、プロトンポンプ阻害薬(以下、PPI)の長期安全性についてご紹介致します。

PPIは、短期的にはほとんど副作用の見られない薬ですが、長期連用した場合の副作用が報告されております。

なお、PPIは、通常投与期間が制限されております。

  • 低用量アスピリン投与時の胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発抑制
  • 非ステロイド性抗炎症薬投与時の胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発抑制
  • 再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法

上記の適応を除き、投与期間が限られております。

とは言え、PPI長期投与は多いですよね。
むしろ、胃潰瘍に8週間投与したから、とか十二指腸潰瘍に6週間投与したから、ということで中止するってあまり見ないですよね。

病名も特に聞いてなく、たまに脂っこいもの食べた時だけ胃もたれがあるからって何年も飲み続けている方なんてのも、少なくないと感じます。

そんな、必要性の低いPPIを中止するための情報をお届けしていきます。

今回、ご紹介する学術情報は、メタアナリシスによるものを中心としています。

メタアナリシスとは、複数の臨床研究の結果を統合して計算したものであり、最も信頼性の高い結果と言われております。

また、95%CIとは、95%の確率で「真の値」はこの範囲に含まれるというものです。

例えば、95%CIの範囲が、いずれも1.00を超えていれば統計的に有意に増大、いずれも1.00未満であれば統計的に有意に減少、範囲内に1.00を含んでいれば統計的有意差なしと判定されます。

1.PPIによる骨折リスク増大

PPIを長期服用している人の骨折リスクは、PPIを飲んでいない人に比べて1.30倍(95%CI:1.15-1.48)であり、股関節骨折リスクは1.34倍(95%CI:1.09-1.66)と有意に上昇していました。
一方、H2ブロッカー(以下、H2RA)長期服用時の骨折リスクは、1.11倍(95%CI:0.95-1.30)と有意差なしでした(1)

また、ビスホスホネート(以下、BP)とPPIの併用群及びBP単独群の骨折リスクを比較したところ、BP+PPI群では、骨折リスクが1.52倍(95%CI:1.05-2.19)と有意にリスク上昇との結果でした。
人種別にサブ解析をした結果、アジアンではBP+PPI群のBP単独群に対する骨折リスク1.75倍(95%CI:1.07-2.87)と全体よりもリスク上昇し、ヨーロピアンでは1.42倍(95%CI:0.97-2.08)と有意差は出ませんでした(2)

BPの消化器副作用防止のためにPPIが処方されているのも見ますが、それによって骨折リスクが上がるリスクもあるとの結果です。

BP投与に対してPPIを併用する場合は、消化器副作用のリスクを個別に評価する必要がありそうです。

2.PPIにより感染症の増加の可能性があるが結論は出ていない

感染症のリスク上昇の可能性も示されています。PPI服用被験者の感染症リスクは、非服用者の4.28倍(95%CI:3.01-6.08)でした。
原因菌別のサブ解析では、サルモネラ菌では4.84倍(95%CI:2.75-8.54)、カンピロバクター菌では5.09倍(95%CI:3.00-8.64)でした(3)

サルモネラ菌及びカンピロバクター菌は、グラム陰性桿菌であり、食中毒原因菌として重要です。

PPI投与群とH2RA投与群との比較による胃潰瘍やストレス性胃潰瘍患者におけるディフィシル菌院内感染の影響の検討では、PPI投与群では、H2RA投与群と比較し、ディフィシル菌感染のリスクが1.386倍(95%CI:1.152-1.668)でした(4)

ディフィシル菌は、抗菌薬の副作用による下痢の原因菌と言われております。
腸内の常在菌ですが、抗菌薬投与によって腸内環境細菌叢が乱れると下痢を引き起こします。
偽膜性腸炎の原因菌としても知られております。

ストレス性潰瘍に対して投与されたPPIを、H2RA、スクラルファートまたはプラセボ・非投与とそれぞれ比較したところ、いずれとの比較でも、臨床的に重要な消化管出血は有意に減少していました。

