CYP2C19とその遺伝子多型について

【4】CYP酵素阻害剤の阻害様式について

CYP阻害剤の阻害様式には次の3タイプがある(18,19)

ⓐある特定のCYP分子種で代謝される複数の薬物が基質結合部位を競合することで起こる競合阻害
ⓑ薬物中の窒素原子を含む複素環がCYPの活性中心に存在する鉄に配位する分子種非特異的な阻害
ⓒCYPの触媒作用で生じた代謝物がCYPと不可逆的に反応して複合体を形成することでCYPを不活性化する不可逆的阻害

ⓐの例としては、例えば、複数の薬剤が、同じ分子種のCYP酵素で同時に代謝されるときに、その同じCYP酵素の取り合いとなり、親和性の低い薬剤の代謝が遅れ、その結果、親和性の高い基質が阻害剤として、親和性の低い薬剤の反応を阻害する場合である(18,19)
ほとんどのCYP2C19阻害の場合がⓐの場合に該当する。

ⓑの例にとしては、イミダゾール環をもつシメチジン(タガメット)、アゾール系抗真菌剤のケトコナゾール(ニゾラール)、フルコナゾール(ジフルカン)等はP450の活性中心であるヘム鉄へ配位結合する非特異的な酵素阻害の場合である(18,19)

ⓒの例としては、マクロライド系抗生物質エリスロマイシンがCYP3A4で代謝されてできる分解物(ニトロソアルカン)がCYP3A4のヘムと不可逆的に結合して選択的に酵素を阻害する場合である。
同じ様式の阻害剤には、カルバマゼピン(テグレトール)、シクロスポリン(ネオーラル)等がある(18,19)

 

【5】CYP2C19阻害する薬剤 

CYP2C19を阻害する薬剤には、オメプラゾール (オメプラール)、ランソプラゾール (タケプロン)、ボリコナゾール(ブイフェンド)、フルコナゾール(フルコナゾール)、フルボキサミン (デプロメール、ルボックス)等がある(表2)。

表2 CYP2C19を阻害する薬剤

薬効分類 CYP2C19を阻害する薬剤
プロトンポンプ阻害薬 オメプラゾール (オメプラール)
ランソプラゾール (タケプロン)
抗真菌薬 ボリコナゾール(ブイフェンド)
フルコナゾール(フルコナゾール) (一部)
向精神薬 フルボキサミン (デプロメール、ルボックス)

一部: 基質の一部がCYP2C19により阻害される

【5-1】CYP2C19を阻害する薬剤 プロトンポンプ阻害剤

オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤がCYP2C19で代謝されることを前述したが、同じプロトンポンプ阻害剤がCYP2C19を阻害することに疑念をもつかもしれない。

しかし、CYP2C19の基質となる他剤とオメプラゾールを併用するときは、オメプラゾールがCYP2C19の阻害剤となる場合が多い。ただし、オメプラゾールよりCYP2C19と親和性の強い薬剤(例:ブイフェンド)の併用であれば、ブイフェンドがCYP2C19の阻害剤となる。

例えば、プロトンポンプ阻害剤と抗血小板薬クロピドグレル(プラビックス)の併用については、両薬剤を服用する患者が多いため相互作用を理解することは重要であるので、この例で説明する。

これについては、併用しても影響がないとする報告、併用は要注意であるとする報告など多くがあるが、その中で最も信頼性のあるものを取り上げて説明する。

プロトンポンプ阻害剤としては、オメプラゾール(オメプラール)、ランソプラゾール(タケプロン)又はエソメプラゾール(ネキシウム)のいずれかをクロピドグレル(プラビックス)と併用した場合、一方の薬剤が他方の薬剤の阻害剤となっている(前述ⓐの例)。

この場合、オメプラゾールなどのCYP2C19と親和性の強い薬剤(プロトンポンプ阻害剤)が酵素と優先的に結合するため、親和性の低いクロピドグレルとCYP2C19の酵素反応が遅れ、クロピドグレルが活性体へ代謝される反応が阻害される。

FDA(米国食品医薬品)ではSanofi-Aventis(クロピドグレルの開発元)とBristol-Myers Squibb社からの提出データを分析し、クロピドグレルを活性体に代謝するCYP2C19をオメプラゾールが阻害すると判断して次のことを発表した。

オメプラゾールとクロピドグレルを併用したとき、クロピドグレル代謝物を45%、抗血小板作用を47%減少させた。
これは、同時投与でも同時でなくても(12時間あけても)影響に変化がなかった、このことをFDA(米国食品医薬品局)は注意事項として挙げており、また、わが国の医薬品安全性情報にも掲載されている(20)

また、欧州医薬品庁も2010年3月にプロトンポンプ阻害剤オメプラゾールとクロピドグレルの併用は避けるべきとの安全性情報を公表している。

以上から、クロピドグレルとオメプラゾール又はランソプラゾールを併用すべきではないことは明白である。

エソメプラゾール(ネキシウム)とクロピドグレルの同時投与では、オメプラゾール(又はランソプラゾール)とクロピドグレルの同時投与よりも、クロピドグレルの効果の減少は、少ないという報告もある(21)

