ドラッグストアに勤務されたことのある薬剤師だと、
「お灸」を取り扱いしたり、販売した経験があるのではないでしょうか。
「お灸をすえる」
という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。
子供の癇癪(かんしゃく)にお灸をすることが有効であるということも手伝ってお仕置きのイメージがありますが、健康のために据えていたのです。
ただ、熱さや痛みの少ないように据えることは難しいため素人のお母さんたちが据えるお灸は相当に熱かっただろうと思います。
薬局でお灸を取り扱っている場合は、
「お灸はどのようなメカニズムなのか」
お客さんから質問を受けることがあるかもしれません。
ただなんとなく商品棚にお灸が置かれている薬局さんもあるかと思いますので、
代表的なお灸の種類、作用機序について解説したいと思います。
お灸にも種類があります。
お灸に使う「もぐさ」はヨモギから作られていて、生薬メーカーとして有名なウチダ和漢薬も販売しています。
材料は同じでも精製度合いによって値段や用途がかわります。
代表的なお灸には下記の3種類があります。
作用機序や効果はわかっているものばかりではありません。
漢方薬と同様に経験的に使われてきたものを研究してみたら分かってきた、という状況です。
透熱灸の作用機序
写真1 透熱灸
皮膚上で直接燃やすと熱でタンパク変性がおこります。
お灸で皮膚が炭化すると炭化した部分は皮膚の深層まで達します。
皮膚は元々たんぱく質ですが焼けて炭化した部分は本来の機能を失った異質タンパクになってしまいます。
その外側には変性タンパクと自己組織の両方がまじりあった部分ができます。
非自己のタンパク(変性タンパク)、もしくは自己と非自己がまじりあった部分はランゲルハンス細胞やマクロファージに吸収され血液に乗って全身を回ります。
この刺激がマクロファージを活性化させ、他の体内への侵入者(細菌やウイルス、初期のがん細胞など)に働きかけてそれらの排除に寄与すると考えられています。
実際、ウサギで実験されたデータでは免疫に関係するリンパ球の数が上がります。
好中球もあがりますが、好中球は施灸後すぐに下がってしまいます。
マクロファージを起点として、
抗原提示→リンパ球が抗原を認識・記憶→抗原に特異的なヘルパーT細胞が活性化・増殖→抗原に特異的なB細胞が活性化・増殖→抗体産生
という反応が起こりますから、施灸を繰り返すことで免疫力が高い状態が維持されるということです。
また、熱によってHSP(ヒートショックタンパク)と総称される物質が作られることが分かっています。
HSPは熱で細胞が傷ついたときに傷が広がらないようにし、また傷の修復を助ける成分です。
熱ストレスがかかった場合に正常な機能を維持するタンパクを作るためのmRNAは合成が低下する場合が多いのですがHSPの合成のためのmRNAは増えます。
ここで合成された損傷修復のための成分が疾患からの回復に寄与しているのではないかと言われていますが決定的なことはわかっていません。
わからないことだらけですが人体がホメオスタシスを維持しようとする機能の賦活化が鍼灸の作用機序の要ということは間違いなさそうです。
沢山すれば効果も上がるように思われるかもしれませんが、あくまで自分のホメオスタシスを維持しようとする力、体力の休眠している部分を活性化して利用しているという事から考えると少しの量を毎日続ける、という事が大切だと考えます。
棒灸(ぼうきゅう)・隔物灸(かくぶつきゅう)の作用機序
写真2 棒灸
写真3 隔物灸
代表的な「せんねん灸」がこれらのカテゴリーの商品で、血流が悪くなっているとか冷えがあるとかいう場合によく用いられます。
肩こり・腰痛のセルフケアにもよく用いられます。
皮膚表面上にはTRPVファミリーに分類される温度センサーが発現していて、体温調整に関わっているようです。
お灸の輻射熱はこれらを刺激して血行を促進し痛みの悪循環に陥っている部分の発痛物質を押し流し、組織の修復に必要な物質を運んでこさせるようです。
ですから、NSAIDsで痛みを抑えておいて、せんねん灸で組織の回復を促すというような使い方も考えられます。
参考文献
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