統合失調症の病態と治療薬一覧

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ゆう

薬剤師
岐阜薬科大学 薬学部卒

統合失調症の治療薬は、定型抗精神病薬から非定型抗精神病薬にかわりつつあり、精神科の門前薬局でなくても統合失調症の患者やご家族に服薬指導をするケースが増えてきているのではないだろうか。

薬剤師が知っておく必要がある統合失調症の病態、診断、治療薬、生活面でのアドバイスについてまとめていきたい。

統合失調症の【病態】について

統合失調症は10代後半〜30代前半に発症し、幻覚症状や思考障害、幻聴などを主症状とする。

それに伴い、意欲低下や感情の鈍化が起こり、社会的引きこもりを引き起こすことが多い。

原因としてはドパミンやその受容体の異常が挙げられているが、そのほかにもグルタミン酸系の異常も関与していることが分かっている。

ドパミンなどの神経系の異常は、ストレス脆弱性モデルで説明されている。

ストレスや個人的気質により、中脳辺縁系でドパミン神経系が優位となることで陽性反応である妄想や幻覚が生じるようになり、また中脳皮質系ではセロトニン神経系が優位になることで、ドパミン神経系が低下して陰性症状が出る。

初期は倦怠感や、頭重感などの身体的症状から始まり、その後、幻覚や妄想の症状がみられ、さらに進行すると、意欲低下と無関心の症状が出るようになる。

統合失調症の【検査】について

統合失調症のみに特徴的にみられるような所見は存在しないため、総合的な判断で診断される。

流れとして、まずは問診にて、症状、家族歴、既往歴、薬物使用歴などを聞き、本人の振る舞いや態度の観察などを行う。

そして、ほかの精神性疾患や気分障害、人格障害である可能性の除外を行い、統合失調症の疑いが強くなれば、続けて、脳画像検査と髄液検査、血液検査など各種検査が行われる。

検査では、統合失調症様症状のある疾患、脳腫瘍、ウイルス性脳炎、側頭葉てんかん、甲状腺疾患などの鑑別を行い、それらの可能性を除外していく。

そして、すべての可能性が除外されたのち、その他要因と合わせて、DSM-VICD-10の診断基準(下記参照)に基づいて、確定診断を行う。

問診は基本的に本人に対して行うが、病気の認識がない場合や興奮状態にあって本人対応ができないことなどもあるため、家族や付添の方へも行われる。

いつから症状があるか、具体的にどのような症状か、日常生活への影響があるかどうか、統合失調症は遺伝的要因もあるため、必ず家族の発症者がいないか確認される。

薬物使用歴については、主に鎮静剤や睡眠剤の使用歴がないかが重要となる。

アルコール・薬物依存症の有無も発症の原因となるため、細かくチェックされる。

統合失調症患者は、周囲に無関心で拒否的であり、落ち着きがない、口数がないなどの特徴も問診時に観察される。

以降、統合失調症の診断基準であるDSM-VとICD-10についてまとめる。

統合失調症の診断基準(DSM-5)

統合失調症の診断基準の一つであるDSM-V。

DSM-Ⅴの診断基準A〜Fをすべて満たすことが、統合失調症の診断における基本だが、時折当てはまらない患者もおり医師の裁量で判断される。

DSM-Vの各項目は下記のとおり。

(A) 以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくともひとつは1か2か3である。

  1. 妄想
  2. 幻覚
  3. まとまりのない発語(例:頻繁な脱線、滅裂)
  4. ひどくまとまりのない、または緊張病性行動
  5. 陰性症状(すなわち感情の平板化、意識欠如)

(B) 障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。

(C) 障害の持続的な徴候が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。

(D) 統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下の理由で除外されていること。

  1. 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない。
  2. 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。

(E) その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

(F) 自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加えて少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。

統合失調症の診断基準(ICD-10)

統合失調症の診断基準の一つであるICD-10は下記のとおり。

診断のために必要な条件

下記の1〜4のうち、明らかな症状が少なくとも1つ(十分に明らかでない場合は2つ以上)、あるいは5〜9のうち少なくとも2つ以上が、1ヶ月以上にわたりほとんどの期間、明らかに存在していること。

(1) 考想化声(こうそうかせい)、考想吹込または考想奪取、考想伝播。

(2) 他者に支配される、影響される、あるいは抵抗できないという妄想で、身体や四股の運動、特定の思考・行動や感覚に関連づけられているもの、および妄想知覚。

(3) 患者の行動に対して絶えず注釈を加えたり、仲間の間で患者のことを話題にする形式の幻聴、あるいは身体のある部分から発せられる幻声。

(4) 宗教的・政治的な身分や超人的な力や能力といった、文化的に不適切で実現不可能なことがらについての持続的な妄想。(例えば、天候をコントロールできるとか、別世界の宇宙人と交信しているといったもの)