しかし、ネキシウムのインタビューフォームでは
「発現系CYP2C19及びヒト肝ミクロソームを用いたin vitro 試験において、エソメプラール(濃度:10~100μM)は CYP2C19 の活性を阻害した(Ki値:7.9 及び 8.6μM)」との記載があるので、エソメプラゾールにもかなりの程度、クロピドグレルへの阻害作用があるので、エソメプラゾールもCYP2C19の良い基質になる。

したがって、抗血小板薬とプロトンポンプ阻害剤の併用では、抗血小板薬をクロピドグレルではなく、プラスグレル(エフィエント)を使用することは対策の一つとなろう。

また、プロトンポンプ阻害剤をラベプラゾール(パリエット)へ変更することも有用かもしれない。

ラベプラゾールは、一部で、CYP2C19により脱メチル体に、一部でCYP3A4によりスルホン化体に代謝されるが、大部分は非酵素的にチオエーテル体に変化するため、CYP2C19による影響を受けにくいからである(10)。  

オメプラゾールは、CYP2C19で代謝される薬剤であるジアゼパム(セルシン)、ワルファリン(ワーファリン)、フェニトイン(アレビアチン)に対しても相互作用が認められる。

例えば、オメプラゾールとジアゼパムの併用では、両薬剤がCYP2C19で代謝されるので、競合阻害となる。
実際、ジアゼパム(セルシン)のクリアランスは、オメプラゾールとの併用(経口)により、27~55%減少する(11)

同様に、ワルファリン(ワーファリン)、フェニトイン(アレビアチン)、シロスタゾール(プレタール)等の3種の薬剤の代謝は一部CYP2C19により代謝を受けるため、これら3剤のいずれかとオメプラゾールを併用すると、それらの薬剤の血中濃度を高めて、薬剤の作用を強める。

これは、結果的にオメプラゾールがこれらの薬剤のCYP2C19による代謝を阻害し、排泄を遅らせているためである。

また、ラベプラゾールは、これら3剤(ジアゼパム、ワルファリン、フェニトイン)のいずれかとの併用でもCYP2C19への代謝競合による相互作用は認められず、血中濃度に影響を与えないようである(10)

【5-2】CYP2C19を阻害する薬剤 抗うつ薬フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)

主としてCYP2D6により代謝される薬剤フルボキサミンマレイン(デプロメール)は、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4を阻害するが、特に、CYP1A2、CYP2C19への阻害作用が強い(23)

【5-3】CYP2C19を阻害する薬剤 抗真菌剤ボリコナゾール(ブイフェンド)

CYP2C19、CYP2C9、CYP3A4により代謝される真菌薬ボリコナゾール(ブイフェンド)は、CYP2C19、CYP2C9、CYP3A4への阻害作用を有している(15)(表2)。

オメプラゾールは、本剤(ボリコナゾール)との併用によりオメプラゾールのCmaxが、2.2倍、AUCが3.8倍増加している(15)

これは、ボリコナゾールがオメプラゾールの代謝酵素CYP2C19、CYP3A4を阻害するためである。

ボリコナゾールは、上述のように、CYP2C19を阻害する他、CYP3A4やCYP2C9をも阻害するため、同剤と併用禁忌・併用注意となっている薬剤が多い。

つまり、ボリコナゾールと併用禁忌になっている薬剤には、トリアゾラム(ハルシオン)、カルバマゼピン(テグレトール)、バルビタール(フェノバール)などがあり、

ボリコナゾールと併用注意となっている薬剤には、ビンクリスチン(オンコビン)、シクロスポリン(ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ)、イブプロフェン(ブルフェン)、ジクロフェナク(ボルタレン)、ワルファリン(ワーファリン)、イブプロフェン(ブルフェン)などがある(15,16)

ボリコナゾールをCYP2C19の遺伝子多型である活性欠損者に用いた場合、CYP3A4阻害剤(ジョサマイシン、クラリスロマイシン、イトラコナゾール、シクロスポリン、フルボキサミン)又はCYP2C9阻害剤(メトロニタゾール、フルバスタチン、スルファメトキサゾール、ベンズブロマロン、フルボキサミン)との併用で、ボリコナゾールの全身暴露が顕著に増大するので要注意である(28)

フルコナゾールも一部CYP2C19を阻害するが、同剤は、主としてCYP3A4を阻害する(26)

この記事を書いた人

松本 建介(まつもと けんすけ)

京都薬科大学卒業
同校大学院修士課程修了(微生物学)
岡山県出身

第一製薬(株)入社・研究所勤務(薬理研究部、抗菌剤、抗がん剤の探索・開発研究:知的財産部)
博士号取得(北海道大学理学部:免疫学)
研究開発、知的財産部を経て退職。

広島大学勤務、特許法等講義、現在、調剤薬局勤務薬剤師。 
国際中医師免許、漢方生薬認定薬剤師。

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