CYP2C19とその遺伝子多型について

【6】CYP2C19を誘導する薬剤・サプリメント

 

【6-1】CYP2C19を誘導する薬剤

CYP酵素の誘導は、薬物相互作用においては、CYP酵素阻害と共に大変重要な位置を占める。

CYP2C19を誘導する薬剤としては、

  • リファンピシン(リファジン)
  • フェニトイン(アレビアチン)
  • フェノバルビタール(フェノバール)
  • シメチジン(タガメット)
  • リトナビル(ノービア)

などがある(表3)(4,18)

それらの中で、リファンピシン(リファジン)、フェニトイン(アレビアチン)、フェノバルビタール(フェノバール)は、CYP2C19を誘導する他、CYP2C9、CYP3A4をも誘導する。

このため、これらの誘導剤は、ワルファリン(ワーファリン)、シクロスポリン(ネオーラル)、ジアゼパム(セルシン)、ニトラゼパム(サイレース)、ジゴキシン(ジゴシン)、メキシレチン(メキシチール)、テオフィリン(テオドール)等多くの薬剤の代謝を亢進させるので、注意が必要である(4,18)

【6-2】CYP2C19を誘導するハーブ

ヨーロッパから中央アジアに広く分布する多年生植物の西洋オトギリソウ(セントジョーンズワート)の成分を含む食品やサプリメントが、抗うつ効果や、精神賦活効果があるとしてとしてヨーロッパでは古くから用いられている。この植物成分が種々の薬剤の誘導剤になることは知られているとおりである(27)

その有効成分は、ハイパフォリン及び、ピペリシンである。

西洋オトギリソウ(セントジョーンズワート)は、CYP2C19の他、CYP3A4、CYP1A2等のCYPの多くの分子種を誘導する(27)

【6-3】CYP2C19を誘導するメカニズム

CYP酵素誘導剤は、当該酵素を発現する遺伝子の調節因子(転写因子)を活性化させることによってもたらされる。

西洋オトギリソウの成分の一つであるハイパフォリンは、ヒトPXR(転写因子プレグナンX受容体)のリガンド(受容体に結合する物質)となる (18)。  

リファンピシンの転写因子受容体PXR及びフェニトインの転写因子受容体CAR(恒常的活性化アンドロスタン受容体consititutively active /androstane receptor)は、誘導剤の結合により活性化されると、細胞質から核に移行してレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成して、プロモーター配列に結合し、標的遺伝子の転写を亢進する(18)

転写因子CARを活性化する誘導剤に比べて、転写因子PXRを活性する誘導剤(物質)は、リファンピシン、フェニトイン、フェノバルビタール、西洋オトギリソウ(ハイパフォリン)、リトナビル等があり多岐にわたる(表3)。
したがって、PXRの活性化は酵素誘導を介した薬物相互作用の主要な原因となっている(18)

表3 CYP2C19を誘導する薬剤

誘導剤の薬効分類 誘導剤 転写因子
抗菌剤 リファンピシン
(リファジン)
PXR
抗てんかん剤 フェニトイン
(アレビアチン、ヒダントイン)
フェノバルビタール
(フェノバール)
CAR/PXR
H2阻害剤 シメチジン
(タガメット)
サプリメント 西洋オトギリソウ
(セントジョウンズワート)
PXR

注)
PXR:異物応答性の転写因子: プレグナンX受容体(Pregnane X Receptor)

CAR:恒常的活性化アンドロスタン受容体(Constitutively Active/Androstane Receptor)

【7】遺伝子多型を考慮した薬物相互作用

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(2014)(28)」には、遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の医薬品開発研究における注意事項が要約されているので、その中に記載されているCYP2C19に関するものを抜粋する(28)

CYP2C19 は東アジア人で活性欠損者の頻度が高い。

このため,これらの分子種がクリアランスの主要経路である被験薬については、東アジア人を対象とした試験と東アジア人以外を対象とした試験の結果を比較考察する場合に遺伝子多型に注意が必要である。

特に,CYP2C19 の活性欠損者において薬物相互作用の程度が大きいと予想され、臨床的に問題となる可能性がある場合には遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の検討を目的とした臨床試験を追加することが有用である。

遺伝子多型を考慮した臨床試験の実施に際しては、活性欠損者の血中濃度は高値となることが予想され、被験者の安全性に最大限配慮する。また,薬物相互作用に影響を及ぼす可能性を、in vitro 試験の成績等に基づき、モデリングとシミュレーションにより検討することも有用である。

遺伝子多型を考慮すべき薬物相互作用の例として以下がある。  

CYP2C19 で主に代謝されるボリコナゾールは、CYP2C19 の活性欠損者では、代替経路である CYP3A の阻害薬の併用で顕著に全身曝露が増大する。  

CYP2C19以外の酵素では、CYP2D6、CYP3A5,UGT1A1,OATP1B1(SLCO1B1)(Organic Anion Transporting Polypeptide1B1),BCRP(ABCG2)(Breast Cancer Resistance Protein)などの分子種でも,遺伝子多型によりクリアランスが変化すること、及びこれらの機構について記載されている(28)