(5) 持続的な幻覚が、感傷的内容をもたない浮動性あるいは部分的な妄想や支配観念に伴って、継続的(数週間から数ヶ月)に現れる。

(6) 思考の流れに途絶や挿入があり、その結果、まとまりのない話し方をしたり、言語新作がみられたりする。

(7) 興奮、常同姿勢、蝋屈症(ろうくつしょう)、拒絶症、緘黙(かんもく)、昏迷などの緊張病性行動。

(8) 著しい無気力、会話の貧困、情動的反応の鈍麻(どんま)や不適切さのような、社会的引きこもりや社会的能力の低下をもたらす陰性症状。

(9) 関心喪失、目的欠如、無為、自分のことだけに没頭する態度、社会的ひきこもりなど、個人的行動の質的変化。

考想化声
頭の中で考えたことが声として自分に聞こえる、またはその声が他人にも聞かれていると感じること。
考想奪取
自分の考えが他人に奪われていると感じること。
考想伝播
頭の中だけで考えたことが、他人にも知られていると感じること。
言語新作
自分にしか通じない特殊な記号や漢字を使う。
蝋屈症(ろうくつしょう)
受動的にとらされた姿勢を保ち続け、自分の意思で変えようとしない状態。

統合失調症の【治療】

統合失調症は、急性期回復期安定期に分けて治療が行われる。

治療方針としては、おもに非薬物療法薬物療法がある。急性期においては薬物療法がおもに行われ、状態が安定していくにしたがって、非薬物療法である精神療法やリハビリテーションが行われる。

<非薬物療法>
精神療法・リハビリテーション・生活環境の調整・電気けいれん療法(興奮が強い場合、薬物療法で十分な効果がない場合)

<薬物療法>
抗精神病薬で主に治療。
+補助薬(抗不安薬・抗うつ薬・睡眠薬)

薬物療法のポイントは、早期に、なるべく少ない薬剤で、十分の量を投与することである。
そして、症状が寛解しても、再発を防ぐため、継続して服用していくことが大事となる。

急性期の治療では、まず非定型抗精神病薬が第一選択となる。
ただし、再発などの場合や、攻撃性が強い場合は定型抗精神病薬を用いる。

まずは単剤から開始し、症状が改善するまで漸次増量していく。
効果が出るまで2~4週間かかるため、急な薬剤変更は必ず行わないようにし、効果判定も4~6週間投与してから行う。

そして、維持用量に達したら、回復期に入るまで継続服用していく。

回復期の治療は、再燃が起こらないことを目的に行う。
また、回復期に入ると、不安や抑うつ症状が生じてくるため、それら治療の難しい陰性症状に対する治療も行い、状態を維持していく。

回復期の薬物療法としては、急性期に服用した薬物を継続で服用していき、陰性症状に合わせて、抗不安薬、抗うつ薬と服用する。
急性期に多剤併用であった場合は、単剤に移行することもある。

安定期に入っても、治療方針は再燃が起こらないことに注視する。

そのため、継続して薬物療法を行うことが重要であることを患者に十分に説明する。
精神症状が消失してくると、薬物の減量の検討を行っていく。

減量の際は、再燃を防ぐため、一度に服薬を中止するのではなく、用量を漸減していき、徐々に減らしていくようにする。

以下に抗精神病薬の種類についてまとめる。

抗精神病薬一覧

定型抗精神病薬一覧

おもに陽性症状改善。
陰性症状にはあまり効果が期待できない。

分類 一般名 商品名
フェノチアジン系    クロルプロマジン コントミン
ウインタミン
レボメプロマジン ヒルナミン
レボトミン
フルフェナジン フルメジン
ペルフェナジン ピーゼットシー
トリラホン
ブチロフェノン系   ハロペリドール セレネース
ブロムペリドール インプロメン
チミペロン トロペロン
ベンザミド系   スルピリド ドグマチール
ネモナプリド エミレース
チアプリド グラマリール

 

ハロペリドール(商品名:セレネース)やブロムペリドール(商品名:インプロメン)は高力価に分類され、強い抗幻覚作用を示す。

しかし、錐体外路障害も起こりやすい。

かわって、クロルプロマジン(商品名:コントミン)やレボメプロマジン(商品名:レボトミン)は低力価に分類され、抗幻覚作用は弱いが、α1受容体遮断作用などもあり、鎮静効果があるため、抗不安目的などとしても利用される。

錐体外路障害が起こりにくく、安定期ではよく服用される。

定型抗精神病薬では、副作用として、手足の震えなどが起こる錐体外路障害や、無月経、女性化乳房、性欲の低下などがある。

これらはすべて中脳辺縁系以外でのドパミン受容体遮断作用によるものである。

また、こん睡状態の患者や麻酔薬などの中枢神経抑制薬を使用している患者には禁忌となっている。

細かい禁忌は以下の通り。

ブチロフェノン系の禁忌
重症心不全、パーキンソン病、妊婦・妊娠の可能性
ベンザミド系の禁忌
重症心不全、パーキンソン病、プロラクチン分泌性下垂体腫瘍

非定型抗精神病薬一覧

陽性症状を改善する。
陰性症状、認知機能障害にも効果あり。
比較的副作用が少ない。

分類 一般名 商品名
SDA
セロトニン・ドパミン遮断薬 
  
リスペリドン  リスパダール 
パリぺリドン  インヴェガ 
ペロスピロン  ルーラン 
ブロナンセリン ロナセン 
MARTA 
多元受容体作用抗精神病薬
クエチアピン  セロクエル 
オランザピン  ジプレキサ 
アセナピン シクレスト
クロザピン クロザリル
DPA
ドパミン受容体部分作動薬
アリピプラゾール エビリファイ