一方、PPIによる肺炎発症リスクを調べると、有意差は出なかったものの、リスク上昇傾向が見られました(5)

同じように、肺炎リスクを調べたメタアナリシスでも、肺炎リスクの上昇なしに、臨床的に重要な消化管出血が減少したとの結果もあります(6)(7)

メタアナリシスは、信頼性が高いとは言え、絶対的なものではありません。
相反する結果が出る事もあります。

3.PPIとクロピドグレルとの併用で、抗血小板作用を減弱

クロピドグレルとPPIを併用する事で消化管出血を減らせるとの報告があります。

クロピドグレルは、プロドラッグです。
CYP2C19で代謝されることにより活性化され、抗血小板作用を示します。

PPIの多くがCYP2C19を阻害しますので、それによって抗血小板作用を減弱するとの作用機序が示されています。

しかし、クロピドグレルには、消化管出血の副作用がありますので、それを防ぐためにPPIが併用されることがあります。保険適応外ですが。

クロピドグレルとPPI併用による消化管出血リスクは1.14倍(95%CI:0.82-1.58)と低下せず、脳梗塞、心筋梗塞、心血管系死亡複合アウトカムは1.28倍(95%CI:1.24-1.32)と上昇していました(8)

一方、全死亡及び心筋梗塞は上昇せず、消化管出血は0.30倍(95%CI:0.08-0.87)に減少したとの報告もあります(9)

CYP2C19阻害作用は、PPIの中でもオメプラゾールは強く、エソメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールは弱めなので、オメプラゾール以外は、あまり影響しないとの報告(10)と影響するとの報告(11)があります。

4.PPIによる認知症リスク上昇は否定的

PPIによって認知症リスクが上昇するの報告もありますが、メタアナリシスの結果、リスク上昇はなさそうです(12)

5.PPIによる腎機能障害の可能性

PPIにより慢性腎機能障害になりやすいとの報告もあります。

慢性腎障害リスクは、PPIでは1.33倍(95%CI:1.18-1.51)と有意に上昇し、H2RAでは1.02倍(95%CI:0.83-1.25)と有意差なしでした(13)

急性腎障害リスクも1.61倍(95%CI:1.16-2.22)と有意に上昇していました。

特に、ランソプラゾール、エソメプラゾールでリスク上昇が見られる傾向にありました(14)

ファモチジンは、腎機能によって用量調節が必要な薬剤なので、個人的に、この結果は意外に思いました。

6.PPIによる頭痛リスク上昇の可能性

PPI服用開始の片頭痛、緊張性頭痛のリスクは、7日後、14日後、28日後のいずれの時点でも増加していました(15)

それほど必要性のなさそうなPPI服用患者で、ロメリジンやトリプタン系薬を服用しているような人は、PPI中止しても良いかもしれません。

7.PPIによる低マグネシウム血症のリスク上昇の可能性

低マグネシウム血症のリスク1.43倍(95% CI, 1.08-1.88)との報告(16)もあります。

低マグネシウム血症の症状は、食欲不振、悪心、嘔吐、傾眠、手足のこわばり、反射亢進などです。
PPI長期服用患者でこの様な症状が出ている場合、医師へ、血清マグネシウム測定を提案してみましょう。

まとめ

  • PPI長期服用の必要性のない患者については、医師へ服薬中止を提案し、服用薬剤調整支援料を算定しよう。
  • 骨折リスクのある患者、免疫不全の患者、クロピドグレルとの併用(特にオメプラゾール)、腎機能障害、慢性頭痛の患者では、PPI長期服用のデメリットの方が多いかもしれない。
  • だけど、消化管出血予防効果は、他の作用機序の薬よりもPPIの方が優れているので、むやみに中止すればよいというものでもない。

