吸入指導加算が算定できるようになってから、
これまでにも増して吸入剤の服薬指導に注力するようになりました。
気管支喘息治療に使用される吸入剤には数種類あります。
シムビコートを使用していた患者さんがレルベアに変更になったり
レルベアを使用していた患者さんがフルティフォームに変更になったりする場合があります。
変更の理由は何だろう?
と疑問に感じ、それぞれの薬剤について掘り下げて調べたことをまとめました。
ICS:inhaled corticosteroid (吸入ステロイド)とLABA:long acting beta2 agonist (長時間作用性β2刺激剤)が配合された、ICS+LABAの5商品について比較をしたいと思います。
2020年12月時点で薬価収載されているICS+LABAの配合吸入薬は5種類あります。
※1:小児適応:
15歳未満の適応あり(但し、5歳未満の幼児を体調とした臨床試験は実施なし)
※2:作用発現時間:
各薬剤インタビューフォーム及び日本呼吸器学会誌第3巻第2号Topics2より
ICS+LABAについては長期管理が基本的な使用目的であり、
発作時の頓用的な使い方ではなく、
毎日規則的に使用することで安定した状態を保つことが目的です。
しかし、上記5種類のうち発作時に使用できる薬剤があります。
それはシムビコートです。
シムビコートの添付文書の「用法及び用量」には以下の記載があります。
“維持療法として1回1吸入あるいは2吸入を1日2回投与している患者は、発作発現時に本剤の頓用吸入を追加で行うことができる。”
“維持療法と頓用吸入を合計した本剤の1日の最高量は、通常8吸入までとするが、一時的に1日合計12吸入(ブデソニドとして1920µg、ホルモテロールフマル酸塩水和物として54µg)まで増量可能である。”
この療法をSMART療法=Symbicort Maintenance And Reliever Therapyといいます。
シムビコートは吸入後の作用発現時間が約1分と他の吸入剤と比較して非常に速いです。
そのためこのような発作時に対する使い方も可能なのですね。
ただし「維持療法を行っているという前提」があるので
発作時のみに使用する薬剤ではないことを服薬指導時に患者さんに確認することが重要だと思います。
各吸入剤の効果発現時間についてはβ刺激薬の作用発現時間が主な要因です。
少し古い(2014年の)資料になりますが、
シムビコートのホルモテロールとアドエアのサルメテロールを比較した資料が
日本呼吸器学会誌の資料(第3巻第2号Topics3)に掲載されています。
上記資料によると、
ホルモテロールの作用発現時間2.1分、作用消失時間34分
に対し、
サルメテロールは作用発現時間6.4分、作用消失時間102分
となっています。
ホルモテロールは作用発現時間が早いことがメリットで、
サロメテロールは作用持続時間が長いのがメリットとなっているようです。
また、各薬剤のインタビューフォームからβ刺激薬の効果発現時間の速さの順に並べると、
ホルモテロール>インダカテロール>ビランテロール>サルメテロール
の順となります。
尚、フルティフォームはシムビコートと同じホルモテロールを含みますが
発作時の使用については適応がありませんので注意が必要です。
もう一つの成分であるステロイドについてはどうでしょうか?
