質問の仕方として、開いた質問(オープンクエスチョン)と閉じた質問(クローズドクエスチョン)があります。
オープンクエスチョンは、選択肢を示さず、自由な回答を求めるものです。
例
「今日はどうなさいました?」
「何か気掛かりなことはございますか?」
「副作用はありませんか?」
オープンクエスチョンのメリットには、
といったものであり、デメリットは、
といったものがあります。
一方、クローズドクエスチョンは、選択肢を示したり、「はい」または「いいえ」で答えられる形の質問です。
例
「今日は風邪ですか?」
「鼻水、咳、喉の痛み、熱はありますか?」
「ふらつき、めまいや便秘はありませんか?
クローズドクエスチョンのメリットには、
といったものがあり、デメリットとしては、
といったものがあります。
カウンセリングを行う際にも、通常の服薬指導においても、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分けることで、効率良く情報収集をおこなうことが出来ます。
これらのコミュニケーション手法、カウンセリング手法によって患者さんと関わることは、減薬あるいはこれ以上の増量を防ぐための助けになるかもしれません。
行動療法を行うためには、患者さんの話を傾聴し、または積極的に情報収集をすることが必要です。
お互いの信頼関係は、指導を行う上で非常に重要です。
信頼関係がなければ無視される話でも、信頼関係があれば聞いてもらえることもあります。
信頼関係を築くためには、
など、一方的な、押し付ける形の指導とならないように気を付けます。このことは、行動療法を行うかどうかに関わらず、患者さんと接する上で重要なことです。
ただし、傾聴も必要ですが、ただ相槌だけ打ち、いつまでも話を聞いていれば良いものではありません。
次の患者さんが待っています。
無限ループで同じ話をされるときや、話が脱線して収拾がつかなくなる時は、適度に話を遮り、必要な情報だけを聞くことが有効なこともあります。
例えば、
薬剤師「最近、体調はいかがですか?」
患者さん「全然眠れないんです。」
薬剤師「眠れないと感じるんですね。」
患者さん「そうなんです。寝つくんだけど、すぐ目が覚めてしまうんです。朝までずっとそんな感じです。」
薬剤師「お布団に入る時間、寝つく時間、朝起きる時間は何時くらいですか?」
患者さん「夜は8時半くらいに睡眠薬を飲んで寝るんだけど、2時間くらいで目が覚めてしまうんです。」
薬剤師「8時半に寝て、2時間で目が覚めてしまうんですね。目が覚めた後はどうしてますか?」
患者さん「お手洗いに行って、それからまた寝ます。」
薬剤師「すぐに眠れますか?」
患者さん「すぐ眠れますけど、また目が覚めてしまいます。」
薬剤師「一晩に何回くらい目が覚めますか?」
患者さん「3~4回くらいです。」
薬剤師「朝は、何時くらいに起きますか?」
患者さん「朝は、4時くらいに目が覚めて、その後はもう眠れなくなってしまいます。」
薬剤師「なるほど。8時半に寝て、その後2時間おきに3~4回目が覚め、4時くらいに起きるということですね。」
患者さん「そうです。」
薬剤師「寝る前にアルコールは飲みますか?」
患者さん「飲みますけど、コップ1杯程度なので、飲んでいるうちに入りません。昔はもっと飲んでいたんだけど、今は少ししか飲んでいません。眠れないから、やっぱりお酒は飲まないといけないんです。夫と二人で瓶ビール1本飲むだけなので、ほんの少量なんです。これくらいは飲んでいるうちには入りません。昔はもっと飲んでいたんだけど、今は・・・」
薬剤師「ええと、今は、コップ1杯くらいのビールを飲んでいるということですね?」
患者さん「はい、そうです。」
薬剤師「週に何回飲んでいるんですか?」
患者さん「毎日飲んでいます。」
薬剤師「毎日飲んでいるんですね。実は、アルコールによって寝つきはよくなるんですけど、アルコールが切れた後、目が覚めやすくなったりお手洗いが近くなったりするんです。夜中に何度も起きてしまうとのことなので、アルコールを飲まない方が良く眠れる可能性があります。まずは、週に1回でも飲まない日を作ってみてください。」
患者さん「はい。」
薬剤師「それと、睡眠時間が長いと、眠りが浅くなってしまうんです。8時半から4時だと、かなり長い時間ねていらっしゃいますので、もっと眠る時間を遅くしてもよいかもしれません。」
患者さん「そうなんですか。」
薬剤師「ええ。週1回の休肝日をつくることができるか、寝る時間を遅らせることが出来るか試してみてください。どうだったか、次回教えてください。」
このくらいの会話であれば、3~5分程度です。
上記の会話の中で、薬剤師は、
といった流れを、積極的なアクティブリスニングによって作りだしました。
しかし、上記の会話の中では、喫煙、カフェイン摂取までは確認出来ていません。この点は、継続的フォローの中で、次回以降に確認することになります。
睡眠に影響を与える個別の習慣、または薬の副作用については、オープンクエスチョンで聞き取ることは困難です。一つ一つ具体的な話をし、クローズドクエスチョンで聞くことが重要です。
ここまで、減薬の方法を色々とお示ししてきましたが、それでも減薬は簡単ではありません。
微量でも減ることに抵抗を示す方も多いですし、CBTの指導に従うことのできる患者様はあまりいらっしゃいません。
ここで大事なことは、減薬に失敗しても落ち込まないということです。
10人中1人でも減薬に成功すれば十分です。
100人中1人の減薬に成功すれば、貴重な成功体験となります。
できなかったことを振り返り、方法論や話の順序を再検討することも大事ですが、できた部分を評価することも大事です。
引用
(1)上田幹人、下田和孝 臨床精神医学. 35, 1663-1666, 2006
(2)日本老年医学会日本医療開発機構研究費・高齢者の安全な薬物治療の研究研究班 高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト
(3)平 成 29年3 月17日 厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課 催眠鎮静薬、抗不安薬及び抗てんかん薬の 依存性に係る添付文書改訂について
(4)Vinkers CH, Olivier B. Mechanisms Underlying Tolerance after Long-Term Benzodiazepine Use: A Future for Subtype-Selective GABA(A) Receptor Modulators? Adv Pharmacol Sci. 2012;2012:416864. doi: 10.1155/2012/416864. Epub 2012 Mar 29.
(5)ヘザー・アシュトン教授 2002 年 8 月改訂 ベンゾジアゼピン - それはどのように作用し、 離脱するにはどうすればよいか (通称アシュトンマニュアル)
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(12)ジュディス・S・ベック , 伊藤 絵美 , 神村 栄一 , 藤澤 大介 認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版 -ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト‐
(13)岡島 義 、 井上 雄一 認知行動療法で改善する不眠症
(14)土井 貴仁 ベッドにいてはいけない―不眠のあなたが変わる認知行動療法
(15)Pottie K, Thompson W, Davies S, Grenier J, Sadowski CA, Welch V, Holbrook A, Boyd C, Swenson R, Ma A, Farrell B. Deprescribing benzodiazepine receptor agonists: Evidence-based clinical practice guideline. Can Fam Physician. 2018 May;64(5):339-351
(16)睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドラインー出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアルー 厚⽣労働科学研究・障害者対策総合研究事業「睡眠薬の適正使⽤及び減量・中⽌のための診療ガイドラインに関する研究班」および⽇本睡眠学会・睡眠薬使⽤ガイドライン作成ワーキンググループ 編
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