以上、PPIの長期安全性について述べてきました。

今回の内容は、私が学生だった頃の教科書には載っていませんでした。

薬剤師の生涯学習が求められておりますが、それは、医療の常識が日々アップデートされていることにもよります。

PPI以外の薬についても、10年前の知識と現在の常識が異なっているものは多いです。

薬剤師から医師への処方提案を積極的に行うのであれば、これまで以上に最新の知見を吸収していく必要があると感じております。

皆さんも、論文を読んでみてください。
論文を読むって難しく感じるかもしれませんが、案外、英語の小説を読むよりも簡単です。

いくつかの専門用語だけ辞書で調べれば読めるからです。
妙に凝った文法もあまり使われません。

論文を読むことも、医師へ処方提案をすることも、初めての時は敷居が高く感じるものですが、いざやってみると慣れいくものです。

まずは、一歩を踏み出してみてください。

引用文献
(1)Eom CS, Park SM, Myung SK, Yun JM, Ahn JS. Use of acid-suppressive drugs and risk of fracture: A meta-analysis of observational studies. Ann Fam Med. 2011 May-Jun;9(3):257-67.

(2)Yang SD, Chen Q, Wei HK, Zhang F, Yang DL, Shen Y, Ding WY. Bone fracture and the interaction between bisphosphonates and proton pump inhibitors: a meta-analysis. Int J Clin Exp Med. 2015 Apr 15;8(4):4899-910.

(3)Hafiz RA, Wong C, Paynter S, David M, Peeters G. The Risk of Community-Acquired Enteric Infection in Proton Pump Inhibitor Therapy: Systematic Review and Meta-analysis. Ann Pharmacother. 2018 Feb 1:1060028018760569. doi: 10.1177/1060028018760569.

(4)Azab M, Doo L, Doo DH, Elmofti Y, Ahmed M, Cadavona JJ, Liu XB, Shafi A, Joo MK, Yoo JW. Comparison of the Hospital-Acquired Clostridium difficile Infection Risk of Using Proton Pump Inhibitors versus Histamine-2 Receptor Antagonists for Prophylaxis and Treatment of Stress Ulcers: A Systematic Review and Meta-Analysis. Gut Liver. 2017 Nov 15;11(6):781-788. doi: 10.5009/gnl16568.

(5)Alhazzani W, Alshamsi F, Belley-Cote E, Heels-Ansdell D, Brignardello-Petersen R, Alquraini M, Perner A, Møller MH, Krag M, Almenawer S, Rochwerg B, Dionne J, Jaeschke R, Alshahrani M, Deane A, Perri D, Thebane L, Al-Omari A, Finfer S, Cook D, Guyatt G. Efficacy and safety of stress ulcer prophylaxis in critically ill patients: a network meta-analysis of randomized trials. Intensive Care Med. 2018 Jan;44(1):1-11. doi: 10.1007/s00134-017-5005-8. Epub 2017 Dec 4. Review.

(6)Alshamsi F, Belley-Cote E, Cook D, Almenawer SA, Alqahtani Z, Perri D, Thabane L, Al-Omari A, Lewis K, Guyatt G, Alhazzani W. Efficacy and safety of proton pump inhibitors for stress ulcer prophylaxis in critically ill patients: a systematic review and meta-analysis of randomized trials. Crit Care. 2016 May 4;20(1):120. doi: 10.1186/s13054-016-1305-6.

(7)Filion KB, Chateau D, Targownik LE, Gershon A, Durand M, Tamim H, Teare GF, Ravani P, Ernst P, Dormuth CR; CNODES Investigators. Proton pump inhibitors and the risk of hospitalisation for community-acquired pneumonia: replicated cohort studies with meta-analysis. Gut. 2014 Apr;63(4):552-8. doi: 10.1136/gutjnl-2013-304738. Epub 2013 Jul 15.