非定型抗精神病薬は比較的副作用が少なく、陰性症状にも効果を示すため、統合失調症の第一選択薬となっている。

パリぺリドン(商品名:インヴェガ)はリスペリドン(商品名:リスパダール)のプロドラッグであり、作用時間が長く、少ない服用ですむという特徴がある。

またアリピプラゾール(商品名:エビリファイ)は部分作動薬であり、ほかの非定型抗精神病薬と比べてもさらに副作用が少ないという特徴を持つ。

MARTAやドパミン作動薬は血糖値の上昇による、体重増加やケトアシドーシスの副作用があり、口渇や多飲、多尿があるときはすぐに減量や服用の中止をする。

非定型抗精神病薬についても、こん睡状態の患者や麻酔薬などの中枢神経抑制薬を使用している患者には禁忌となっている。

その他、細かい禁忌については以下に示す。

MARTAの禁忌
糖尿病やその既往歴のある患者

クロザピン(商品名:クロザリル)は、MARTAに属する非常に高力価の非定型抗精神病薬である。

その管理は非常に厳しく、使用においては、定期的な血糖値の測定と血中濃度の測定を必要とする。

血糖値上昇とそれに伴うケトアシドーシスが起こりやすいため、MARTAの一般的な禁忌に加え、以下の患者にも投与禁忌である。

クロザリルの禁忌患者
無顆粒球症の既往歴・髄機能障害・重度の心疾患

統合失調症における補助薬について

統合失調症における回復期の陰性症状などに対応して、補助薬が使われる。

おもに抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬などである。

特に、統合失調症の急性期では、睡眠が乱れるため、睡眠薬は重要な補助薬となっている。暴力性やイライラ感が強いときは、抗てんかん薬を使う。

特に安定期においても、統合失調症では、発作として急な陽性症状が出ることがあるため、頓服薬や予防薬として抗てんかん薬が著効を示す。定型抗精神病薬の副作用による、パーキンソン様症状や錐体外路障害に対しては、抗パーキンソン病薬が使われる。

基本として、問題薬剤の中止や非定型抗精神病薬への変更が行われるが、それが困難な場合に服用される。

生活上の注意・アドバイス【服薬指導】

統合失調症においては、長期の治療となるため、必ず患者に服薬コンプライアンスを守ってもらう必要がある。

特に、安定期においては、症状が消失したことに気をよくして、自己判断で服薬を中止してしまうケースが多い。

治療は、初回で1年、再発で5年を目安に長期服用してもらうことを説明し、状態によってはさらに長くなることも覚悟してもらっておく必要がある。

また急性期においても、効果の発現に2~4週間かかるため、治療が行われているのか不信感を持ち、途中で投げ出してしまうケースが多い。
そのようなことを防ぐためにも、即効性がないことを話し、長い目で見て治療していくことを説明する必要がある。

生活面では、抗精神病薬はアルコールと相性が悪いため、アルコールに注意してもらう必要がある。

アルコールを飲む場合は、中枢抑制作用が強くなることを理解してもらい、服用タイミングと飲酒がかぶらないように注意したほうがよい。

悪性症候群の初期症状についても、注意が必要。
発熱や汗をかく、脈が早まるなどの初期症状について、その兆候に敏感になってもらう。

睡眠は治療において非常に重要な要素となっている。
そのため、治療効果を高めるためにも、必ず規則正しい睡眠をとってもらい、脳を休ませる必要がある。

適度な運動で気分転換も行うようにしてもらうが、ストレスにならないように注意する。

抗精神病薬は食欲を増強させるものもあるため、食事の間食などは注意する。

周囲の環境が統合失調症を悪化させることもあるため、接する家族などにも注意を説明する必要がある。

特に統合失調症では妄想などにより、孤独感や閉塞感を感じやすいため、患者に対して理解をもって接することが大切となる。

統合失調症では、激しい陽性症状の後、疲れすぎや、寝すぎるなどのことが起こることもある。
そのため、規則正しい生活ができるようにサポートすることも大切となる。

参考文献
薬がみえるvol.1
統合失調症 治療ガイドライン 第2版

この記事を書いた人

ゆう

薬剤師
岐阜薬科大学 薬学部卒

岐阜県内の公立大学卒業後、調剤薬局を経て、現在在宅専門薬局に勤務。
グルメと車が好きで、毎週末日本全国の美味しい物と景色を探してドライブしている。

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