ステロイドの目的は気道の炎症を抑えることにあります。
ステロイド軟膏は強さにより分類されていて分かりやすいのですが
吸入用のステロイドの強さをわかりやすく比較した資料はなかなかありません。
しかし、こちらも前出の日本呼吸器学会誌の資料のTopics2に以下の通り記載がありました。
“フルチカゾンフランカルボン酸エステルは、
吸入ステロイド薬のなかで最も高いグルココルチコイド受容体親和性を有し,
従来のフルチカゾンプロピオン酸エステルよりも気道上皮細胞に長時間留まるため強い抗炎症作用をもたらす。“
レルベアの発売元であるGSKさんもこの点は強調されていました。
吸入剤ではないのですが
点鼻薬に吸入剤と同様のステロイド剤を使用しているものがあり、比較をしてみると参考になりました。
(参考:日本医事新報社No.4687 アレルギー性鼻炎のトータルマネージメント)
フルナーゼ(フルチカゾンプロピオン酸エステル:FP)と、
アラミスト(フルチカゾンフランカルボン酸エステル:FF)の比較において、
“1日に2回の投与が必要であったFPに比べて,FFではステロイド骨格の17α位のプロピオン酸エステルがフランカルボン酸エステルに置き換えられたことによって,グルココルチコイド受容体に対してきわめて高い親和性を有していることから,1日1回投与となった。”
とあります。
また、ナゾネックス(モメタゾンフランカルボン酸エステル)は、
FFに先駆けて,フランカルボン酸エステルを用いて作用時間を長くした1日1回のステロイド点鼻薬として発売された点鼻薬です。
モメタゾンフランカルボン酸エステルを有する吸入剤アテキュラの販売元のノバルティスさんによると
抗炎症効果はフルチカゾンフランカルボン酸やフルチカゾンプロピオン酸エステルと同等とのことでした。
一方、シムビコートのブテゾニドについては、他の吸入剤よりも回数を多く吸うことを前提としているので、単純に強さのみの比較をすると他のICSよりも抗炎症作用自体は弱いのではないかと想像します。
(回数吸うことで抗炎症作用を補うという考え方)
よって、抗炎症作用としては、あくまで参考ですが、
フルチカゾンフランカルボン酸・モメタゾンフランカルボン酸>フルチカゾンプロピオン酸エステル>ブテゾニド
と考えられます。
最後に製剤形状の違いについても触れたいと思います。
フルティフォームとアドエアエアゾールのみエアロゾル製剤であり、他の薬剤はドライパウダー製剤となっています。
また日本呼吸器学会誌の資料(Topic2)に以下の記載があります。
“p-MDI製剤は局所の副作用(嗄声,口内炎,口腔内カンジダ症など)が比較的少なく、
また吸気筋力の低下のために十分な吸気流量が得られにくい高齢者や、
神経筋疾患を有する患者でも使用しやすいことが長所である。
認知症を有する患者などにおける介助者による吸入にも p-MDI 製が適している。
また粒子径が比較的小さいので、近年重要視されている末梢気道病変に対する有効性が高い。
欠点は、噴霧と吸気を同調させるのがしばしば難しく、スペーサーの使用を要する場合が多いことである。“
確かに、実際にレルベアを使用していた患者さんがフルティフォームに変更になり
理由を尋ねると「声がかれてきてしまったので」という理由でした。
同じステロイドを含む製剤でも吸入剤が変更になった患者さんに対して
「エアゾルタイプの方が比較的嗄声の副作用が少ないという報告がありますので試してみてください。」
という説明ができれば患者さんも安心されると思います。
逆に、ドライパウダー製剤のメリットとしては、
吸入時に咳が惹起されにくいことが報告されていますので、
吸入の度に咳き込んでしまう患者さんにはドライパウダーが適していると言えそうです。
アテキュラは2020年8月に発売された製剤ですが、
既存の吸入剤と比較して、効果が非常に高いわけでもなく、副作用がでにくいわけでもなく、
ブリーズヘラーが特に使いやすいデバイスというのでもなく
「どこが推しのポイントなのかなぁ」というのが正直な感想でした。
しかし、アテキュラと同時に発売されたエナジアという薬剤があり、
それにより疑問が解消されました。
エナジアはアテキュラの成分に抗コリン剤が追加された
LAMA+LABA+ICSのトリプル製剤であり、気管支喘息の適応をもっています。
ノバルティスさんとしてはこちらの製剤の方が推しなのではないか、となんとなく納得できました。
LAMA+LABA+ICSについては、これまでの製剤ではCOPDの適応しかなく、
LABA+ICSで効果不十分な患者さんには、抗コリン剤としてスピリーバレスピマットが追加処方されることがありました。
それを考えると1剤ですむならアドヒアランス向上にも役立ちますね。
参考:
日本呼吸器学会誌第3巻第2号 特集 気管支喘息診療の進歩2014
Topics2 治療の進歩1 吸入ステロイド剤
http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/003020162j.pdf
Topics3 治療の進歩2 気管支拡張剤
http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/003020170j.pdf
日本医事新報社No.4687 アレルギー性鼻炎のトータルマネージメント
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=8026
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