【8】まとめ

1. CYP2C19は、約10%の医療用薬剤を基質として代謝につかさどる。
日本人の約20%にCYP2C19の遺伝子多型の人があり、多型をもつ人のCYP2C19の活性は低下している。

2. CYP2C19の遺伝子多型により生じたCYP2C19活性欠損者は、クロピドグレル(プラビックス)の服用で活性体になる率が低く抗血小板効果が十分に得られない。
また、CYP2C19活性欠損者は、抗マラリア剤マラロンの服用でも抗マラリア効果が十分に得られない。

3. CYP2C19の多型とは無関係に、オメプラゾール、ランソプラゾール等のプロトンポンプ阻害剤とクロピドグレルを併用すると、クロピドグレルの代謝が阻害され、抗血小板効果が十分に得られない。
クロピドグレルの代わりにプラスグレルを用いるか、オメプラゾールの代わりにラベプラゾールを用いることでこのようなことを解消できる。

4. ジアゼパム、ワルファリン、フェニトイン、シロスタゾール等のいずれかと、オメプラ ゾールの併用でも、オメプラゾールによるCYP2C19の阻害効果のために、これらの薬剤の代謝が阻害される。
フルボキサミン(デプロメール)は、CYP2D6により代謝されるが、CYP2C19及びCYP1A2を強く阻害する。

5.ボリコナゾールをCYP2C19欠損者に用いた場合、CYP3A4阻害剤(ジョサマイシン、クラリスロマイシン、イトラコナゾール、シクロスポリン、フルボキサミン)又はCYP2C9阻害剤(フルバスタチン、ベンズブロマロン、フルボキサミン、メトロニダゾール、スルファメトキサゾール)との併用により、ボリコナゾールの全身暴露が顕著に増大する。

6. 薬物相互作用において、CYP誘導剤は、CYP阻害剤と共に重要である。
CYP2C19を誘導するものには、リファンピシン(リファジン)、フェニトイン(アレビアチン)、シメチジン(タガメット)、セントジョーンズワートがある。

7.CYP誘導剤は、CYP酵素蛋白を発現するPXR、CARなどの転写因子に結合することにより転写を活性化させて各種CYP酵素蛋白の発現を誘導する。

参考文献
1. Kurose K. E.Sugiyama and Y. Saito, et al. Drug Metab. Pharmacokinet., 27, 9-54. 2012.
2. Minami H., Sai K., Pharmacogenetics and Genomics, 17(7):497-504(2007)
3. 前川京子、佐井君江.国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学 薬物相互作用に影響を及ぼす遺伝子多型とその人種差。ファルマシア、Vol.50.No.7 669-673, 2014.
4. Geno Scan http://www.geocities.jp/genoscan/cyp2c19.html  
5.久保田隆廣、千葉 寛、伊賀立二、CYP2C19、CYP2D6およびCYP2C9の遺伝子多型と人種差。薬物動態。Xenobio. Metabol. Dispo. 16(2): 69-74. (2001)
6. 加藤芳伸、小川 廣。2009.Hokkaido Inst.Pub. Health,59、91‐95(2009) Genetic Polymorphism on Cytochrome P450 2C19 (CYP2C19) in Japanese Families
7. おくすり遺伝子検査(CYP2C19)について:www.e-b-s.co.jp/company/setsumei-cyp/
8. エフィエント添付文書
9. ネキシウム インタビューフォーム (アストラゼネカ 2.5.5.4.3 第37頁)
10. パリエットインタビューフォーム 
11. ジアゼパム インタビューフォーム、p23
12. トフラニール添付文書
13. アナフラニール 添付文書
14. アレビアチン添付文書
15. ブイフェンド添付文書
16. ボリコナゾール添付文書
17. マラロン配合錠添付文書
18. 吉成浩一、薬物代謝酵素がかかわる薬物相互作用、ファルマ、50.No.7 654-658.2014.
19. 吉成 浩一、薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)134,285~288(2009)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その3)代謝⑤     チトクロムP-450の阻害に基づく薬物相互作用
20. 医薬品安全性情報vol7.No.25. p5. (2009/1210)
21. Medical.net/news/20110406/15937/Japanese.aspx. 武田ファーマシュウティカル ズノースアメリカ株式会社
22. オメプラゾール添付文書
23. デプロメール添付文書
24. 古川陽介ら(九州大学)、Original「臨床研究」心臓vol43(No12) p1515‒1520.(2011)
ワルファリンとプロトンポンプ阻害薬の薬物相互作用
25. 桐野友子、緒方敦子ら(鹿児島大学病院 霧島リハビリテーションセンター薬剤部)
CYP2C19遺伝子多型によるフェニトイン中毒の脳卒中片麻痺の例。Jap. Rehabil Med. 2008, 45:617‒‒622.
26. フルコナゾール添付文書
27. 厚生労働省、 医薬品安全局安全対策課 報道発表資料 H12,5,10. http://mhlw. go.Jp/ 「セントジョーンズ・ワート(西洋トギリソウ)と医薬品の相互作用について」
28. 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」 2014. 厚生労働省医薬食品局審査管理課

この記事を書いた人

松本 建介(まつもと けんすけ)

京都薬科大学卒業
同校大学院修士課程修了(微生物学)
岡山県出身

第一製薬(株)入社・研究所勤務(薬理研究部、抗菌剤、抗がん剤の探索・開発研究:知的財産部)
博士号取得(北海道大学理学部:免疫学)
研究開発、知的財産部を経て退職。

広島大学勤務、特許法等講義、現在、調剤薬局勤務薬剤師。 
国際中医師免許、漢方生薬認定薬剤師。

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