(8)Serbin MA, Guzauskas GF, Veenstra DL. Clopidogrel-Proton Pump Inhibitor Drug-Drug Interaction and Risk of Adverse Clinical Outcomes Among PCI-Treated ACS Patients: A Meta-analysis. J Manag Care Spec Pharm. 2016 Aug;22(8):939-47. doi: 10.18553/jmcp.2016.22.8.939. Review.

(9)Aihara H1, Sato A, Takeyasu N, Nishina H, Hoshi T, Akiyama D, Kakefuda Y, Watabe H, Aonuma K; ICAS Registry Investigators. Effect of individual proton pump inhibitors on cardiovascular events in patients treated with clopidogrel following coronary stenting: results from the Ibaraki Cardiac Assessment Study Registry. Catheter Cardiovasc Interv. 2012 Oct 1;80(4):556-63. doi: 10.1002/ccd.23327. Epub 2012 Jan 10.

(10)Wedemeyer RS1, Blume H. Pharmacokinetic drug interaction profiles of proton pump inhibitors: an update. Drug Saf. 2014 Apr;37(4):201-11. doi: 10.1007/s40264-014-0144-0.

(11)Furuta T, Sugimoto M, Kodaira C, Nishino M, Yamade M, Uotani T, Sahara S, Ichikawa H, Kagami T, Iwaizumi M, Hamaya Y, Osawa S, Sugimoto K, Umemura K. Influence of low-dose proton pump inhibitors administered concomitantly or separately on the anti-platelet function of clopidogrel. J Thromb Thrombolysis. 2017 Apr;43(3):333-342. doi: 10.1007/s11239-016-1460-2.

(12)Nehra AK, Alexander JA, Loftus CG, Nehra V. Proton Pump Inhibitors: Review of Emerging Concerns. Mayo Clin Proc. 2018 Feb;93(2):240-246. doi: 10.1016/j.mayocp.2017.10.022. Review.

(13)Wijarnpreecha K, Thongprayoon C, Chesdachai S, Panjawatanana P, Ungprasert P, Cheungpasitporn W. Associations of Proton-Pump Inhibitors and H2 Receptor Antagonists with Chronic Kidney Disease: A Meta-Analysis. Dig Dis Sci. 2017 Oct;62(10):2821-2827. doi: 10.1007/s10620-017-4725-5. Epub 2017 Aug 23. Review.

(14)Yang Y, George KC, Shang WF, Zeng R, Ge SW, Xu G. Proton-pump inhibitors use, and risk of acute kidney injury: a meta-analysis of observational studies. Drug Des Devel Ther. 2017 Apr 24;11:1291-1299. doi: 10.2147/DDDT.S130568. eCollection 2017.

(15)Liang JF, Chen YT, Fuh JL, Li SY, Chen TJ, Tang CH, Wang SJ. Proton pump inhibitor-related headaches: a nationwide population-based case-crossover study in Taiwan. Cephalalgia. 2015 Mar;35(3):203-10. doi: 10.1177/0333102414535114. Epub 2014 May 22.

(16)Cheungpasitporn W, Thongprayoon C, Kittanamongkolchai W, Srivali N, Edmonds PJ, Ungprasert P, O’Corragain OA, Korpaisarn S, Erickson SB. Proton pump inhibitors linked to hypomagnesemia: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Ren Fail. 2015 Aug;37(7):1237-41. doi: 10.3109/0886022X.2015.1057800. Epub 2015 Jun 25. Review.

(17)Hatemi İ, Esatoğlu SN. What is the long term acid inhibitor treatment in gastroesophageal reflux disease? What are the potential problems related to long term acid inhibitor treatment in gastroesophageal reflux disease? How should these cases be followed? Turk J Gastroenterol. 2017 Dec;28(Suppl 1):S57-S60.

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薬剤師
東北薬科大学(現・東北医科薬科大学) 薬学部卒
東北薬科大学大学院博士前期課程修了

製薬メーカー研究職、CROを経て、現在、調剤薬局にて薬剤師として勤務。
休日には、仏像彫刻作製やボルダリングなどを行っている。

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