輝く薬剤師Vol.9はフロンティアファーマシーの前田桂吾先生のご登場です。
「医療は目的でなく手段」
「患者さんの人生の物語に向き合う」
ご自身の経験から語られるメッセージは深く、胸に刺さるものばかり。
最後まで必読です!
(インタビュアー ファーマシスタ編集長 伊川)
薬剤師を志したきっかけ
前田先生は「患者さん目線の温かい薬剤師」そんな印象を持っていますが、薬剤師を志されたきっかけは何だったのでしょう?
普通のサラリーマンの子供でしたが、10歳の時に潰瘍性大腸炎になり、入退院を繰り返し、また大腸を摘出した経験から、医療に携わりたいと思うようになりました。
当時は小児科医に憧れたのですが、数学がどうしても苦手なのと、当時、高校に指定校推薦の枠があった北里大学(母校)に臨床薬学講座ができるなど、薬剤師もベッドサイドへ行くようになっていて、「薬剤師でも自分の経験を活かして患者さんを励ますことができる」と思い、薬学部へ進学しました。
薬剤師としての軌跡
前田先生が薬剤師になられてどのようなキャリアを歩んでこられたのか、お聞かせください。
「病院での経験を活かし患者さんを励ましたい」
このようなきっかけで薬学部へ進学したので、病院薬剤師になることしか考えておらず、大学を卒業して中規模の病院に就職。調剤・製剤はもちろん、DI業務や注射の一本だし、内科・整形外科・眼科病棟の病棟業務、緩和ケア病棟への関与、褥瘡回診やNSTへの関与もさせてもらいました。
12年間病院で働く中で、一般病棟と緩和ケア病棟では患者さんの表情が異なり、緩和ケアというのはすごいな、これから必要だな、と常日頃考えていました。しかし、一般病棟の患者さんが「家に帰りたい」と言っても、その患者さんの地域に医療用麻薬をしっかりと供給できる薬局がないために、薬局を探している間に結局、患者さんを帰してあげられなかった経験もありました。
「在宅医療とは叫ばれているが、がんの末期の方も在宅に帰される時代がきっとくるはず。その際に医療用麻薬が地域にないから家に帰れない、という悲劇はなくしたい」と在宅での緩和ケアをしっかりと支えられる薬局を漠然と考えていたところ、イメージとぴったり合う今の職場と出会い、35歳も目前にしていたので思い切って転職しました。
現在の活動
現在はどのような活動をされているのですか?
今の職場に就職してからは医療用麻薬や高カロリー輸液を使っているような医療依存度の高い在宅患者さんの訪問や無菌調剤などを専門に行ってきました。現在は、事業部長として当社の5店舗ある薬局をまとめたり、スタッフを教育したりする立場です。
また、一般的な薬剤師業務とは違った仕事をしているため、大学や地域の勉強会などに講師として呼んでいただいたり、ごく一部ですが、在宅医療への薬剤師の関与に関する書籍の執筆に加えて頂いたりしています。こういった活動は、会社の理解と全面的なバックアップで行えています。
また全国の在宅緩和ケアをサポートする目的で在宅緩和ケア対応データベースというサイトを運営しています。これはお世話になっている在宅緩和ケア専門の医師や看護師より、「行政や薬剤師会の薬局データベースでは、しっかりと在宅緩和ケアをサポートできる薬局が見つかりにくいし、患者さんの残された時間を考えると薬局を探している時間がもったいない。
「多数の医療用麻薬を在庫している薬局」「訪問服薬指導や休日・夜間の対応」などを一発で探せる薬局のデータベースが欲しい」との声を受け、笹川記念保健協力財団の助成を受け、在宅医療の領域でご高名な先生方に研究班に加わって頂き、このデータベースを作成しました。
日常業務を行いながらの運営のため、まだまだ知名度不足で登録数も全国で100件に届きませんが、
「医療用麻薬の注射剤が手に入らないから家に帰りたくても帰れない」
「麻薬処方箋を持って患者さんやご家族が薬局をさまよう」
という悲劇を少しでもなくしたいとの思いで運営をしています。
やりがい
現場での在宅、スタッフの指導、また薬局外での教育など活動は多岐に渡ると思いますが、前田先生が「やりがい」を感じる時はどんな時でしょう?
在宅医療の現場で訪問をしていた当時は、患者さんやご家族がご自宅で本当に穏やかな表情をされていたり「家に帰ってきてよかった!」と言ってくださったときは、本当にいい仕事をさせてもらっているな、と感じていました。
今は、スタッフが自分の頭で患者さんの生活を考慮し、目を輝かせながら患者さんの生を全うするお手伝いを一生懸命している姿を見ることと、外部でお話しした時に、「薬剤師の仕事をしてきてもやもやしたものが、話を聞いてすっと晴れた」というような声をかけていただくと、とってもやりがいがあるな、と感じます。
一番大切にしていること
前田先生が仕事をする上で「一番大切にしていること」があれば聞かせてください。
「医療は目的ではなく、あくまでも手段」
患者さんやご家族の生活がうまくいくように薬学的なサポートを行うのであり、薬剤師が在宅に行くから○○をしなくてはならない、とか、薬剤師として正解だと思うことを患者さんに押し付けるようなことはしないようにしています。
あくまでも患者さんの生活を支える「黒子」として、「患者さんの人生の物語に向き合い、生を全うするお手伝いをしたい」というのが一番大切にしている思いですし、スタッフにも日々伝えています。
ビジョン
自分達がよかれと思ったことが、必ずしも患者さんにとってベターなるとは限りませんよね。「人生の物語に向き合う」とても大事な視点だと思います。では、前田先生の今後のビジョン、目指す姿をお聞かせください。
在宅医療、とくに在宅緩和ケアに関わる中で、病院時代の自分の仕事は医療従事者として患者さんに、医療従事者としてベストと思うことを押し付けてきたと感じます。
患者さんのお宅に伺うと、そこは文字通り患者さんのホームです。病院とは違い、患者さんは全く遠慮する必要がありません。医療は、医療従事者が満足することを目的とするのではなく、患者さんが今まで生きてこられた中で培ってきた価値観に寄り添い、黒子として患者さんの生活をサポートしていくことが大事な目的です。
そして患者さんが「いい人生だった」と満足してもらうためにサポートしていくことがこれからの薬剤師が仕事をしていくうえで必要な感性であることを訴えていきたいと思います。「薬物治療を専門職としてサポートする」というだけではなく、もっと根底に「患者さんやご家族の生活そのものを専門職として支える」という観点が必要なのではないか、と思っています。
若手薬剤師さんへ
若手薬剤師さんに向けてメッセージをお願いします。
患者さんは、私たち医療従事者を生活させるために病気で苦しんでいるわけではありません。ということは、薬剤師の免許は、私たちの食い扶持ではありません。
薬剤師免許を持っているということは、薬剤師にしかできないことをやってもいいと国から許してもらった免状です。その免許を、患者さんを苦しみから救うために、もしくは和らげるために使うのか、それとも自分の生活のための武器と思うのか、そこに大きな違いがあると思います。
薬剤師の世界だけ見れば待遇面でいろいろな不満があるかもしれません。でも一般国民からすれば、薬剤師は恵まれた人、言い換えればエリートと見えているのです。そういう人々が国民のことを考えて仕事をするのか、それとも自分の身を守ることだけ考えて生活するのか、そこにこの国の未来の大きな分岐点であると思います。
もちろん自分の生活も大事です。だから少なくとも6割以上は患者さんやご家族のために・医療のために、残りを自分の生活を考えて仕事をするところに、はじめて薬剤師免許が輝くし、国民から薬剤師は必要な職業だと認めてもらえると思うのです。
ありがとうございました!!
前田先生と仕事をしたい薬剤師・薬学生さんはコチラ
前田桂吾先生プロフィール
1997年に北里大学薬学部を卒業後、社会福祉法人賛育会 賛育会病院にて勤務。その後、在宅緩和ケアを支える薬剤師を志し、株式会社千葉薬品のフロンティア薬局に入社(現在は子会社化されてフロンティアファーマシーとなっている)
「生活を支えられる薬剤師」の育成に奮闘中。
~インタビューを終えて~
医療は医療人の自己満足になってはいけないんだ。
穏やかに、冷静にお話をされる中で、
「医療は患者さんのためのもの」
と目を輝かせてお話される姿がとても印象的でした。
患者さんに対面で向き合うのではなく、同じ目線に立って、同じ方向を向いて患者さんの生活をよくしていきたいという真摯な思いが伝わってまいりました。
前田先生のようなマインドを持った薬剤師さんが増えれば、地域の医療はより良くなるはず。僕もこの志を伝えたいと心から思いました。
前田先生、ありがとうございました!
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